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「キャリアオーナーシップ」とは?パーソルグループのエンゲージメント向上の3つの取り組み

こんにちは!Bizer team代表の畠山です。VOL1VOL2に続き、シリーズ3回目は、パーソルホールディングス株式会社のグループ人事本部 本部長で、パーソルグループ全体の人事・総務機能を管轄している大場 竜佳さんをお招きして「いま、取り組んでいること」をテーマに対談を行いました。大場さんが考える、「パーソルグループのエンゲージメント向上の取り組み」について本音で語っていただきましたのでご紹介します。


イギリスの人事専門機関に留学した結果、HRの悩みは万国共通だと実感

畠山
「いま、取り組んでいること」をお伺いする前に、簡単に自己紹介していただいてもよろしいでしょうか?

大場さん
パーソルホールディングスのグループ人事本部の責任者として、グループ全体のタレントマネジメントや人事施策に携わっています。パーソルホールディングスは、連結で海外も含めるとグループ連結で約6万7千人の従業員がおり、人事本部は110名ほどの組織となっています。

私は新卒で入社した保険会社で人事に配属されて、2007年にインテリジェンス(現パーソルキャリア)に転職し、現在まで一貫して人事です。人事キャリアの前半は給与計算や労務を、後半では企画や開発に携わって、今日に至っています。

畠山
2015年に海外留学されたそうですが、会社は関係なく、ご自身の意思で行ったって本当ですか?

大場さん
当時はインテリジェンスの人事総務部長で結婚したばかりでしたが、「このタイミングで行かないと絶対人生後悔する!」と思って、周囲を説得して1年間行かせていただきました。イギリスのCIPD(Chartered Institute of Personnel and Development:人事教育協会)という人事の専門機関で、人事のプロフェッショナルが学ぶ場所です。

日本人はいなくて、物凄いアウェイ感。会社には特別に休職を認めていただきましたが、社命で行ったわけではないので完全自腹で、帰国したら学生時代よりも預金残高が少なくなりました(笑)

畠山
留学はいかがでしたか?

大場さん
人材開発や組織開発などの人事理論の多くは、アメリカやヨーロッパで提唱されます。最先端の人事理論は海外にあり、日本は遅れていると思い込んでいましたが、留学してみたら、日本の方が体系的な学問として成立していたり、共通言語が確立していたりすることに気がつきました。また、各国のHRのプロフェッショナルが集まっていても、話してみると「現場が言うこと聞かなくて」とか「○○部門とうまくいってなくて」とか、日本でもよく聞く話ばかり。留学したことによって、「HRの仕事は普遍的である」と感じるとともに、日本の人事の仕事を相対化して捉えることができました。

エンゲージメント向上を目指す背景 ―「選ばれる会社へ」―

畠山
では、パーソルグループがエンゲージメント向上を目指す背景について教えてください。

大場さん
2020年に経済産業省から「人材版伊藤レポート」(『持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会 報告書』のこと。「人的資本経営」という概念が広まるもとになった報告書)が発表されて、上場企業にとってエンゲージメントは重要なアジェンダになりました。私はその少し前から、エンゲージメントを中心に人事の中期計画を描いて経営陣と議論をしていました。

エンゲージメントには様々な定義や研究結果がありますが、パーソルグループのエンゲージメントは、「仕事に対する意欲ややりがい」「組織に対する積極的な貢献意欲」の2軸です。この2軸がきちんと満たされると、エンゲージメントは高くなります。

エンゲージメントを「組織に対するロイヤリティや忠誠心の高さ」とする考え方もありますが、それだと個人の気持ちが置き去りにされてしまう。心の底から「やりたい」という思いがあり、ワクワクして仕事に取り組み、チームにも貢献したいと思えている状態が、パーソルグループにおけるエンゲージメントが高い状態です。

畠山
なぜエンゲージメントを重視するのでしょうか?

大場さん
伝統的な日本の人事管理では、キャリア設計を含めて「会社が面倒を見る」「従業員が会社に合わせる」というカルチャーがありました。でも、ミレニアル世代やZ世代など新たな世代が台頭し、日本の労働人口がどんどん減っている状態で、旧来の人事管理を維持するのは限界があります。価値観も多様化しており、「世の中的にこれが正しい」という時代は終わろうとしています。こうした環境でも、従業員や仕事を探している方に選んでもらえる会社になるには、純粋にそこで働きたいとか、楽しい・嬉しいという気持ちが喚起されるような状態を作っていく必要があります。

パーソルは、「はたらいて、笑おう。」というビジョンを掲げていますが、はたらき方は一人ひとり異なり、自分で決めるものです。会社が従業員の面倒を見るのではなく、会社と従業員が対等なパートナーシップ関係であるということを実現するために、エンゲージメントという指標を用いています。

畠山
エンゲージメント向上は、経営陣とも会話して進めているのですか?

大場さん
もちろんです。上司のCHROや経営陣と議論して進めてきました。「はたらいて、笑おう。」という我々のビジョンに直結する話だし、会社と従業員の関係性を変えていくというリスクを含んだ意思決定になるので、良い意味で活発な議論がなされています。

エンゲージメントドライバーとキャリアオーナーシップ

畠山
エンゲージメントを高めるには、どうしたらいいのでしょうか。

大場さん
エンゲージメントを高める要素は、「エンゲージメントドライバー」と呼ばれています。学術的にも研究され、様々な体系が提示されている概念ですが、我々はこれまでの人事施策の体験から、エンゲージメントドライバーを5つに分けています。

【パーソルグループのエンゲージメントドライバー】

  • グループビジョンへの共感

  • 自己効力感

  • 関係性

  • 健康ではたらく

  • 自律性

「ビジョンへの共感」ですが、共感が高まれば、エンゲージメントも高まります。「自己効力感」とは、仕事で貢献できて、成長を実感することができる状態。「関係性」は、個人を尊重し合い、認められている状態。「健康ではたらく」は、どんなにエンゲージメントが高くても健康じゃないと燃え尽きてしまいます。そして、仕事や働き方を選べる「自律性」。この5つをエンゲージメントのドライバーとして設定し、様々な取り組みを進めています。

畠山
エンゲージメントはどのように測定しているのでしょうか?

大場さん
グループ人事本部では、「ADVANCED HR SHOWCASE」をポリシーに掲げています。これは、経験や勘ではなく、人事を科学してデータで意思決定をすることを重視するということ。ADVANCED HR SHOWCASEの一環としてエンゲージメントサーベイを実施し、5つのドライバーが本当にエンゲージメントスコアを上げるのかを検証しています。

これまでの検証だと、エンゲージメントを高めるのに一番寄与しているのは、仕事や働き方を選べる「自律性=キャリアオーナーシップ」です。この数値が高いほど、仕事に対する前向きな意欲ややりがい、組織に対する貢献意欲が高まることが分かっています。健康や心理的安全性の向上にも取り組んでいますが、人事では重点的にエンゲージメント向上に大きく寄与するキャリアオーナーシップに取り組んできました。

畠山
転職であれば仕事や働き方を考えるイメージが湧きますが、日常的にキャリアオーナーシップを意識するというのは、どういう状況でしょうか?

大場さん
例えば、所属している部署で「このプロジェクトをやりたい」と手を挙げるのもキャリアオーナーシップのひとつです。日常的にキャリアオーナーシップはあると思うのですが、挙手制で仕事を選べるような環境でない場合、「仕事は会社から任されるもの」「自分では変えられない」と思い込んでいる方もいるかもしれません。だからこそ、会社から従業員へ選択肢をどんどん提示していく必要があります。

日々の仕事で「こんなことをやりたい」という思いが生まれるのはとても大切だし、マネジメントラインがそういう機会をどんどん応援していくようなカルチャーを作っていきたい。ただ、カルチャーは一朝一夕ではできないので、「じっくりと育んでいく」というスタンスで進めています。

畠山
パーソルでは半年に1度、目標設定の機会がありますが、もっと日常的にキャリアを考える機会を作ろうとしているんですね。

大場さん
そうです。パーソルグループで実施している新任の管理職研修でも、「1on1はメンバーに成長やキャリアを問いかける場であるべき」とメッセージしています。ただ、実際は難しいですけどね。自分も1on1で「あのタスクはどうなってる?」という会話をしてしまいます。でも、できるだけタスク確認の1on1と、中長期のキャリアや成長への課題を話す1on1は、使い分けるようにしています。

キャリアオーナーシップ向上のための施策と実績

畠山
1on1以外にも、キャリアオーナーシップ向上のための施策はありますか?

大場さん
1つは「キャリアチャレンジ制度」です。もともとインテリジェンスで実施していた制度を、国内30社以上のグループに広げました。オープンポジションを設けて、そこに応募してオファーをもらえればグループ内で異動・転籍ができる制度です。経験がマッチしていればこの制度でそのまま異動・転籍もできますが、中には営業から広報など、キャリアチェンジを希望するケースもあります。経験がないため、興味はあるけれど本当に自分がその仕事に合っているか分からないという方に向けて、「ジョブトライアル制度」も設けました。部門間の短期留学のような制度で、プロジェクトベースで参加して、実際に働く感触を得られる機会を提供しています。

そして、これからリリースするのが、グループ内の「スカウト制度」。キャリアチャレンジは、興味を持ったポジションに従業員自ら応募しますが、スカウトは逆に、来てほしい人材に対して、事業責任者が「うちに来ませんか?」とスカウトメールを送ることができる制度です。

また、2019年から複業を全面解禁しています。昨年承認された複業申請は1,000件以上となっています。

畠山
そんなに?どんな複業が多いんですか?

大場さん
ITコンサルタントとキャリアコンサルタントが多いですね。資格を持っている方もいますし、業務委託として働きやすい職種です。当初は「複業を認めると転職してしまうのでは」という意見もあったのですが、そこは性善説で、複業をすることで自分の仕事の意味を再定義する機会になればいいと考えています。

実際に、複業をしている人としていない人でグループを作って、退職率やエンゲージメントを調べてみたのですが、複業をしているグループの方が退職率は低く、エンゲージメントが高いことが分かっています。社外で活動することによって、初めて自分の仕事の価値や職場の魅力に気づくからだと考えています。

畠山
パーソルは、転職して戻ってくる方も結構いますよね。

大場さん
一部のグループ会社ではアルムナイ(元社員)を制度化したり、コミュニティを作ったり、取り組みが始まっています。パーソルは出戻り大歓迎なので戻ってきてくれる方もいます。キャリアオーナーシップの原則に立つと、ずっとパーソルで働き続けるかどうかは本人次第。人生のフェーズや価値観の変化によって、最適な職場は変わります。パーソルを退職して、また戻ってくるという人がもっと増えてもいいと考えています。

畠山
でも、実際に活躍している人に「辞めます」って言われたら、引き留めたくなりませんか?

大場さん
それはもちろんです(笑) 自分も、最初は「ちょ、ちょっと待って。落ち着いて話そう」という反応になってしまうと思いますよ。ただ、自分の人生を本気で考えて「転職」という選択をしたのであれば、本心から応援しようという気持ちになります。

畠山
その辺は、現場のマネジャーがメンバーのキャリアを考えられるかどうかがポイントですね。ただやっぱり、ファーストラインのマネジャーとしては、自分のチームの数字もあるし、優秀なメンバーに欠けてほしくないというジレンマがありそうです。

大場さん
本来は、現場のマネジャーが思い悩むのではなく、会社全体として手を差し伸べられるような組織になるのが理想です。ただ、キャリアチャレンジやジョブトライアル、スカウトなどの制度で、新たなメンバーを獲得できる可能性もあるんです。

畠山
なるほど!これまでのマネジャーは、会社からある程度のリソースを与えられてミッションを実現するという役割でしたが、これからは「リソースを調達する」という選択肢が増えるんですね。

どのような人事制度も、根付かせるには現場の地道な運用や業務改善が重要

畠山
新しい制度によって、マネジャーとしては、これまで以上にチャレンジングな立場になります。ダイナミックな施策ですが、混乱はないのでしょうか?

大場さん
施策を走らせるにあたり、数多くのルールを張り巡らせていますが、ミスコミュニケーションが起こってしまうこともよくあります。でも、人事が運用を頑張るのはとても大切で、従業員にも各社の人事や経営陣にも信頼してもらえるような制度であり続けないと、制度は成り立ちません。制度運用のルールやマニュアルもしっかりとアップデートして、運用に携わる各社の人事の方にも定期的に説明会を実施して、人事の現場は地道な努力を続けています。

畠山
ただ、大場さんは、経営陣と議論して新しい人事制度や方向性を考えるポジションです。現場の地道な改善や運用はどのくらい見えているものなんですか?

大場さん
実務レベルで個別に見ることは難しいですが、ルールが変わった経緯や成果物に対しては、常に関心を持って意識して見ています。もともとキャリアのスタートはオペレーション業務が中心だったので、「地道な運用あっての企画」という哲学思想があります。企画ができても運用や改善が実現できないのであれば、それは企画が不十分だということです。

畠山
人事制度を根付かせるには、地道な運用や業務改善が重要なんですね。ただ、重要なだけに、業務を現場に任せることができずに、マネジャーが抱えてしまうケースもありそうです。

大場さん
僕もファーストラインのマネジャー時代は、その最たる例だったと思います。やっぱり、自分でやった方が安心で早いですから。でも、プレイングマネジャーの力によって短期的に成果が出たとしても、業務を任せられないマネジメントは組織をひたすらに弱くするだけ。知識や経験が全てマネジャーにストックされてしまって、誰も成長しません。この場合は、マネジャー自身の目標設定が重要です。「自分が目指す組織の在り方」「業務をより良くするにはどうしたらいいのか」といった、ビジョンやゴールをメンバーに示す必要があるでしょう。

畠山
マネジメントが組織の方向性を提示することが重要なんですね。
今回は貴重なお話をいただきありがとうございました!

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