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バックオフィス人材の市場価値を高める評価制度と、減点方式に頼らない「3つの指標」とは?

こんにちは!Bizer team代表の畠山です。今回は、マーケティング支援事業をグローバルに展開されているアウンコンサルティング株式会社 の常務執行役員で、バックオフィス部門の責任者をされている高橋 重行さんをお招きして「いま、取り組んでいること」をテーマに対談を行いました。高橋さんが考える、「バックオフィスの評価とマネジメント」について、本音で語っていただきましたのでご紹介します。

全社の評価制度を「メンバーシップ型」から「職務等級型」に刷新

畠山
高橋さんが「いま、取り組んでいること」として今回は、他社でも多くお悩みを伺うバックオフィス人材の評価やマネジメントを中心に、ざっくばらんにお伺いしたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします!
 
高橋さん
アウンコンサルティング株式会社の高橋と申します。弊社は海外のSEOや広告など、多言語を切り口にしたマーケティングの支援をしている会社です。私は、経理、人事・労務、総務、法務・IR、経営企画、システム、秘書など、経営支援部門(間接部門・バックオフィス)全般を管理しています。
 
会社全体では海外法人も含め70名強の組織で、私がマネジメントしている管理部門は10名強。各領域にそれぞれ1~2名の担当者がいて、全体を私が取りまとめています。
 
畠山
最近は全社的な評価制度の刷新に取り組んでいたそうですが、どんなことにチャレンジしてたんですか?
 
高橋さん
これまではメンバーシップ型(労働時間や勤務地、職務内容を限定しない雇用システム)の評価制度を採用していたのですが、職種を限定しないため、中長期的なキャリア形成に対して成長プロセスを具体的に提示しづらいという側面がありました。もちろん、評価制度が機能していないというわけではありませんが、マネジャーの属人的な評価に依存しやすくなります。「その人だからうまく回っている」という状態を解消して、マネジメントクラスがスムーズに評価・育成ができるシステムにしたかったんです。
 
畠山
マネジャーに依存してしまうのはめちゃくちゃ分かります。やっぱり人が人を評価するので、属人化しやすいんですよね。
 
高橋さん
働いている側からしても、メンバーシップ型だと「長期的なキャリアプランが立てにくい」というデメリットがあります。その結果、半年ごとの人事目標を設定して考課するといった短期的な視点になっていました。
 
思い切って評価制度をメンバーシップ型から職務等級型(職務内容を明確に定義し、労働時間でなく職務や役割で評価する雇用システム)に刷新し、職種ごとに「等級」という形でステップを提示することで、キャリアプランが立てやすくなるし、市場価値も高めやすくなると考えています。
 
畠山
その場合、人材としての市場価値は考慮するんですか?
 
高橋さん
評価が給与に結びつくのであれば、市場価値と連動して設定する必要があります。実際、自社にサーベイを導入したところ、評価への納得度は高いんですが、給与への納得度は低い。これは恐らく評価制度自体は納得できるけれど、給与の仕組みに不満を感じているのだと思います。でも、きちんと世の中の市場価値を評価制度に組み込んでいけば、こうした不満も変わっていくでしょう。
 
また、この制度によって採用にも大きく影響が出ます。市場価値に比べて従業員の給与が低ければ採用できないし、退職する人も増えてしまう。一方で、市場価値に給与が見合っていれば、採用力が上がり従業員の満足度も高くなります。

従業員には「将来に続く仕事」をお任せし、市場価値を高めていきたい

畠山
でも、職務等級型に変更することで、「給与が上がる人」だけでなく、「給与が下がる人」も発生する可能性はあるのでは?
 
高橋さん
移行の期間は設けないといけませんが、全員に新しい評価制度を設定すると、給与が下がるケースが発生するかもしれません。ただ、一時的に給与が下がったとしても、キャリアパスが明確になるので、本人次第で以前より給与が上がる可能性もあるでしょう。もちろん、最初の導入段階で職務等級を完璧に決められるものでもないし、世の中が変化し続けているので、定期的なメンテナンスも必要です。
理解してもらいたいのは、これまでは会社がキャリアのレールを敷いてくれて、それに乗っていればポジションが上がったり、定年まで働けたりしましたが、今はもうそういう時代ではありません。一人ひとりに最適なキャリアを見極めて、「今は事情があって働き方に制約がある」「将来への投資として仕事に全力投球したい」など個別の事情も考慮しながら、双方が納得できる成長プランを提示していきたいと考えています。
 
畠山
キャリア形成を考えて成果を出さなくてはならない。シビアな制度でもありますね。
 
高橋さん
会社として機会は提供するけれど、それを活かすかどうかは本人次第。私自身もプレッシャーがありますが、レールに乗っていれば給与が上がる時代ではないこと、当社における公平性の説明などを、泥臭く伝える必要があると思っています。
  
例えば、数年後になくなる仕事ばかりを任され、一生懸命会社のために尽くしたのに、環境変化によりその仕事が必要なくなったり、あるいは、会社自体がなくなってしまい、市場に放り出されたときに初めて自分の市場価値が上がっていないことに気づいたら、その人はとても不幸じゃないですか。我々の会社で働いていただけるのであれば、「その人の将来に続く仕事」をお任せして、市場価値を高めてもらいたいんです。
 
畠山
その制度は、新しい組織であれば受け入れてもらえそうですが、保守的な会社で定年が見えている場合だと、「このままでいいや」「評価されなくてもいい」と諦める人もいるかもしれません。
 
高橋さん
日本企業ならではの終身雇用の環境で若手時代を過ごし、定年までレールに乗ろうとしていた方がこの制度を提示されたら戸惑うでしょう。でも、今は"100年時代”などと言われて、定年後もまだまだ人生は続きます。いくつになっても変わることができるはずなので、諦めずに対話を尽くす必要があると思っています。
 
もちろん、対話を続けても変化する意志がない場合は、やはり評価を下げざるを得なくなります。ただ、人事マネジャーであれば、「新しい仕事をお渡しする」「他の部門で活躍できる制度を作る」「本業の仕事では評価を下げざるを得なくても、副業を認めて収入を維持できるようにする」など、状況に応じた解があるかもしれません。

バックオフィスは、「オペレーション」「PL」「BS」の3つの切り口で評価する

畠山
なるほど。具体的な評価方法なんですが、バックオフィスは営業と違ってKPIを数値化するのが難しい傾向があります。高橋さんの部門はどのような指標で評価していますか?
 
高橋さん
弊社は2つの観点で評価しています。まず1つ目が「等級」のような、その人の資質や経験・スキル。2つ目は、メンバーが事前にマネジャーと設定したKPIを達成できたかどうかです。
 
さらに間接部門のKPIは、「オペレーション」「PL」「BS」の3つの切り口があります。1つ目の「オペレーション」は、日々やっている業務を事故なく、マイナスにならないようにどれだけ頑張れるか。2つ目の「PL」は、コスト削減か生産性向上のどちらかに取り組んだか。3つ目の「BS」は、人の教育や社内制度など、将来の収益の源泉になるような資産の価値を高められたかどうかです。BSは、お金のように財務諸表に載るもの以外の、人材や仕組み等を含む広義の意味での資産を指しています。だから例えば、Bizer teamのテンプレートを作って業務を可視化したことも資産になるので、プラスの評価になります。
 
もともとバックオフィスは減点方式が多くて、「ミスを起こさない」「コスト削減」「生産性向上」を目標に掲げがちです。でも、これらの目標はどんなに頑張っても、「ミスをゼロにする」「コストをゼロにする」など、ゴールの最大値はゼロ。限界が決まっているんです。そんなワクワクしない目標設定よりも、「価値を高める」という定義づけをした方が、可能性は無限大になるし楽しいですよね。
 
畠山
でも、この3つのウェイトはどうなってるんですか?バックオフィスの現場だと、1つ目を意識する人が多そうな…。1の延長線上で、2のコスト削減や生産性向上も考えられると思いますが、3つ目のBS(資産化)は頭を切り替えていかないと難しそう。
 
高橋さん
ウェイトはあまり意識していません。等級やスキルに合わせて、3つのうち何かしらの目標を持つようにしています。なお、効率化までは現場で実行できるのですが、「業務をやめる」という判断はメンバーには難しい。合理化の判断は、マネジメント側の仕事です。
 
また、BS(資産化)については、やっぱり継続的な共有・発信が必要ですね。特に弊社はフルリモートで、常に隣にいるわけではないので、積極的に自分の考えを伝えていく必要があります。
 
畠山
フルリモートだと、どのようにメンバーに伝えるんですか?
 
高橋さん
役職や社歴や関係性によって共有の方法は異なりますが、月に1度の1on1面談か、日々の業務連絡や雑談で伝えることが多いです。私は特定領域の専門家ではないので、自分の意見が100%正しいとは思っていません。むしろ専門的なことはメンバーの方が詳しい可能性があるので、必ず「自分の考えを主張してほしい」と伝えています。また、この時代は変化しないと市場価値が落ちてしまうので、「常に変わってほしい」とお願いしています。
 
畠山
高橋さんは、Twitterやこうした場でも積極的に情報発信されていますよね。
では最後に、人事領域における考え方を教えてもらえますか?

従業員は「会社の所有物」ではなく、「社会からお借りしている資産」

高橋さん
人事領域に関しては、まず「社会とうちの会社、そして従業員の3者がWin-Winになる制度設計を目指す」というのが持論です。だから、会社が一方的に制度を改悪することは従業員のためにできないし、かといって権利と義務のバランスが崩れて従業員の声が通りやすくなりすぎてしまうのも、会社組織を維持管理できなくなります。今後も、この3者が満足できる着地点を探っていきたいと思っています。
 
それともう1つ、従業員は「会社の所有物」ではなく、「社会からお借りしている資産」だと考えています。お借りした期間は市場価値を高めて、いずれ社会にお返しするのが人材開発の成功の定義。もちろん、会社としては働きやすい環境を整えたり、教育したりして投資しているので、従業員が活躍してリターンを得るところまで考えなくてはなりません。お借りしている間は利息のように、少しずつ市場価値が高まる制度設計を目指したいです。
 
畠山
なるほど。高橋さんにとって従業員は「会社の所有物」ではなく、「社会からお借りしている資産」という思想がベースにあるんですね。予測困難な時代に従業員と会社と社会がWin-Winになるためには、変わり続けなければならない。評価制度を職務等級型にして、個別具体的なキャリアパスを提示し、従業員の市場価値を高めていく必要があるということですね。

今回は貴重なお話をいただきありがとうございました!


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