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春になれば


ひとめ逢いたくて見上げた空は
涙越しに映る世界に似ていた

次の雨粒が傘に落ちるまでのわずかな時間でさえ
私は前に進んでいる
後退していることなんて、この世に無いのではないか
不安や寂しさなど自分で作り出したものに過ぎない

肩を静かに濡らす優しさ、服を染めていく暖かさは
大きな傘では気づかなかっただろう
それは激しく冷たいものだと、決めつけていたのは私だ


時間が、季節が、確実に未来へと流れていることを
すこしでもはやく受け入れたくて
もうすぐ逢えると信じたくて
走りだしていた



今にも雫がこぼれ落ちそうになりながら
私を待っている姿は
青空の下で見るよりもずっと、強く、美しかった
私の心に寄り添い、様々な憂いを洗い流してくれた


たくさんの雨粒を背負いながらも
崩れることなく待つことが出来たのは
その雨が優しく、暖かいから

逢うたびに、時間や季節の尊さに気づく
この瞬間は永遠ではなく、
いずれは地に帰ってしまう


『明日からの支えを失った私はまた、
 冷たい雨にうたれる』


そう自覚したとき、
わずかの間あらわれる永遠のような夜は
いつまで経っても慣れることはなく、嫌いだ




今日はだいぶ歩いたが
昨晩よりも心が整っている
無理して青空でいる必要はない

ときには涙を溜めながら、ゆっくりと言葉を綴る


それまでは
そのときまでは
じっと耐えるのだ


春になれば
また
きっと逢えるから










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