【童話読み聞かせ】やせたヤギ
ちょっとおちゃめな魔法のようなことば「ペケロンパ」。童話の読み聞かせを「聞かせよう」。そして、みんなで読み聞かせを「してみよう」。
このペケロンパ・プロジェクトは読み聞かせによって子どもとの暮らしを応援しています。詳細はこちらの記事でご紹介していますので、良かったらご覧ください。
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▼まずは動画で聞いてみよう!
童話家・出村孝雄による読み聞かせの口演の音源を元にイラストをつけて動画にしています。
▼読み聞かせをしてみよう!
このお話の目当て
無実の罪をきせられて苦しむ人もあるという。その真実を訴えさせたいねがいをこめての創作です。子どもの正義感をたかめてほしいと思います。
読み聞かせのポイント
ろうやの窓の小さいこと、オオカミが太っていくのに、ヤギのやせ細っていくところを、子どもに理解させてください。
おはなし:出村孝雄 / え:清水慎太郎 / 著書:出村孝雄 / 制作:Bit Beans
▼おはなし
いじわるで、うそつきで、あばれんぼうのオオカミがいました。
オオカミは、あるとき、ライオン王さまの、ご殿の庭へ行ってみました。
その庭には、みかんの木があって、みかんがいっぱいなっていました。
「わあ、たくさんのみかんだ。みんな色づいて、とてもおいしそうだ……。よし、このみかんを盗ってやろう」
オオカミは、王さまのご殿の庭のみかんを、かたっぱしから、もぎとっていました。ちょうどそのとき“カタ、カタ”音が聞こえてきました。
オオカミが、びっくりして見ていると、それはイヌのおまわりさんでした。
「あ、イヌのおまわりさんだ……。あのおまわりさんに見つかったら、ろうやの中に、ほうりこまれてしまうぞ……。それ、逃げろ」
オオカミは、いちもくさんに、逃げだしました。
イヌのおまわりさんは、あとを追っかけてきました。
「こらっ、みかんどろぼう。待て、待たないか」
オオカミは、どんどん逃げました。そのうちに、ヤギの家を見つけました。
「よし、このヤギの家に、かくれることにしよう」
オオカミは、ヤギの家に、とびこみました。ヤギはおどろきました。
「わあ、オオカミだあ、オオカミだあ」
オオカミは、目を、ギョロリと光らせて、ヤギを、にらみつけました。
「こら、ヤギ。わしのいうことを聞けば、ゆるしてやるが、いうことを聞かなければ、かみつくぞ」
ヤギは、おそろしくて、ふるえあがりました。
「わあ、こわい、こわい」
「こら、ヤギ。わしをどこかへ、かくすのだ……。さて、さて、どこへかくれてやろうかな……。あ、あそこに物置がある。あの物置の中にかくれてやろう……。こら、ヤギ。だれかがきて、オオカミはどこだと聞いても、教えてはならないぞ、わかったな。 『知りません、知りません』というのだぞ」
オオカミは、物置の中に、そっとかくれてしまいました。
やがてイヌのおまわりさんが、ヤギの家へ、やってきました。
「これ、これ、ヤギ……。ここへ、オオカミが来なかったか」
「はい、おまわりさん、そのオオカミが……」
「うん、オオカミが、逃げこんできただろう」
「はい、そのオオカミが……」
「うん、そのオオカミは、どこへ、かくれたのかね」
イヌのおまわりさんは、ジロリと、あたりを見まわしました。
「ははん、この物置の中が、あやしいぞ」
イヌのおまわりさんは、物置の戸を“ガラ、ガラ” と、あけてみました。
オオカミは、物置のすみの方に、かくれていましたが、とうとう見つかってしまいました。
「こら、オオカミ!もう逃がしはせぬぞ。さあ、出てこい」
イヌのおまわりさんは、オオカミを、なわで、しばってしまいました。
「こら、オオカミ!おまえは王さまの、ご殿の庭のみかんをとった悪いオオカミだ。ろうやの中へ入れてしまうから、かくごをせよ」
すると、オオカミは、頭をさげながらいいました。
「おまわりさん。王さまのご殿の庭のみかん、あのみかんを、とりにはいったのは、わたしだけではありません。」
「なに、オオカミだけでなかったら、だれが、いっしょに行ったのだ」
「はい、おまわりさん。ここにおりますヤギもいっしょでした……。わたしが、みかんを盗れば、どろぼうになるからやめよう、といったのに、ヤギがむりにわたしを、つれていったのです」
イヌのおまわりさんは、オオカミがうそをいっているとは知らずに、ヤギもなわでしばってしまいました。
「さあ、ヤギ。おまえも、オオカミといっしょに、ろうやヘ、はいるんだ」
「おまわりさん。それは、とんだまちがいです。わたくしは、ご殿のお庭に、みかんの木のあることも知りません。わたくしは、どろぼうではありません。どうか、なわをほどいてください」
すると、そばにいるオオカミが、すぐ口を出します。
「おまわりさん、ヤギは、うそをいっています。わたしのいうことに、まちがいはありません」
かわいそうに、ヤギは、なんにも悪いことをしないのに、うそつきのオオカミといっしょに、ろうやの中へ、入れられてしまいました。
ろうやでは、朝、昼、晩、一日三回、ご飯をたべさせてもらえます。
おまわりさんは、オオカミとヤギのはいっているろうやに、ご飯を運んでくれました。ろうやの小さな窓から、ご飯やおかずののっている皿を、入れてくれました。
おなかのすいているヤギは、
「さあ、ご飯をたべることにしよう……。いただきます」
ヤギが、ご飯をたべようとすると、オオカミが、ギョロリと、目を光らせて、にらみつけました。
「こら、ヤギ、ご飯をたべてはならんぞ」
「でも、おまわりさんが、せっかく運んでくれたもの……」
「こら、ヤギ、おまえは、ご飯をたべることをやめよ。そのご飯は、わしがたべてやる」
「えっ、わたしのご飯を、オオカミさんがたべるのですか……。では、わたしが、オオカミさんのご飯を、いただきましょう」
「こら、ヤギ。おまえはなにもたベなくてもよい。わしが、わしのご飯も、おまえのご飯も、みんな、たべるのだ」
「え、そんな……」
「こら、ヤギ。いうことを聞かないと、かみつくぞ」
あばれんぼうのオオカミは、「ガッ」と、口をあけて、ヤギにとびかかろうとしました。
ヤギは、びっくりして、だまってしまいました。
「エ、へ、へ、へ……。ヤギ、わしにかみつかれたら、おまえは死んでしまうぞ。これからは、がまんして、わしのいうことを聞いていた方がいい……。さあ、このご飯は、みんなわしがたべる……。まあ。静かにして、見ておれ」
オオカミは、じぶんひとりで、ご飯をたべてしまいました。
それからは、つぎの日も、そのつぎの日も、每日、每日、ご飯は、みんなオオカミが、たべてしまいました。
毎日、ヤギの分まで、ご飯をたべているオオカミは、デブ、デブに太ってしまいました。それにくらべて、ヤギは、なんにもたべることができないので、ヒョロ、ヒョロに、やせてしまいました。
デブ、デブに、太ったオオカミは、いつも、いつも、ヤギをいじめています。
「やぁい、ヒョロ、ヒョロの、ヒョロヤギ。いくらヒョロ、ヒョロにやせて、死にかかっても、おまえには、ご飯をたべさせてやらないぞ」
もともと、からだの小さなヤギは、やせて、やせて、ほんとに小さなヤギになってしまいました。
ある日のことです。
ヤギは、ろうやの小さな窓のそばで、ぼんやり外を、ながめていました。
「ああ、わたしは、なんにも悪いことをしないのに、ろうやへ入れられてしまった。それになんにも、たべていないので、こんなに、やせてしまった。このままからだが弱ってしまって、ろうやで死んでしまうかも知れない……。ああ、いやだ、いやだ。死ぬのはいやだ」
とうとう、ヤギは、悲しくなって、泣きだしました。
思いっきり泣き終ったヤギは、ふと、よいことを思いつきました。
「あ、この小さな窓……。この窓はご飯のとき、お皿を出したり、入れたりしているけれど、あの皿が、この窓からはいるのだから……。うん、こんなにやせてしまった、わたしなら、この窓から出られるかも知れないぞ」
オオカミを見ると、オオカミは、いびきをたてて、居眠りをしています。
「よし、オオカミが眠っているうちに、この窓からはい出してみよう」
ヤギは、窓に手をかけると、
「そら、そら、そーら」
とうとう窓から、はい出すことが、できました。
ろうやから出たヤギは、いちもくさんに逃げました。
ちょうどそのとき、オオカミが、目をさましました。
「あ、ヤギが、窓から逃げだした……。よし、わしも窓から出て見よう」
オオカミは、窓に手をかけて、出ようとしましたが、デブ、デブに太ってしまったオオカミは、とても窓から、出ることができません。
「ああ、だめだ。わしは、あんまり太っているから、この窓からは出られない……。ああ、残念だ」
オオカミは、とても くやしそうな顔をしました。
ろうやから逃げ出したヤギは、ライオン王さまに、今までのことを、話しました。
「王さま。悪いことをしないわたくしが、ろうやの中で、苦しい思いをしました」
王さまは、ヤギのいうことを、目に涙を浮かべて、聞いていました。
「そうか。オオカミがウソをいって、ヤギもみかんどろぼうの仲間だと、いったのか。それをよく調べもしないで、おまわりさんは、おまえをろうやヘ、入れたんだな。それは苦しかったであろう。よし、おまわりさんには、悪いことをしない者を、ろうやに、入れてはいけない。よく調べるように、いってやろう」
それから、ライオン王さまは、庭のみかんを、ヤギや、ほかの動物たち、みんなにわけてやりました。
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