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なんでもない。

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記したつもりが消えていくもの。
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2020年5月の記事一覧

傘と倍返しと性。

傘と倍返しと性。

「おかあさん」は、ひとりだけだけど、
「ママ」ならばもうひとりいる。

その一人が、新宿ゴールデン街にいるのだから、笑うしかない。いや、笑う為に、ママはいたんだから。

猫の額みたいなそのスナックは、狭いのに妙に落ち着くという不思議さで溢れていた。

ママは、自分の若くて美しかった写真を、店に飾っていた。
わたしは、成人はしていたが、お酒が弱かった為、
いつもジュースだった。
そのたびに、「アンタ

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渡り鳥。

渡り鳥。

「もう、欲しいものなんか無いんだ。本当に欲しいのは…」
彼は確かにそう言った。
新宿の伊勢丹のメンズブランド店内。

背中を押しやり、フッと笑って、店員に合図をして、その場を離れた。

戻って、会計を済ませて、少し後ろを歩く紙袋を抱えた彼は、「何で?」をふて腐れ気味に繰り返す。

『キミは可愛いから、弟みたいに可愛い子に、着せ替え人形みたいな扱いをしても、それ普通でしょう?』

勢いよく走り寄って

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