誰よりも優しくなりたい
昨日は歯医者に行った。
家から50分はかかる場所にある歯医者だ。俺はゴールド免許だからスピードも出さずに慎重に運転してた。でも、スピードは50キロは出してるから決して遅くはない。
しかし、途中で後続車から煽られた。
「こいつ……俺の車が黒塗りのセンチュリーで乗ってる俺の見た目も輩みたいな強面だったとしても、こんなに煽るのか?」
と、一瞬思ったが落ち着いて考えた。ここで怒ったって何もない。もしかしたら、お腹痛くてトイレを探して爆走中かも知れないし、もしかしたらシングルマザーで苦労して育ててくれた、さゆりママが病院で意識不明の重体で俺を煽らなきゃ病院まで間に合わないから焦ってるのかも知れない。
そう思った俺は路肩に車を寄せ、煽ってきた後続車を優しい気持ちで先に行かせた。
しかし、煽ってきた車に乗ってたのは茶髪のゴキゲンパーティーピーポーそうな若いカップルだった…
でも、怒らない、怒らない。人に優しくして損なんて何もないはずだから。
その途中のコンビニの駐車場から直進する俺の車の前に無理やり入り込んで来たおばさんがいた。
俺は急ブレーキをかけながら、
「ちょっと待ってくれよ!俺の後ろには車がいないじゃないか。そんなに無理やり前に入り込まなくても、俺の車が通過するのを待っててくれたらいいのに……そうすれば無理なく道路側に入れるのになぁ…」
そう思ったが、おばさんを快く前に入れてあげた。
「これでいい。俺は何も焦る必要はない。確かに急ブレーキをかける羽目になってしまったが、後ろには車はいないし、何も問題ない。それに最近はみんなトラブルを避けるために横入りした後にハザードランプを付けてくれて、サンキューハザードをしてくれる。おばさんもきっと悪いと思ってくれてるだろうし、前に入れてくれてありがとう!と感謝してくれてるはずだ」
しかし、あ〜しらきのコントのような男かな?女かな?どちらか分からないようなパンチパーマ頭のおばさんは俺を睨みつけながら、当然のような顔をして前に横入りをして、当然のごとくサンキューハザードランプすら付けてはくれなかった…
当然ながらコンビニから道路に出る車と道路を直進してる車なら、直進してる俺の車が優先だ。
でも俺は怒らない。これでいい。いつかきっと、おばさんも同じような場面に出くわし、俺の気持ちを分ってくれるはずだ。優しさはきっと相手に伝わる。きっとそうだ。
だから、俺はこの先も人に圧倒的に優しくして生きる!
人に優しくすることは、何も損ではないからだ!
………本当か??
多分、相手には、自分を犠牲にした優しさはあまり伝わらない。自分の利益を優先して考えてる人に自分を犠牲にして優しくしたって、相手は何も感謝はしないだろうし、きっと自分だけが損してしまうことが多いだろう。
優しい人は今の世界では生きにくい。
なぜなら、自分の利益を追求する人がそのまま裕福な人生を送る可能性が高い世の中だからだ。
だから、自分の利益に対して遠慮してしまう人はそのまま損をしてしまう可能性が高い。
他人に対する優しさは、そのまま自己犠牲に繋がって他人に優しい人は必要以上に損をすることが多いだろう。
でも、それでも、俺はそんな人が好きだし、そんな人を助けたい。
でも、そんな思いも実際の場面では相手には伝わらないだろうし、意味のない優しさになってまうのだろうな。
俺も知らぬ間に人の優しさを踏みにじった時もあっただろうし、相手の優しさを当たり前に思って何も感謝してない時もあったからだ。
具体的に書くと両親の優しさなんて、あって当然の優しさだと思ってた。
家に帰ったらご飯が用意してあって当たり前、部屋の掃除がしてあって当たり前。
しかし、一人暮らしをしたら、当然ながら自分の食事を用意しなきゃならないし、部屋の掃除は自分がしなきゃ誰もしてくれない。ここで初めて母親のありがたさに気付くわけだ。
俺は学生の時は毎朝お味噌汁が出てくるのが嫌だった。なんで毎日同じような物を食べなきゃならないんだ?そう思ってた。
でも、一人暮らしを長くしてた時は、実家のお味噌汁を食べたくてしょうがない時があった。でも、食べたくても誰も用意なんてしてくれない。
失ったから分かる、有り難さだ。
だから、今、人の優しさに敏感ではない人は失ったら分かる。人が自分のためにしてくれる当たり前じゃない優しさがどんなに有り難いかを。
主婦の人はお弁当を毎朝作ったり、毎日の食事を考えて作ったりしても、旦那さんや子供が当たり前のようにあまり感謝もせず食べてる姿を見て、虚しくなる時もあるのではないかな。
でも、やはり今は分ってくれないかも知れない。
だって、今はその当たり前の優しさを失ってないからだ。
でも、損してると分ってても、今は伝わらないと分ってても、大事な人には優しくするしかない。
優しさは分ってもらうため、伝えるために優しくするわけではないと思う。
自分が優しくしたいから優しくするのだ。
食欲なんかと同じだ。自分から湧き出る、優しくしたい欲求だ。
相手に伝わらなくても、何も報われなくても関係ない。
だから、俺はこれからもっと優しくなりたい。