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2022年 カタールワールドカップ ラウンド16 モロッコvsスペイン マッチレビュー~真の支配者~

モロッコ0(PK3ー0)0スペイン

得点者(MAR)
なし

得点者(ESP)
なし

両チームのフォーメーション

前書き

 皆さんこんにちは川崎人です。今回はWindtoshさんが企画している「ワールドカップ・アーカイブ化計画」に参加させて頂くことになりました。

 ワールドカップアーカイブ化計画とはなんぞや?という方は、こちらのnoteを参照ください

 その中で、今回はワールドカップアーカイブ化計画の「決勝トーナメント編」になります。私、川崎人は、抽選の結果「モロッコ代表の担当」となりました。そのため、これからモロッコの試合を分析したマッチレビューを書いていきます。

 ちなみにグループステージでのモロッコの試合は全て視聴して、ハイライト記事として残しています。まずコチラを読む前に、ハイライト記事の方を読んでみるとモロッコの戦い方を知れると思います。

モロッコのハイライト記事

vsクロアチア

vsベルギー

vsカナダ

「コンパクト」と「サボらない」

 ということで、ここからレビュー開始。

 グループFを首位通過したモロッコは、日本と同組となったグループEを2位で通過したスペインと対戦となった。

 前回のロシアワールドカップでもグループステージ第3戦で相見えたこのカード。その時は2ー2の引き分けで終わっている(記憶にない)。

 試合展開は大方の予想通り、スペインがボールを保持しモロッコがミドルブロックを組んで対抗する構図になった。

 ここまで速いパス回しから、相手の守備ブロックのギャップを突いてゴールを奪ってきたスペインが、グループステージわずかに「失点1」と堅牢な守備を誇るモロッコ守備陣にどう風穴を開けるかが注目されていたはずだ。

 しかし序盤からスペインは、ボールは保持するものの攻めあぐねる展開となった。スペインの保持は同じサイドのSB―IH―WGがポジションを変えながら、前後の選手でレーンが被らないように立ち位置を守っていた。

 左サイドで言えばペドリが降りて来ることで、アルバに大外の高い位置を取らせる。そしてオルモが内側に絞る形が多め。一方で右サイドはフェランが外、ガビがハーフレーン、ジョレンテがCBのサポート役を行っていた。

 そこに対しモロッコは4ー1ー4ー1のラインをコンパクトに形成。そこから、IHの選手がボールホルダーのCBに出て行き4ー4ー2に気味になりつつ、1トップのエン=ネシリはアンカーのブスケツを消しながら守っていた。

 モロッコは、グループステージ3試合を通して中を閉めつつ、そこにボールが入れば囲い込んで潰す!という守備を徹底していた。

 例えば、ペドリがブロックの中で受ければ、アムラバトを中心に素早く囲いんでボールを奪ったり、CBに出て行ったウナヒが急いで戻ってパスコースを消したりしていた。

 だが、ペドリが落ちてボールを受ける場合は放置。パスコースを消しつつも激しくボールを奪いに行く素振りはあまり見せなかった。

 これを左右で同じように出来てしまうのがモロッコの強みだと思う。左のアマラーも縦に入りそうな場面でパスコースを消してボールカットするシーンが多く見られた。

 それも陣形をコンパクトにしているからこそ成せる組織力だと感じる。仮に1人が剥がされても、選手間の距離が近いためカバーが間に合うのだ。それを間延びすることなくフィールドプレーヤーの全員が足を止めないでスライドし穴を作らないようにしているから大したものである。

 スペインとしては、幅を取る選手がどう局面を変えるかという流れになって行く。例えば右の幅取りを主にやっていたフェランが1枚剥がして前進することは出来ていたし、左のアルバも大外から裏抜けを試みてクロスまで行くようなシーンはあった。

 しかし、そこへの対応も速い。モロッコのSBにはハキミ、マズラウィという強豪クラブでプレーしている選手がおり、「質」の面は担保されている。そんな彼らを剥がしても次の選手がカバーに出てくるのがモロッコのオーガナイズされた守備である。そのため、崩しきる場面は非常に少なかった。

 ここでスペイン凝らした工夫2つ。1つは、アセンシオを自由に動かすこと。サイドのトライアングルに加え、アセンシオがサイドに流れたりすることでモロッコの守備陣形をズラそうとした狙いはあるはず。実際、落ちるアセンシオにはアゲルドが着いて行きそこで潰すことが多かった。

 ただ、アセンシオがサイドに流れたりすると話は別。それはそれで放置して、アゲルドは自分の持ち場に戻りつつそこに入ってくる選手に対応していた。

 スペインの凝らした工夫2つ目はペドリかガビのサイドを変えること。これは少し効果があったように見えた。

 オルモやペドリよりも狭いエリアでターンが出来るガビをハーフレーンに置き、アルバからのパスを受けてから前を向くことは出来ていた。ここは、ウナヒがボールホルダーとなるCBに食いつきやすい感じなので、その背後を狙ったのだろう。

 それでも、アムラバトが飛んできたり、ツィエクが絞って対応したりと、なかなかボールを受けることが出来なかった。

 右サイドもペドリが低い位置で捌きつつ、幅を取ったフェランと内側のジョレンテの連携でサイドを打開しようと試みていた。ただ、左サイドと同様に前進の手助けにはなっていたが、フィニッシュに繋がったわけでは無い。前半唯一のシュートシーンはラインブレイクに成功したアセンシオのシュートだけに留まっている。

 そのため、前半はボールを長い間保持しながらもモロッコのミドルブロックを攻略できなかったという見方になるだろう。

攻撃はダイナミックに

 一方でモロッコの保持はダイナミックな展開が多め。非保持が「静」だとしたら、保持からの攻撃は「動」といった感じだろう。

 この試合はGKの「ボノ」ことヤシン ブヌを使ってビルドアップを試みていた。この際、スペインの中盤は噛み合わせ重視。ガビがアンカーのアムラバトを監視し、ペドリとブスケツでIHを見る守り方をしていた。それに加え、アセンシオが片側のサイドを切りながらGKに寄せに行く感じである。

 ボノは基本的にサイドにボールを振ることを狙っていたように感じる。チャレンジするが故にヒヤヒヤする場面もあったが、何とか掻い潜れたりしていた。多分いつかは咎められそう。

 ただ、繋ぐのがダメそうなら潔く蹴り飛ばしてエン=ネシリのポストワークを使ったり、スペインに回収された場合は、前線の選手がカウンタープレスでボールを奪いショートカウンターに移行するという絵は描けてはいたように感じる。

 それでもスペインの両WGはCBを見ていたり、守備の立ち位置の怪しさがあったため、SBは実質的に空いていることが多め。そのため幅を取るSBにはパスが入る場面もあった。ここでスペインのSBの縦スラが間に合えば良いのだが、間に合わないシーンもありという感じである。それでもスペインのアタッカー陣はプレスバックをサボらないため、立ち位置の怪しさを収支ゼロに出来てきた。

 そんな中で、モロッコの前進が上手く行っていたのは14分の場面だろう。アゲルドが運んでハキミにつけると、オルモを剥がした中にドリブルをする。そこからボールを拾ったアマラーから内側でサポートしたマズラウィがブファルとのワンツーで抜け出す形だ。

 モロッコのサイドは両WGがボールを持てるのに加え、SBが長い距離をスプリント出来るのが特徴。ブファルもジョレンテとの1vs1で優位を作れていたし、ツィエクも下がって受けつつ、ハキミが追い越して受けるスペースを作ったりとサイドの連携が非常に良かった。

 23分ごろになるとアムラバトが列落ちし始め、ガビからのマークを解放するようになる。これもモロッコ保持の面でペースを握れるようになった要因でもあるはず。その直後にはフリーで前を向いたアムラバトからハキミ→ツィエク→追い越したハキミという攻撃の形を作れていた。

 ハイプレスの精度が下がってきたスペインは25分ごろにもう一度スイッチをいれ始める。これでモロッコの保持の時間は減った印象を受けた。

 ただ、同じような形をカウンターからも繰り出せるのがモロッコの恐ろしいところ。39分には中盤でボールを奪ってからショートパスを挟み、ツィエクが降りてハキミが抜け出す攻撃が出来ていた。

 ゴール前まで良い形で攻め込めていたのはボールを握られ続けたモロッコの方だったというのが、この試合の面白いところ。ただスペイン同様に得点を奪うことは出来ず。前半はスコアレスで折り返した。

押されるもクローズに持ち込む

 後半も前半と似たような構図になりつつも、スペインがかなり押し込むことが多かった。

 後半スペインがやろうとしてのは、落ちてくるアセンシオをCBを引き付け、その背後にハーフレーンに立つ選手が抜け出すという形。これは、52分と55分に見られている。

 前半はほぼ相手を動かすことが出来なかったため、相手CBのテリトリー内で動かそうと試みたのだろう。ただ2回ともサイスに潰されて終わってしまっていた。

 むしろ良かったのは左サイドの方。前半同様にガビがハーフレーンで浮くシーンがあれば、53分にはアルバとオルモの連携からモロッコのマークをズラしフリーになったガビがサイドを突破してFKを獲得するなど流れを掴みつつあった。ただ、これが再現性を持って繰り返せなかったのは痛かった。

 その理由としてはモロッコが集中して足を動かし、ズレを作らないように出来ていたからだろう。

 一方のモロッコもカウンターからチャンスを作ろうとするがコチラもシュートまで行けるシーンは少なかった。

 スペインはモラタとソレールを投入。モラタの裏への抜け出しによってエリア内に迫るシーンが増えて行くが、モロッコのCB陣もしっかり離さず対応。シュートまで行かせない。

 お互いビッグチャンスを作れない中でスペインは2回目の交代。フェランに代えてウィリアムズを投入する。このウィリアムズの投入によってスペインの右サイドは活性化する。

 モロッコのDFに対して個人で突破出来るアタッカーはかなり効果的。それはカナダ戦で見えていた部分である。ウィリアムズの縦突破からのクロスでモロッコゴールを脅かす時間帯が増えていった。

 それに対しモロッコは3枚替えで応戦する。CFのシェディラとIHのサビリ、左SBのアッラーを投入した。この左サイドのマズラウィを下げてアッラーを入れたのは間違いなくウィリアムズ対策のはず。それに加え、モロッコの右CBのアゲルドが負傷交代を余儀なくされるアクシデントに見回れてしまう。

 残り10分の中、モロッコは前線の選手が変わったことにより守備陣形がやや間延びしてしまった印象を受けた。

 87分のウィリアムズがアッラーを千切ったシーンは、縦に間延びしてしまいアムラバトの脇でソレールが浮いていた。しかし、サイスがアッラーのカバーをし難を逃れる。スペインとしては一瞬の隙を咎めることが出来なかった。

 後半アディショナルタイムにはオルモのFKをボノがセーブ。試合は0-0のまま90分を終えて延長戦に突入する。

 延長戦は一進一退の攻防。両チーム共に決定機を作るもののゴールは生まれなかった。延長後半にモロッコのキャプテンであるサイスが負傷するも、サイスをピッチに残したまま5バックシフト。守り堅めつつスペインの猛攻を抑えてPK戦に持ち込んだ。

 そのPK戦ではGKのボノが3連続セーブの活躍を見せる。モロッコは3人中2人が成功した中で4人目のキッカーであるハキミがパネンカで沈めて勝利を決めた。激闘だった試合は、ボールを保持されながらも終始ゲームをコントロールしたモロッコに軍配が上がった。

雑感

 グループステージ3試合で続けていたことを強豪スペイン相手にもやりとげたモロッコ。ボールは持たれるけど、試合をコントロールする戦い方で見事勝利を収めた。そんなモロッコは「真の支配者」という言葉が相応しいだろう。

 やっぱりオーガナイズされた守備は素晴らしかった。スペインの速いパス回しにも着いて行き、スライドを繰り返しながら最後まで風穴を空けることなく戦い抜いた。

 保持でもダイナミックな攻撃は健在。カウンターに限らず、ボール保持からでもスペインを敵陣に押し返すなど、守りだけじゃないことを披露した。

 そして延長の終盤で5バックにしつつ試合をクローズさせた。サイスの負傷もあったと思うが、PK戦までもつれ込めば勝つ算段があったはず。相手の攻撃を吸収し続けてのPK戦だ。ボールを支配して1点も奪えなかったスペインよりもモロッコの方がメンタルで勝っていたはず。それが結果となって現れたのだろう。

 そんなモロッコのベスト8での相手はポルトガル。現時点での不安要素で言えば、両CBが負傷したことと、ここまで固定メンバーで戦い続けていることである。主力の疲労と控えのパフォーマンスが不安しされる中、その逆境をはね除けてベスト4に駒を進めるかに注目だ。

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