雑談meetsシネマ〈8：幽霊がいる〉

SF映画について話しながら、謎を解いちゃう映画雑学フィクション劇場。毎回、下北沢の架空のカフェバーを舞台に、5人の登場人物が雑談します。
第8回は「幽霊がいる」……

今日の映画は何ですか？

ＤＪ　休みのところ、ごめんね。借りてたCD……。って、御簾照さん？

御簾照　どうも、こんにちは。

ＤＪ　珍しいわね、2人で。しかも、アニメ？

ショウコ　相談にのってもらってたんです。

ＤＪ　ふーん。何これ？『ブレードランナー』のパクリ？

金田「俺用に改良したバイクだ。ピーキーすぎてお前にゃ無理だよ（That bike's been customized just for me. It's too wild. You couldn't handle it.）」

ショウコ　ＤＪさんまで。舞台は同じ2019年ですし、確かに『ブレードランナー』の公開は、これより6年も前。でもこの原作漫画の連載開始は『ブレードランナー』と同じ1982年です。

御簾照　同時期に同じ世界観の作品が出てくるのはよくあります。先週の『猿の惑星』だって、同年に『2001年宇宙の旅』公開ですよ。

ＤＪ　そう言えば“エスパーのいる教室”、御簾照さんの言うとおりだったらしいわね。

カントク　こんにちは。ショ、ショウコさん、よければ、しょ、食……なんで皆さん？

ＤＪ　カントクこそ、今日はお店、お休みなのよ。

カントク　ぼ、僕は、え、えっと、お休みだからお暇かと……。

休みの日は何をしていますか？

クマ　おう、お揃いだな。

ＤＪ　「本日休業」の看板が見えなかったの？　店にとっては休業日も仕事日よ。うちの蕎麦屋だって――

クマ　まあまあ。ＤＪだって来てるじゃないか。映画も流れてるし。

カントク　今日は『AKIRA』なんですね。

ショウコ　お好きですか？

カントク　えっ、あっ、す、好……

御簾照　ジャパニメーションの名作、大友克洋が生み出した圧倒的な世界観。進化したメカニックと、超能力が混じってオカルト要素があるのも魅力ですね。

クマ　オカルトだ、そうだそうだ！　それで相談なんだ。

ショウコ　自力で解決しないんですか？

クマ　だって、“幽霊がいる”って言うんだぜ？

幽霊を見たことはありますか？

クマ　ほら、俺、幽霊とか嫌いだろ？

ショウコ　知りません。

クマ　なのに、幽霊退治の相談が来たんだよ。

ＤＪ　お坊さんに頼めば良いじゃない？

クマ　取り分が減るだろうが。

ＤＪ　がめついわね。

御簾照　それで、どんな謎ですか？

クマ　話が早い！　ここからクルマで20キロほどかな。K町って知ってるか？

カントク　あっ、最近、フィルムコミッションから、ＤＭも営業電話も来ました。

ショウコ　カントクさんみたいな小さいとこまで？

ＤＪ　ショウコちゃん、言い方……。

カントク　……僕より小さい団体にも営業いってるらしいです。

クマ　見るものも、名物もなく、流行らない町らしい。けれど、そんな町が最近、幽霊が出るってんで話題だ。
町外れの林道に、戦国時代の落ち武者の一行を祀る、大きな石の塚がある。身分に合わせ、大小、結構な数だ。深夜に通ると、妙な声が聞こえたり、白装束の幽霊を見たりするらしい……。「町に不名誉だからどうにかしてくれ」って、町内会長の花屋から相談受けたんだ。

キヨコ「夢を見たの（It was a dream that I saw.）」
大佐「夢？（A dream?）」
キヨコ「街が黒い影に包まれて壊れていくの。人がいっぱい死んで、私たちはもう一度アキラ君に会ったの（The city started to crumble apart, covered by a big shadow. Lots of people died. And the three of us ... we get to meet Akira again.）」

頬のリフトアップしてますか？

ＤＪ　このキャラ、子どもなの？老人なの？　幽霊よりよほど怖いんだけど。

カントク　軍が超能力開発のために投薬したんですよ、子どもに。その副作用です。

御簾照　『AKIRA』は、原作漫画の作者である大友克洋が監督・脚本。そもそも原作――というか大友克洋の作画能力やストーリー構成は評価されていて、一例が老人の描写です。肉のたるみまで描くのは画期的でした。

大佐「私の役目は信じるかどうかではない。行うかどうかだ（My job isn't to believe or disbelieve. It's to act or not act.）」

クマ　俺は当時、高校生だったから、本当にたまげたぞ。大友以前、以後は間違いなくある。

ショウコ　東京オリンピックの予言も、話題になりましたよね。2020年に出来なかったことも含めて。

クマ　まさに予言だよな。……って、おい！　俺の話はどこいった！

ショウコ　ノってたじゃないですか。

グレたことはありますか？

ケイ「そのもっと前の水や空気にも「遺伝子」があるのかしら？（And even before that. Maybe there was genetic material in the air and water...）」

ＤＪ　哲学的なストーリーなのね。

クマ　だから俺の話！

ショウコ　作り込みがすごいですから。制作費10億円とか言いますよね。

クマ　俺、グレるぞ。健康優良不良中年になるぞ！

カントク　アニメーションを作るにも、漫画で細かく描き込むようなものづくりの姿勢が観られる。詳しい説明は省きますけれど、コマ数が多くて動きが滑らか。

ＤＪ　たしかに情報量多いわよね、この映画。口もパクパク動くし。

ショウコ　プレスコですから。

ＤＪ　何それ？

カントク　セリフを録ってから、声に合わせてアニメを作るんです。すると、口の形が声に合います。アニメに合わせて音を録るアフレコが一般的ですけれど。

ＤＪ　普通とは逆なのね。

クマ　……。

御簾照　クマさん、大丈夫です。逆、の発想なんですよ。

好きな町はありますか？

御簾照　そもそも幽霊がいるか、という問題です。クマさんは見ましたか？

クマ　……いや。張ってはみたが。でも見たって噂も、音を聞いたって話もあった。

御簾照　では、なぜ最近からなのでしょう。戦国時代の落ち武者ですよね。令和になってから急に幽霊になるのは、おかしな話ではないでしょうか。

ショウコ　幽霊になるなら、すぐ祟りたいです。

ＤＪ　誰かに恨みでもあるの？

御簾照　ポイントは、幽霊によって何が起きたか？　言ってましたよね、最近「話題」だって。幽霊の話は町起こしの一環なのだと思います。しかし、利益を享受しているのは町の人ではないようです。なにせ、町内会長からクマさんへ相談。では、最近になって町に関わっている人……。

カントク　……フィルムコミッション。

御簾照　ええ。カントクさんのような小さい――失礼。いろいろなところへ営業をかける力の入れ方を考えると、なりふり構わず、町の価値を上げようとしているようです。

クマ　でも、幽霊は。

御簾照　フィルムコミッションですから、舞台設営、音響、役者……いくらでも仕込めるでしょう。しかも、大小多くの塚があるなら、隠し場所はあります。
つまり、幽霊がいるから町起こしにつかうのではなく、町起こしにつかいたいから、幽霊話をつくった。発想が、逆だったのではないでしょうか。

1杯目のオーダーは決まっていますか？

クマ　確かにな。K町が町起こしにやっきになっているという見方は本当だ。

御簾照　試しに、石の塚あたりを調べてみてください。何か、細工をした跡があるかもしれませんから。

鉄雄「金田ー！（Kaneda!!）」
金田「さんを付けろよデコ助野郎！（That's "Mr.KANEDA" to you, PUNK!）」

カントク　でも……そこまで、するものですか？

ＤＪ　カントク、人が来ないのは、店にも町にも、本当につらいことよ。さっき言ったけれど、「店にとっては休業日も仕事日」というのは本当なの。

ショウコ　はい。だから、うちも休みを使って、いろいろやろうとしていたんですが……。

クマ　いつもと変わらないな。今日、開店でいいんじゃないか？

御簾照　『AKIRA』にも出てきます。「もう始まっているからね」と。

ショウコ　そうですね……では、今夜も開店させていただきます。
皆さん、ご注文はいかがしましょうか？

イラスト　無重力尚靴履（ゼログラ）さん