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セブン銀行 事務部門のシステム化の取り組みと、これから求められる事務人材とは?

こんにちは!Bizer team代表の畠山です。シリーズ4回目は、株式会社セブン銀行の監査部 執行役員 監査部長の橋爪さんをお招きして「いま、取り組んでいること」をテーマに対談を行いました。橋爪さんが考える、「業務のシステム化」と「これから求められる事務人材」について、本音で語っていただきましたのでご紹介します。
*バックナンバーはこちら:Vol1Vol2Vol3


災害やパンデミックでも「ATMを止めない」ことが事務部門の使命

畠山
まず、簡単に自己紹介していただいてもよろしいでしょうか。

橋爪さん
新卒1年目に営業を経験したこともありますが、一貫してバックオフィスを歴任してきました。セブン銀行に入社する前は経理、財務、会計、子会社管理、内部統制を担当し、入社後は監査部、人事部、そして直近2年間は業務サポート部(事務部門)の責任者をしていました。今年の7月に監査部に異動になりましたが、今回は事務部門の経験をお伝えしたいと思っています。

畠山
セブン銀行の事務部門とは、どのような組織なんですか?

橋爪さん
ATM事業はセブン銀行の柱のひとつで、ATMの設置や提携業務に関わる契約締結や資金管理を行うのが事務部門の役割です。ATM事業の事務管理に加えて、“銀行の本店業務”と呼ばれる日銀とのやり取りや、勘定処理なども行っています。また、銀行は、何百億、何千億という資金を動かしながらも、絶対に止まってはいけません。東京と大阪にBCP(Business Continuity Plan)拠点を設け、災害やパンデミックでも絶対に止めない方法を考えていました。

畠山
台風で交通機関が止まることもありますが、そういうケースも視野に入れるんですか?

橋爪さん
もちろんです。台風が直撃するとインフラが麻痺してしまうので、部署ではニュースを見て台風の進路や規模を確認しながら、「東京で電車が止まったら?」「この場合は大阪拠点がカバーしよう」などという会話を常にしていました。

なかなか進まない業務のシステム化。「市民開発」をきっかけにして業務改善の流れが生まれる

畠山
事前に橋爪さんに2つのテーマをいただきました。1つ目は「業務はどこまでシステム化が可能か?」というテーマです。

橋爪さん
銀行に限らずどの企業でも、支払いのように間違いが許されない部署で働いている方なら共感していただけると思うのですが、仕事のやり方をダイナミックに変える思考に切り替えるのは難しいものです。紙の運用をシステム化するところまではイメージできても、仕事のやり方そのものを変えるような“DX”と呼ばれる領域に到達するのは程遠く、そもそもDXの概念を分かる人は事務の実務を知らず、事務を担当している人はDXが分からないというジレンマがあります。

もちろん、みんな課題は感じているのですが、忙しさや一時的な負担感から根本原因まで掘り下げる余裕がない。分かりやすい例を挙げると、紙の運用をシステム化すれば理屈として便利なことは理解していても、実際に作業するとなると「データを確認するより紙でパッと見た方が早い」とか「システムに入力して依頼するより『ハンコ下さい』と言えばひとことで済む」という思考になってしまうんです。

畠山
そのお話はよく聞きます。仕事のやり方を変えるよりも、旧来の方が楽だと感じてしまうんですよね。

橋爪さん
でもそのままでは何も変わらないから、部員のみなさんと「現時点では苦しいかもしれないけれど、やり方を根本から変えていこう」という決意をして、説明資料を作って経営陣に交渉しました。事務部門の業務の付加価値を高めるためには、紙と人手で行っている書類確認や承認といった単純作業をシステムにより自動化する投資が必要なんです、と。

畠山
現場のみなさんの意識はどうやって揃えられたのでしょうか?

橋爪さん
ちょうど社内で市民開発(「IT部門に依存することなくローコード・ノーコードツールを活用して業務部門が自ら業務のデジタル化を実現すること)の企画が立ち上がり、パイロット部門として我々に声がかかったタイミングでした。また、興味を持ったメンバーに市民開発の研修に参加してもらい、社内に先駆けて自分たちでアプリを作って業務改善を始めたんです。アプリの機能はまだまだ発展途上かもしれませんが、「自分たちの手でアプリを完成させ、業務で使うようになった」という成功体験が生まれました。市民開発の事例がきっかけになって、「自分たちで業務を変えよう」という意識につながっていったのだと思います。

畠山
すごいですね。実務で忙しい中、新しい技術を身につけるのは大変そうですが…。

橋爪さん
やはり最初に市民開発に手を挙げた“ファーストペンギン”のような人たちの存在が大きかったですね。彼らには組織が目指す方向性をあらかじめ伝えていたので、市民開発や業務改善に理解があり、効果も実感していました。彼らの動きを見ていた2番手、3番手の人たちが安心して参加できるし、早いうちに成功体験を掴むこともできました。結果的に、部署の7~8割の社員が市民開発の研修に参加しています。

また、市民開発の企画部署であるコーポレートトランスフォーメーション(CX)部が、懇切丁寧に伴走してくれたことも大きかったです。CX部が我々を成功事例として社内に伝えるので、他部署も興味を持ち市民開発を導入するようになりました。CX部も社内をどんどん盛り上げて、役員向け発表会を設けたり、優秀なアプリを表彰し表彰の様子を社内に配信したりして。そのなかで事務部門がDX化に取り組んでいる部署として注目を浴びるようになりました。

畠山
営業や企画に比べると、事務部門が注目を浴びるのは珍しいですよね。

橋爪さん
そうかもしれません。いくつかのイベントが開催され社内が盛り上がった結果、事務部門でも業務改善やDX化に取り組もうとする流れができました。ATM設置の契約には細かい事務処理や調整が必要だったのですが、昨年の秋にシステム導入のプロジェクトが始まって、1年かけてリリースすることができたんです。

畠山
システム化できたんですね!冒頭で「事務とDXをどちらも理解することは難しい」と話されていましたが、橋爪さんはどのようにDXを学ばれたのでしょうか。また、事務部門の方がDXを理解するために、どのような取り組みをされましたか?

橋爪さん
私がDXを完全に理解しているかは分かりませんが、経理システムの導入など、開発プロジェクトに何度か参加した経験があります。開発側と要件を詰めるプロセスは全体像を考えるきっかけにもなるので、極力そういう機会に関わるのが大切だと考えています。要件を決める作業はとても大変で苦しいものですが、経験するとものすごく成長します。新しいサービスをリリースする際は必ず事務プロセスの構築が必要になるので、DXを理解する機会として積極的に参加してもらうようにしています。

我々が目指すのは、「正確で迅速に処理するための最適な仕組みづくりができる人」

畠山
2つ目のテーマが、「これから求められる事務人材とは?」です。橋爪さんは、事務部門の目指す姿を明確にしたそうですね。

橋爪さん
私たちが目指す姿として“事務のプロフェッショナル”を合言葉にしたかったんです。もともと事務部門のあるべき姿のイメージが揃っておらず、「マニュアル通りに正確で迅速に処理できる人」と考える人も多くいました。そこで、部内だけでなく全社に向かって、事務部門は「正確で迅速に処理するための最適な仕組みづくりができる人」を目指していると分かりやすい資料で伝えました。

畠山
それまでは、仕組みではなく個人のノウハウで処理能力を高めていたのでしょうか。

橋爪さん
事務部門の人材は責任感が強くて一生懸命なタイプが多いので、個人が頑張ってしまって属人化しやすい傾向があります。でも、口には出さなくても内心では「任せてもらえるのは嬉しいけど、なかなか休めないし、自分がいなくなったらどうなるんだろう」と考えているのです。一方、マネジメント側も属人化している認識はありつつ、異動してしまったら業務が回らなくなるので、結果として何年も同じ仕事を任せ続けてしまう。属人化は本人のためにもなりませんから、一刻も早く解消しないといけません。

だから、事務作業を素早く処理するだけでなく、「もっと考える人になってもらいたい」と伝えています。事務のプロフェッショナルとしてスキルアップするには、市民開発やRPA、ITなどのリスキリングも重要。イメージとしては、作業する時間を短くする方法と、空いた時間で何をするべきかを考えられる状態が理想です。

この意識合わせをするために、1on1で会話したりミーティングに入って説明をしたりして、泥臭く伝えてきました。もちろん、一人ひとりをマネジメントするのは限界があるので、マネジャーを中心に話をして、多面的な意見が交わせるようにしたつもりです。

畠山
橋爪さんがご担当された2年間で、事務部門の意識は変わられたのでしょうか?

橋爪さん
業務改善に取り組む人たちが社内でフォーカスされるようになったり、取り組みが共有されるようになったりして、だんだん意識が変わったように思います。上司に指示されて業務改善に取り組むよりも、ほかの人が評価されていることを真似した方がやりやすいですよね。

畠山
それは、例えばどのような仕組みですか?

橋爪さん
部員のみなさんがグループ横断的に活動するために、各グループから月替わりで担当者を選出してファシリテーション研修を行いました。部全体の会議の質を上げることで時間の効率化が期待できますが、それだけではなく隣のグループの良い取り組みを学ぶきっかけにしたかったんです。ファシリテーション研修の中で、受講者同士が各グループで学んだことや色々な気づきを共有する機会を設けました。メンバーやマネジャーに隣の良いところを学んでほしいと伝え続けた結果、他の業務や業務改善に興味を持つ人が少しずつ増えていった感じです。

畠山
うますぎるくらいうまくいっていますね。

橋爪さん
結果だけ聞いたらすごくスムーズに聞こえるかもしれませんが、うまくいかないこともたくさんあります。でも、やり続けることが大切。また、忙しくてなかなか実行に移せないだけで、みんな課題認識を持っています。私が指示したというよりも、きっかけを用意しただけにすぎません。

畠山
こうした取り組みは、対面で伝えていたのでしょうか?

橋爪さん
事務部門は出社とオンラインが半々くらいです。組織の意識改革はテレワークでもできるかもしれませんが、私はリアルで会って話をした方がやりやすい。対面で色々な話をしたからこそ、テレワークになっても問題なく進められたのだと思います。

意識改革には、現場のマネジャーが鍵。自分の言葉で誠実に語っていくことが大切

畠山
意識改革には、現場と会社のハブになるマネジャーの存在が鍵になりそうです。マネジャーにはどのような力が求められると考えられますか?

橋爪さん
自分の担当範囲の人たちにきちんと伝わるように、会社や部の方針を自分の言葉に変えて語ることが大切だと思っています。部下の業務を理解した上で、自分なりに言葉を選んで伝えないと、誰も自分事として聞くことができません。「会社がこう言ってるから」ってマネジャーに言われても、やる気にならないじゃないですか。

多くの場合、社長や役員よりも、直属のマネジャーの姿が一番よく見えます。見えているからこそ、部下に対してとにかく誠実に、自分の言葉で語ることです。

畠山
ただ、一人ひとりに寄り添って会話を続けることは、時間もかかるし大変です。橋爪さんが意識改革を続けられる原動力はどこにあるのでしょうか。

橋爪さん
あるマネジャーから言われて、とても印象深かった言葉があります。それは「メンバーには、得意で輝いてもらいたい」という言葉です。全方位で力を発揮する完璧な人はいないから、マネジャーが一人ひとりの得意分野を探して、得意なことで輝ける方法を考えるということです。「得意を発揮できればお互いにWin-Winになるから諦めない」とも言っていて、その言葉は心にしみましたね。

もちろん現実は理想通りとはいきませんが、誰一人置いていかないように、得意を探してみんなで進めていきたいと思っています。

畠山
感動的な、とてもいい話が最後に出ました。
今回は貴重なお話をいただきありがとうございました!

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