ショートショート28 『偏見→偏見→偏見』

『偏見→偏見→偏見』


自分で言うのもなんだが、俺は多分、真面目だ。

好きな人としかそういう、その、いわゆるそういう事はしたくないし、コンパというか飲み会みたいなのも苦手だ。

出会いなんてものは、なんて言うかこう、自然で純然であるべきだ!

というスーパー童貞スローガンをかかげているうちに気づけば26歳。
おいおい。
思い描いてた未来と違いすぎて、開いた口を塞ぐのも疲れる日々。
なんでだ。
なんで誰も19歳くらいの時に
ソノスローガンキケンデスヨオニーサン
と一言教えてくれなかった。
いや、俺が聞く耳を持っていなかったのか。

だからって今、別に諦めて腐ってる訳じゃあない。彼女はいつだって欲しい。
だから身なりには気を使ってるし、テレビなんかで毎回好きな男の上位にあがる清潔感というやつは気にして過ごしている。

でもさ 、過ごしているだけじゃ、しょせん過ごしてる止まり。
過ごすだけなら童貞でもできる。

なので、流石の俺もこうして今、友達に人数合わせで誘われた苦手な飲み会に参加してしまってる訳で。


よーし。がんばらないと。


ただ問題があるとすれば、この26年間で培ってしまった異性に対する理想像だけは膨らみに膨らんで、色眼鏡でしか女子を見れなくなってしまっていること。

どうせ遊んでんでしょあなたは。とか。
どうせパパ活してんだろ君は。とか。 
俺と同じくらい純粋な女子はもういないでしょ。とか。

そんなふうに色眼鏡の度数がどんどんどんどん強くなり牛乳瓶の蓋よろしく、特に初対面の女子に対しては、まずは偏見のレンズでしか見れなくなってしまっていた。


分かっている。
良くない。
偏見は良くないぞ 。
なるべく偏見を無くしていかないと。
出会えるものも出会えなくなる。


そして今、目の前に座っている、いかにも飲み会好きそうなクラブ通ってます系女子が、枝豆をほおばりながら年齢なんて聞いてくる。 
ああ、また偏見から入ってしまった。



「に…26歳だよ」


飲み会好きそうなクラブ通ってます系女子
「へ~!そうなんだ見えないね!もっと若いかと思ってたよ。25とか?変わんねー!アハハハ!ウケル!」



「そ、そう。ははは。そ、そっちは何歳?あ、だめだねこんなの聞いたら」


飲み会好きそうなクラブ通ってそうなうるせー女子
「いや大丈夫だよ!私24歳!なにお兄さん真面目?アハハハ!せっかくの飲み会なんだから盛り上がろうよ!」



「そうだね、ごめん。こういう飲み会あんまりしたことなくて…。クラブとかも行った事ないしさ」


飲み会好きそうなクラブ通ってそうなうるせー女子
「あ、そうなんだね。クラブは私も全然行かない。ちょっと苦手なんだよね~。音がうるさいとか、ナンパ多いとかでさ」



「あ、そうなんだ。てっきりすごい好きなのかと」


飲み会好きそうなクラブは行かないうるせー女子
「アハハハ。よく言われる。でも私こう見えてって自分で言うのもなんだけど割と真面目なんだから!付き合ったりしたらほんと一途!浮気とかも一回もしたことないし」



「ほんとに?ごめん。けっこう遊んでたりするのかなあと」


飲み会好きそうな意外と真面目かもしれない明るい女子
「ちょ、ストレートだね!ははは!ほんとだよ!よく見た目で判断されちゃうけどさ。こんな感じが好きなだけなのよ。元カレにも浮気してんだろとか勝手に疑われて。ほんとにしてないのにだよ?」



「あー、そうなんだ。大変だったねそれは」


飲み会好きそうな一途な明るい女子
「そうだよ。それでさ結局私が浮気されてるんだよね…もう疲れちゃったよ」



「そっか。俺も浮気とかほんとに分からない。恥ずかしい話、経験もあまり無くて…。今は、か、彼氏はいないの…?」


飲み会好きそうな一途なかわいい女子
「恥ずかしくなんかないよ!大丈夫だよ!彼氏はいないよ?でもさ、出会いもないしさあ。だから飲み会は来るけど。てか、こんなこと言うのもアレだけど、飲み会に来る男女でほんとに真面目な人ってほぼいないよねえ。だってほんとに真面目な人はそもそも来ないし」



「分かる。すごい分かる。俺もさ、飲み会でそんないい出会いなんてないだろって思ってて。でもずっと出会いなかったから…きょ、今日初めての飲み会なんだ」


飲み会に一応来た実は真面目な女子
「え。そうなんだ。マジで真面目な人だ!ウケるね。私も真面目。アハハハ」



「そうだね。偏見ってよく無いね。はは。あははは」


飲み会で出会った好きになりそうな女子
「いい出会いあるといいねお互い~」



「うん。いや、それなら、もう……」


飲み会で出会った好きな女子
「ん?なんて?」



「いや、良かったらさ、また2人でも…」


飲み会で出会った運命の女子
「ん?」



と、そのタイミングで個室居酒屋のドアが勢いよく開けられる。 




「遅れてごめんー!おお!盛り上がってるねー!」



「あ」


俺を飲み会に誘ったイケメン友達
「おー!来てくれたか!どう?楽しんでる?」



「まあ、うん。おかげさまで」


俺を飲み会に誘ったイケメン友達
「良かった良かった」


飲み会で出会った運命の女子
「あー!遅いしー!ほらここ隣席空いてるよ!」


俺を飲み会に誘ったイケメン友達
「おお、サンキュー」


飲み会で出会った運命の女子
「今日知ってる人いなくて不安だったよ!ビールでいい?」


俺を飲み会に誘ったイケメン友達
「おー!たのむー」


飲み会で出会った運命の女子
「ビール一つお願いしまーす!…あ、ごめんごめん話の途中だったよね?なんだっけ?」



「いや、大丈夫だよ。大丈夫」


飲み会で出会っただけの女
「そっか…まあせっかくだし飲もうよ今日は!」


結局ね。
結局こんなもんだよ。
偏見は良くないけども。
いや、全然悪い人ではなかったけども。
危ない危ない。
やっぱ飲み会でそんな上手い出会いがある訳じゃない。ふう。


それから、何とか初の飲み会をこなし終電で帰る時間となった。


さて、二軒目がどうとかみんな言ってるが、帰ろう。
うん。いても仕方ないだろう。
なんだか疲れたな。
こんな頭の固い自分が嫌になる瞬間だ。





さて、二軒目どうしようかな。
あれ、あの人帰っちゃうのか。
あんまり後半話せなかったな。
慣れてない感じだったし。
ほんとに真面目な人っぽかったぞ。
今時飲み会にいるんだなあんな人。
飲むと調子乗っちゃうからな私。
気使わせちゃったかな。

んーーー。よし。




「ねえねえ、帰るの?連絡先だけ交換しよ?」

飲み会で出会った久しぶりにすごく気になる男子
「え?う、うん!」





~文章 完 文章~






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