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ショートショート53 『夢って結局覚えてないよね~』

夢を見てる最中に、ああこれは夢だな、って自分で気づく瞬間はないかい?
俺さ、昔から割とそのタイプなんだけど。


例えば今、目の前で部長が耳をふさぎたくなるほどの説教をしてきている。だがこれは夢だと今、分かっている。見分け方は何だろ。妙に現実味が無く、自分のドキュメント映画を俯瞰で見ている感覚というか。なので心の底からは怖くない。
そして夢というのはストーリーに脈絡がない。説教中に急によそ見する俺。本来ならあり得ない。うん。これは夢だ。


遊園地にいた。夢が急に場面展開した。これは夢あるあるだ。ほんとに脈絡も構成もあったもんじゃあない。しかも相手はあまり話したこともない社内の愛しのマドンナ橋山ちゃんと。あり得ない。これは“当たり”の夢。人気のジェットコースターが一時間待ち。並んでいる間、ずっと橋山ちゃんと手を繋いでいた。そんなこともできる。夢だから。これは覚めないでほしい。うわあ。最高。


10年くらい会ってなかった同級生の芝原と昼飯を食べている。お互い漫画を読みながら。ああ、懐かしいなこの感じ。10代の頃、こいつとよく漫画がたくさんある喫茶店でだらだらしてたっけ。ミュージシャンになる夢を叶え疎遠になっていた芝原。久々に会ったのにあの頃と変わらないな俺たち。晩飯もそのまま芝原と食べようと約束した。六本木にお勧めの寿司屋があるらしい。親友はいつ会っても親友だな。


藤田ニコルから、みんなで飲みに行きませんか?とLINEがくる。残業があるから厳しいかもです。普通に断る。頑張ってね~とスタンプがくる。ありがとう~とスタンプで返す。たまにある。芸能人と普通に友達パターンの夢。そこまで藤田ニコルのファンな訳でもないのに。こういう夢を見たおかげで、深層心理では好きだったのかもと気になる。


車を運転している。すごいスピードでとばしている。危ない危ない。ブレーキがきかない。夢だと分かっているのにしっかり恐怖はついてくる。“ハズレ”の夢。ただただ怖い。ガードレールに突っ込む。身体が宙を舞う。地面に叩きつけられる。しんど。そしてこういう夢の後は大抵びっくりして目が覚める。



「うう…ん…うんんっ…!はぁ…。なんか怖い夢見たような…。え。え、え?」
何時だ!?しまった!
ヤバいヤバいヤバい。
今日は大事な商談の日なのに!

会社に着く。部長に大目玉をくらった。
辛辣な言葉を投げ掛けられる。もちろん俺が悪いんだけど。長い。辛い。消え入りたい。
あ。高層ビルの窓掃除をしてる人がいる。大変そうだけどああいう仕事なら人間関係のストレスとかはないのかな。

唯一の救いは、その説教を見るに見かねたマドンナの橋山ちゃんが、大変でしたね、とお茶をくんでくれたこと。優しいな。勇気出してデートにでも誘ってみるか。





~文章 完 文章~


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