北京から天津―新型コロナ警戒下の移動の記録

北京から天津往復

1. はじめに
5月中旬の平日、天津へ日帰りで出かけた。感染の沈静化により4月末に北京・天津・河北省間の移動が解禁されたことを受けてのことである。

そのときの様子を、いろいろとめんどうくさかった経験を中心に綴る。文章は自身の記録のためと、北京に在住する知人が鉄道で移動するときの参考のために書いたもので、健康コードやその他の北京および中国での生活に関する追加の情報を補わないとわかりにくいところもあるかもしれない。

事実関係の部分について、わからないところ、知らないところがあり、文章中に推測を含む。それらの部分については、そうであることがわかるよう、努めて「かもしれない」という推測の表現や、「?」の記号を敢て用いるなどして記述する。

※3.から10.までの記述は基本的に時系列にもとづく。
※15.と16.はめんどうくさいの反対で、便利だったこと。

2.旅程など
旅程:高速列車で天津へ。天津では先ず、イタリア街へ。その後、南市食品街と古文化街を訪問。帰りは高速鉄道を逆ルートで北京に戻る。

北京の天気は曇りで、傘を携帯する。天津は晴れ、気温は暑すぎるということはない。


3.北京南駅
北京南駅発9時50分の和諧号で天津に向かう。北京地下鉄14号線から高速鉄道駅の地上階に上がる。2階フロアに上がるエスカレーターの前で検問がある。検問の列に並ぶときは前の人と1メートルの間隔を空けるのはどの場所の列でも同じ。スマホの健康コードを見せて、カメラ式のセンサーで体温測定。モニターに身体のビデオ映像とともに体温が瞬時に表示される。空港でのセキュリティーのようなスキャナーでの身体検査あり。他の人と1メートルの間隔をあけるようにという注意書きがフロアのいたるところにある。

2階のチケット窓口で、事前にネットで購入(予約と支払い)しておいた切符を受け取る。多くある窓口のうち客対応をしているのは3つだけ。通常時に比べて客は非常に少ない。パスポートを渡すと、窓口係員が質問してくる。いつ北京に来たのか、その間ずっと北京にいたか、北京以外に出かけてないか、と。こういう質問はこれまでは高速鉄道に乗るときにはなかったことである。

乗車時間になり、改札で係員にパスポートと切符を渡すと、ここでも北京にはいつ来たか、その間、北京にいたか、他所へ出かけなかったか、と同じ質問をされる。

4.列車内で
車両内の座席は3+2の配列。私の指定席は車両の最前列の2人掛けの窓側。隣の通路側に先客がいて、大声で携帯電話でしゃべっている。飛沫を飛ばされてはかなわないので移動する。オンラインでチケットを購入した時の座席指定では隣には誰も座ってなかったのに、且つ当日も車内はガラガラに空いてるのに、なぜ、よりによって隣に客がいたのだろう。乗った車両は乗車率20パーセントほど。比較的乗客の多い最前方部をのぞいて、乗客の多くは2人掛けの席に1人で(まれに2人連れで)座っている。

列車は定刻に出発。出発してすぐに乗務員が廻ってきて乗客全員に体温検査を行う。検温器はハンディタイプの非接触センサー方式。手首部分での測定ができなかったようで、おでこで測定し直す。乗務員が36度と言う。このあと、先ほどと違う客室乗務員がやってきてパスポートを見せるように言う。そして、やはり同じ質問。いつ北京に来たか、この間ずっと北京にいたか、その間にどこか他所に行かなかったかと。その乗務員が質問に来たのは車両の中で私だけだった。外国人乗客ということで質問に来たのだろうが、元の座席から移動したのによく特定できたものだ。

5.天津西駅到着
天津西駅に到着して改札を出るときに、改札のところに立っている職員がこちらに来いと声をかけてきて、ここでもパスポートを見せろと言う。いつ北京に来たか、ずっと北京に滞在していたか、他所に出かけたかどうかを尋ねられる。やはり外国人とバレている。なぜバレるのだろう?不思議だ。

6.路線バス乗車
天津西駅から路線バスでイタリア街(イタリア風情旅游区)へ。駅前のバス乗り場に掲示されていた天津市交通のQRコードをスキャンして、乗車賃支払い用のミニプログラムを微信(WeChat、ウィーチャット)アプリ上で動作させる。これは便利だ。北京のように専用の交通アプリをスマホにインストールする必要がない。

バスに乗る時、運転手がドアに貼られたQRコードを微信アプリでスキャンしろと言う。どういうことなのか意味がわからない。どうやら天津の健康コード見せろということらしい。北京から来たと言うと、北京の健康コードを見せろというので提示する。

7.天津の健康コード使用
ショッピングモールで。
イタリア街から徒歩で移動する途中、ショッピングモールに立ち寄る。施設に入る時に、天津の健康コードを求められる。用意されているQRコードを微信でスキャンしろと言う。しかし、その方法がわからない。それで、西駅でバスに乗るときのように北京から来たと言うと、北京の健康コードとパスポートの提示を要求される。ところがここで、北京の健康コードが見つからない。北京の健康コードは支付宝(Alipay、アリペイ)アプリ上で動作するのだが、アプリが誤動作したのだろうか、理由はわからないけれど支付宝アプリの中で探し出せない。それで、係員は、じゃあ北京の健康コードはいいから、天津の健康コードをこの場で登録するようにと言う。微信アプリ上で天津の健康コードのミニプログラムを動作させ、個人情報を入力して登録。設置されているQRコードをスキャンして、画面に表示された結果を見せる。先ほどバスに乗った時にQRコードをスキャンするようにと言っていたのはこういうことであった。

南市食品街にて。
南市食品街というけっこう大きな屋内商業施設に入るとき、天津健康コードアプリで、設置されているQRコードをスキャンして画面を見せる。外国人だとバレていて、それだけでは済まず北京の健康コードを要求された。北京の健康コードをしつこく要求されても探し出せないものはしょうがない。それで天津の健康コード提示のほかに、名前と携帯番号を来館者シートに記入することで了承してもらう。外国人ということでパスポートの提示を求められる。

8.路線バス運行状況と滴滴(DiDi、アプリ配車システム)
路線バスは多頻度で走っている。今の時期の乗車率は北京以上かもしれない。ただし車両がやや小さいのでそのように見えたのかもしれない。南市食品街から古文化街までバスで移動したが、iPhoneマップで運行情報が頻繁に変わり、なかなか目的地へのバスを捕まえることができない。古文化街から西駅にバスで向かおうとするときにも、バス停でいくら待てどバスが来ない。すぐに来るはずなのだけど、iPhoneマップに示される情報が頻繁に変わる。バス停に設置の乗車案内で確認すると、運行状況は、どうやら平時のとおりではなさそうだ。もしかしたら、この時期の北京と同じように臨時にルートの変更や便数の変更があるのかもしれない。そういうわけで滴滴の配車アプリを使う。車はすぐに来てくれた。

9.天津西駅(帰路)
天津西駅に入るときも検温があり、同様に天津の健康コードアプリでQRコードをスキャンして健康状態の結果を見せる。ここでも北京に来た日、北京にずっといて他所に出かけてないかなど、同じことを質問される。荷物検査とボディチェックを受けて駅舎に入る。

北京までのチケットは西駅へ向かう車の中でスマホで予約・支払いをした。駅窓口でチケットを受け取る。そして、やはり、この窓口でも同じ質問。北京にいつ来たか、ずっと北京に いたか、何処か他所に出かけたかと。待合所に入るところでもう一度荷物検査をする。荷物検査は北京南駅より1回多い。

改札時間になり、改札係員にパスポートとチケットを渡し、ここでも、北京にいつ来たのか、ずっと北京にいたか、その間に他所へ出かけなかったかと質問される。質問の文言はこのパターンで決まっている。しつこいほどに徹底して質問している。この時期の列車移動ではそういうものなのだろう。このめんどうくさいやり取りも慣れると儀式のようなものである。

10.列車に乗り北京へ
北京へ帰る電車に乗るときは来るときの電車と違って、乗車用のドアは1カ所だけ開けていて、すべての乗客がそこから乗る。往路と同様に車内で乗客全員に検温。続いて、検温時と異なる客室乗務員が客車に廻ってきたが、しかし往路のように私だけに特別な質問するというのはなかった。指定された席から移動してたので特定できなかったのだろうか?乗車率は往路よりも少し多く、30パーセントほど。帰りの電車は復興号。午後6時過ぎに北京南駅に定刻に到着。

11.天津の人出
イタリア街は普段は若者で賑わうものと想像するが、このときは閑散としている。もともと平日の昼間はこういうものかもしれない。

ショッピングモール1階には他に客がいなかった。

南市食品街はけっこう大きな商業施設だが他に2、3組の客がいただけ。

古文化街は平日の昼間というのにけっこうな人出があり、観光地らしい賑わい。

行程中で、古文化街以外の町なかは閑散としているが、この時期の感染の状況下ゆえなのか普段からなのかは知らない。

12. 西駅利用の理由
天津は天津駅(中央駅)と南駅も利用できるけれど、西駅着・発の列車を選んだのは、北京以遠と天津以遠の外地を直通する長距離列車を避けたく、北京-天津間のみを走る列車を選んだから。広域移動の客との接触は避けたい。

13. 天津の健康コードの運用について補足
南市食品街でだけ、北京の健康コードと天津の健康コードの両方の提示を要求された。それより後、バスに乗る時と帰りの天津西駅に入場するとき、健康コードは天津の健康コードだけを使用した。

健康コードは省によって使用するアプリや運用が異なる。北京の健康コードは支付宝をプラットフォームとして、メニューのアイコンからミニプログラム立ち上げ、結果を表示させる。天津では先ず、現場に設置されたQRコードを微信でスキャンしてミニプログラムを開き個人情報を登録したのち、交通機関や商業施設等のチェックポイントで、設置されたQRコードをスキャンすると自動的にミニプログラムが微信上で起動、表示された健康状態の結果を管理者に見せるというやり方であった(*)。

(*)北京でも従来の方法に加えて、最近はこの方法を多くの場所で採用している。5月下旬頃に知ったのであるが、北京の健康コードは微信上でも利用できるようになっている。

天津での健康コードのチェックは北京より頻繁に行われた。北京よりも厳重そうな印象である。北京ではバス、地下鉄に乗るときに健康コードのチェックはない。推測であるが、天津は国際航路を持つ港湾都市ということと、国際航空路線が制限されている中で、北京を含む周辺地域の国際線発着便の空港に指定されているからという理由で警戒がいっそう厳重なのかもしれない。


14.パスポートの提示について
天津でパスポートの提示を求められたのはショッピングモール、南市食品街と帰りの高速鉄道駅においてであった。北京では今の時期でもショッピングセンターなどの商業施設において外国人がパスポートを見せることはない。もしかして天津でも普段はパスポートの提示は要求されず、私が外国人且つ外地からの訪問客ということがわかったのでパスポートを提示を要求されたのかもしれない。

追記:天津をベースにする日本人の知人からの情報によると、外国人だからといって、要所でパスポートを提示しなければならないということはないとのこと。たしかに私は長髪で茶色に染めていて、外見はまったく中国人らしくない。外国人だとすぐにばれる。外国人とわかると念のためにパスポートを確認されるのかもしれない。


15.鉄道チケット
高速鉄道に乗るのは1年ぶりで、詳しいことは知らないのだが、今では外国人は改札機でパスポートをスキャンするだけで乗車できるようになってるらしい。乗車するときに係員にパスポートと切符を渡したら、係員は改札機でパスポートをスキャンするだけだった。そこで試してみたのだが、帰路、北京南駅に到着した時に、改札機そばに係員はいたけれど、他の中国人乗客が身分証を改札機にかざして通過しているのに習って、パスポートを読み取らせて外に出た。おそらく、身分証(外国人はパスポート)と、購入時に紐付けされた電子チケット情報をクラウド上で照合しているのだろう。高速鉄道チケットは航空便のように完全にeチケット対応になっているように見える。今回、中国鉄道公式のアプリで予約、支払いをしたのだが、最近の事情を知らなかったので、これまで同様に駅に到着してからチケット窓口でパスポートを提示して物理チケットをもらった。外国人も物理チケットを必要とせずに乗車できるのなら、いっそう便利である。鉄道利用の手順の詳細については今後調べたい。

16.支払い手段について
今回の天津往復で、うちを出てから戻るまで、現金を使うことは1度もなかった。事前購入の往復の鉄道チケットを含めて、駅や現地での購買、飲食、移動など、すべての支払いはスマホを使用。微信、支付宝の口座残高と、微信、支付宝に登録している日本のクレジットカードで支払い。鉄道チケットは中国鉄道公式アプリから購入。支払いは支付宝を選択して、支付宝に登録のクレジットカードで決済。
 
17.むすび
以上、天津日帰りでのいろいろとめんどうくさかった体験や様子。官民を挙げて本気で防疫にあたっていることが肌で感じられる。警戒が厳しいといえど、移動の範囲内で、したいと思った行動が制限されることはなかった。

天津まで往復してみて、完全なキャッシュレス社会であることや、防疫体制等を含めて、ICTがすっかり生活に溶け込んでいることを、あらためて認識する。

天津往復について、以上。

18. ついでに、所感
中国の防疫の対応ではICTの活用が大きな役割を果たしていることは確かである。ICTの活用とその形態や方法はそれを可能とする社会の体制や人々の価値観が前提となる。それは今般の各国の防疫対策でのプライバシーや、追跡や隔離での強制力等に対する考え方の違いから明らかである。したがって中国の国を挙げての防疫とその成功は他国、例えば日本、欧州、米国等のモデルには、おそらく、ならない。

とはいうものの、あらためて明らかになった日本のICT 化があまりにもなされていないことに起因する実務の非効率さ、人材の疲弊、役所サービスの低品質に対する国民の不満、リモートでの環境が整備されてないことによる教育やビジネスの機会の逸失、等々がもたらす社会全体の不利益は看過するにはあまりに大きすぎるように思える。

(防疫のためのICT利用はいったん置いておくとして)ICT社会の成否は国の政策や企業の開発力が重要なのはもちろんであるけれども、ICTを生活の中で受容する主体である一人ひとりの意識や態度(ITリテラシー向上への意欲や、現在のやり方を変えることへの抵抗感、或いは公権力に対する懸念等)が決定的な要素となろう(こういった点で中国のケースは研究対象として興味深いだろう)。新しい生活様式へと転換するにあたっても、ICTや新しい技術の社会や生活環境への実装と、それを前提とした社会の制度や仕組み、暮らしの在りようを議論することは日本にとって必須かつ喫緊の課題であると、中国にいて強く思う。

それにしても、ICT 活用のもっとも身近な一例として言及されるキャッシュレスであるが、しばしば日本のネット空間に流布する、中国のキャッシュレス社会の発達は偽札が多いことが理由であり、その心配がない日本は現金社会にとどまり、そしてそれで問題ない、というまことしやかな言説はどうにかならないものか。これを信じることは日本が先進国であることを放棄しようとすることに等しいように思える。

2020年5月18日

7月23日 最新update 

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