天使の輪。
記憶が音楽と共にある。
記憶の中で輝き続ける女性がいる。
ある職場の一つ年上の先輩だったTさん。
姿勢が良くて、穏やかで厳格、しなやかな美しさ。
わたしは、一人だけ、下の名前で「ちゃんづけ」で呼ばれていて、学生時代から、どちらかというと長身だった自分には、くすぐったくて、恥ずかしく、
同僚の小柄で可愛らしいMちゃんに、微妙な気持ちを感じていた。
「いいなぁ…アタシもMちゃんって呼ばれてみたい」
と、羨ましいとよく言われた。
Tさんは、長い髪を、ソウルフルな外国女性のような、カーリーヘアにしていた。
仕事中はインディアンジュエリーのシルバーのバレッタで一つにまとめていたけど、作業で隣りになると、当時流行ってた「Agree(アグリー)」のシャンプーの香りがした。
其れは、甘くて、五感を振るわせる魅惑の香りで、当時、ウイング高輪にある雑貨屋さんに、そのピンクのボトルを買いに走ったものだ。
人間の七不思議。
[試供品では良いと感じた商品の現品を購入すると、何故か思ってたより、感動が薄れる]というジンクスのように、
Tさんのような空気は纏えなかった。
女心と秋の空。シャンプーを変えた。
若い頃は、興味の対象がコロコロと変化してゆく。
ある日、デッサンの練習帰り、テイクアウトしたラテを片手に歩いていたら、駅前に止まっている車中に、上司とTさんの姿があることに気づいた。
Tさんは泣いているようにみえた。
(みてはいけない…)そう思い、その場から走って帰った。
翌日、仕事帰りに二人で、六本木に飲みに行った。
わたしが抱えてた実家との問題を、泣いて聞いてもらってから3年が過ぎようとしていた。
「精神は鍛え続けることでしか、耐性がつかない。
今は、ただ冷静に耐えなさい」と(実際は、もう少しゆるくだが、要約すると)そのように励ましてくれた。
DJブースから、あの曲が流れて、
https://youtu.be/NqThf-MpCjs
Tさんが突然、ダンスフロアに飛び出る。
あのバレッタを外して、
カーリーヘアを振り解き、
………
あの繰り返す部分で手を上に伸ばしながら、
フワリと回る。
いつの間にか、周りの観客も、黙って見つめる。
とても綺麗なカーリーヘアが、揺れて、輝く。
ライトの光が揺れ動くように、
所在無きジプシー ウーマン。……
踊り終わり、戻って来た時のことが忘れられない。
何かを切り捨てて、前を向いて歩き出した
人間の表情。
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