周囲の認知度と心理的安全性と未来について

先日ツイートされてきていた記事から少し考察してみた。
厚労省が国の事業として初めて職場のLGBTに関する実態を調査したというものだった。

表題になっている「困りごと」ではなくて、周囲にどれくらい認知されているかと、それによって当事者の心理的安全性が高まるかの観点で見てみた。

なお、LGBTのカテゴライズの中では私はTに属する(厳密にはたぶんBTなのだけれど)ので、あくまでTの当事者視点での考察ということで。

着目したのは、以下の二つのアンケート結果だった。

①職場におけるカミングアウト割合
 レズビアン      8.6%
 ゲイ         5.9%
 バイセクシュアル   7.3%
 トランスジェンダー 15.3%
  
②社内にLGBTの当事者がいることを認知しているか
 いないと思う        41.4%
 わからない         29.9%
 認知していないがいると思う 13.4%
 認知している(実際にいる) 13.4%

①は当事者がどの程度みずからオープンにしているかを調べたもの、②は当事者のまわりの人たちがどれくらい知っているかを調べたものとしてよいと思う。

①では、LGBとTのカミングアウト割合に大きな差が見られる。
これは、LGBに比較してTの方が社会的に認知度が高いから当事者がオープンにしやすい環境にある・・などのポジティブな理由からではなく「必要に迫られて自発的にやむを得ず」というところがあると思われる。

この記事が言及している厚労省の実際の調査結果が公開されている

そのうちの「Ⅳ.労働者アンケート調査」の P.159〜160「② いまの職場で自身が性的マイノリティであることを伝えた理由やきっかけ」にその裏付けとなる記載がある。

まず、p.159 の「図表Ⅳ- 64 いまの職場で自身が性的マイノリティであることを伝えた理由やきっかけ:複数回答(Q31)」では、以下の結果が出ている。(割合が高いもののみ記載)

職場の人と接しやすくなると思ったから  43.8%
  
ホルモン療法や性別適合手術を受ける
ことになった(受けたくなった)から   37.5%
  
トイレや更衣室など
施設利用上の配慮を求めたかったから   31.3%

また「アウティング・カミングアウトの強要があったため」と回答した人が0%だったので、これは自発的にということになる。
さらに、p.160の『回答が「その他」の場合の自由回答』に以下の記載があった。

性別を移行することで外見が大きく変化したため、正しく理解してもらうのが必要不可欠だった【トランスジェンダー】
ホルモン治療をして、見た目は男性なので男性として働かないと逆に違和感があるし、周りも戸惑う【トランスジェンダー】

これらをまとめると「身体や外見の変化を伴うために、職場での理解と物理的な支援が必要不可欠になったから」という理由づけることができよう。

②の結果については、当事者の感想としては「非当事者の認知度ってあいかわらず低いなー」と感じざるを得ないところがある。
おそらく、当事者は他の当事者にはオープンにしていることが多く、当事者が数多くいる実在することを知っていて認知度がだいぶ高いから、そのあたりの感覚に大きなギャップがあるのだと思う。
言うまでもないことかもしれないけれど、当事者からオープンにされないと認知されないといういう側面が多分にあるため、①と②には大きな相関関係がある。

ただ、トランスの場合は大きく分けると「知られたくない人」と「知ってもらう必要がある人」に二極化すると思う。

前者は「埋没」といって、元から自認する性別で社会生活を送っていて、当人がカミングアウトしなければ周囲が気がつかない人なので、あえてオープンにしてほしくない、または、する必要がない人。
アンケート①での割合を下げる因子で、アンケート②での「いないと思う」「わからない」が多い方が安心するのかもしれない。

後者は、私のように性別移行の途中だったり、これから性別移行する予定の人で、周囲の理解やサポートが必要な人と、オープンな状態ですでに性別移行した人の一部。
アンケート①での割合を上げる因子で、アンケート②での「認知していないがいると思う」「認知している」が多い方が将来的な心理的安全性が高まる可能性がある。

社会での認知度や理解が少しずつだけれど上がっているという昨今の傾向が続くとしたとき、未来にまた同じアンケートをとったとすると、これらの結果はどうなるだろう?

①のカミングアウト割合が上がり、②の認知度が高まると思った人。
あなたは優しくて慈しみの心に満ちた人かもしれませんね。(私は好きですよ♪)

楽観論は好きではないけれど、私なりの根拠に基づく未来予測は明るいものだ。

最近は、小中学校あたりからすでにLGBTについて学び、当事者・非当事者が理解し差別ないようにするという教育がされていると聞く。(そのあたりの生の声をあまり聞く機会がないので実際の浸透度合いはわかりかねるところはあるけれど)

また、職場でのLGBT研修なり、実際に当事者と共に働くという非当事者(もちろん当事者も)の経験なりが、その人たちの子供への教育という形でフィードバックされるだろう。
その意味でも、職場での理解や認知の高まりが必要不可欠なように思える。

教育現場と職場の双方での性的マイノリティーへの理解への取組みが相乗効果的に社会全体としての理解を促進すると思う。

そして、若い世代が成長し社会に出ていくころには、だいぶ良い方向に世間の理解が深まっている可能性があり、その場合は当事者の心理的安全性も高まり、カミングアウトする人の割合も認知度も上がるだろうと思う。

その先に、当たり前のように身近に当事者がいるという前提で社会が成立していれば、先述の「知ってもらう必要がある人」にとってはもちろん、「知られたくない人」にとっても明るい未来になると思う。

そんな未来がそう遠くないうちに実現して、私のように幼い頃から周囲に相談できずにひとり孤独に悩み苦しみながら生きる子供たちや若い人たちがいなくなることを切に願っている。


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