2022年 カタールワールドカップ 準決勝 フランスvsモロッコ マッチレビュー~右サイドを巡る駆け引き~
フランス2-0モロッコ
得点者(FRA)
5' 22テオ エルナンデス
79' 12ランダル コロ ムアニ
得点者(MAR)
なし
両チームのフォーメーション
前書き
皆さんこんにちは川崎人です。今回はWindtoshさんが企画している「ワールドカップ・アーカイブ化計画」に参加させて頂くことになりました。
ワールドカップアーカイブ化計画とはなんぞや?という方は、こちらのnoteを参照ください
その中で、今回はワールドカップアーカイブ化計画の「決勝トーナメント編」になります。私、川崎人は、抽選の結果「モロッコ代表の担当」となりました。そのため、これからモロッコの試合を分析したマッチレビューを書いていきます。
モロッコのワールドカップでの試合は下記の項目にまとめてあります。そちらの記事を読んで頂けると本レビューも楽しめると思います。
モロッコの過去記事
GL第1節 vsクロアチア
GL第2節 vsベルギー
GL第3節 vsカナダ
ラウンド16 vsスペイン
準々決勝 vsポルトガル
これまでとは違う入りで臨むが
さてここからがレビュー。
これまで4ー3ー3のフォーメーションで戦ってきたモロッコだったが、この試合はこれまでの4ー3ー3ではなく、5バックで試合に臨んだ。
ここで5バックにした理由を幾つか推測。1つは、「この試合も強行出場しているサイスの負担軽減」である。
フランスは、両ワイドにムバッペとデンベレというスピードスターを抱えている。これまでのモロッコの守り方で言えば、SBが相手WGを足止めしつつ、モロッコのWGがプレスバックでサンドする形であった。仮にSBとWGで対処できなかったり、SBの背後を取られた場合はCBがスライドして守っていた。
しかし、サイスはそこまで走れる状態では無かったはず。頑張ってスライドしてもスピードがあるデンベレへのスライドは間に合わないかもしれない。そのためサイスの脇を別のCBで固めることで、SB裏のケアをしたかったのだろう。
2つ目はシンプルに「フランスの攻撃を引いて受けたかった」のかもしれない。高い位置からでは無く撤退することで、フランスの攻撃の勢いを殺したかったのだろう。特にカウンターやオープンな局面になればフランスの攻撃の勢いは増す。だからこそ加速させるスペースを先に潰したかったのかもしれない。
それだけで無く、フランスが押し込んだ際にグリーズマンからの高精度のクロスが飛んでくる。これも5バックにすることでボックス内を埋めて弾き返したっかのかもしれない。
フランスの保持はチュアメニがアンカーっぽくなり、グリーズマンとフォファナがIHのような振る舞いをする。なので、配置で見れば噛み合う構図となる。そのため、中央を使われてもそこで迎撃できればOKという感じだったのだろう。
モロッコはそんな青写真を描いていたと思うが、現実はとても非常であった。開始5分に、ヴァランからの楔がグリーズマンに入ると、迎撃しに行ったヤミークが入れ替わられてしまう。そのままエリア内に押し込まれると、最後はセカンドボールに反応したテオ エルナンデスにネットを揺らされ失点。これがモロッコにとって今大会2失点目であり、初めて許した先制点である。
モロッコ側としては、本来ハメたかったところでハメることが出来なかったのは痛かっただろう。4ー1ー4ー1同様にボールホルダーへの牽制も行けていたし、中に誘導することは出来ていた。そこで潰しきれずに失点に直結したのは、モロッコにとっては大きな誤算だったはずだ。
4ー3ー3で変化が起こる
これまで先行逃げ切りの戦い方で勝ち上がってきたモロッコ。追いかける立場になるのはこの試合が初である。サッカーは相手より得点を多く奪わなければ勝てることは出来ないので、当然攻めに出るようになる。
前半の序盤は左サイドからチャンスを作る。この日は5ー4ー1のフォーメーションながらも、モロッコが得意とする複数人での崩しを披露していた。10分にはウナヒ、ブファル、マズラウィでトライアングルを形成し、そこからの崩しでウナヒがシュートを放っている。
また、この日のブファルはかなり自由。フランスのCHの間に顔を出してボールを受けたり、そのまま右サイドに流れたりしていた。
そんな中でモロッコがターゲットにしていたのは守備を放棄するムバッペの背中である。本来はグリーズマンとジルーが並んだ4ー4ー2ベースで守りたいはずだが、ムバッペがカウンターに備えてなのか高い位置にいることが多い。そのため、フランスは4ー3ー3気味で守っている。
モロッコは14分あたりからそのムバッペの背中を使うシーンが増えていった。しかし、ムバッペの裏はフォファナがカバー。また、幅を取る選手が降りて受けようとすればテオ エルナンデスが着いて来る状態であった。
それでも、サイスが負傷交代し4ー3ー3になってからは良い形で攻めることが多かった。モロッコが4ー3ー3になることで、5バックに比べては選手間の距離はかなり良くなった印象を受けた。なので、預けて追い越す動きはとても活性化されるようになった。
このモロッコの立ち位置の良さからフランスのCHであるチュアメニとフォファナをオーバーフローさせることに成功。何度かモロッコの選手でフランスのCHを止めつつ、大きく開いたCH間を攻略して前進することに成功した。
ただ、ここでフランスがすごいのはプレスバックをサボらないこと。真ん中を使われそうになっても、グリーズマンとジルーが戻ってきて収支を0にする力技で凌いでいた。また、コナテとヴァランの守備範囲もかなり広いし無理が効くのは厄介だったはずだ。
何度もレイヤーを越えられても、プレスバックを含めた素早い帰陣でブロックを組み、サイドをしっかり閉めて先に進めないやり方を徹底していた。そのため、モロッコがどんなに素早く攻め込んでも、なかなかシュートまではいけなかった。
オーバーロードとフランスの修正
後半になり、フランスはグリーズマンを中盤に吸収させて守る形を対応。ムバッペの背中は、フォファナ、チュアメニ、テオ エルナンデスで頑張って守ってねという設計であった。
それに対しモロッコは右サイドから攻撃を進める。序盤はツィエク、ウナヒ、ハキミの関係性だけで崩せそうなシーンが幾つか見られた。50分には、同サイドの3にんが素早くポジションチェンジしながらボールを回すことで、フランスの守備の基準をズラそうとしていた。
52分には、左WGのブァフルが右サイドに流れてクロス。オーバーロードによる菱形っぽい崩しからサイドを突破しての攻撃であった。このシーンが流れの中で言えば2番目くらいの決定機だったように感じる。
ただフランスにもカウンターという武器がある。攻め残りしつつあるムバッペに入れば一気に陣地を返されてしまう。なので、ここは綱渡りだった気はする。
それでもこの勝負に先に折れたのはフランス。ムバッペも守備に回ることで、カウンターのスターと地点が少し下がった。モロッコが必要以上に右サイドから攻め立てていたのは、ムバッペによるカウンターを抑止する狙いもあったのだろう。
当然スタート地点が低くなれば、その分ゴールへの距離が遠くなる。なので加速する前にモロッコDF陣が素早いトランジションで潰すことが出来ていた。
徐々に陣地回復の手段を失ったフランスはジルーを下げてテュラムを投入。ムバッペをCFにしてテュラムを左WGに置いた。これでモロッコが攻めてくる右サイドの補填は完了。それだけでは無く、ムバッペを最前線に残すことで、カウンターへ繋がりやすくなった。
モロッコ視点で言えば、押し込めていた後半の頭で同点に追い付けなかったことが痛かった。何度か右サイドでクロスをあげても中で合わせる選手が居なかったりした。特に、崩しにリソースを割いていたため、マイナスの折り返しに飛び込む選手がいなかったのは気になったところだ。
フランスの修正により、良かった流れが絶ちきられて行ったモロッコ。すると79分。中盤でボールを受けたフォファナがエリア付近までボールを運ばれると、ゴール前の混線から最後は入ったばかりのコロ ムアニに決められ2失点目を喫してしまった。
最後まで果敢にゴールまで迫ったモロッコ。試合終了間際にはビッグチャンスが訪れるも、クンデがゴールライン上でクリア。最後まで得点を奪いに行ったモロッコだったが、アフリカ勢初の決勝進出とはならなかった。
雑感
間違いなく今大会のダークホース的な立ち位置だったモロッコ。しかし、前回王者の前に力負けしてしまう形となった。
5バックで臨んだ意図も分かるには分かるが、構えていたところから壊されて失点したのが切なかった。中を使われたら潰すをコンセプトにしていたチームが、そこでやられてしまったら元も子もない。
攻撃面も非常に良いボールの動かし方をしていたが、アスリート能力が高いフランスの選手たちを個々の部分で突破することが出来なかった。やはり、フランスの個の力は凄まじいと再認識する試合だった。
次はクロアチアとの3位決定戦。初戦と同じカードである。前回は0ー0の引き分けだったが、トーナメントでは決着が付くため、どちらに軍配が上がるか気になるところだ。
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