見出し画像

「ポルノスターズ・リベンジ!」


 ポルノスターが真昼に夢を見ているころ、彼女に恋する一人の男は彼女の住んでるアパートメントに火をつけようとしていた。


 しかし、ポルノスターが眠っているのはそのアパートメントではなく、若くハンサムだが才能のない映画スターのキャンピング・バンの細く狭いベッドの上だった。
 シーツは甘い香水が流されたらしく淡い紫色が海図のなかの大陸のように広がる、しかし、残念ながら人は生き物だった、腐敗と絶命へひた走る単純な生き物に過ぎないので香水のように甘美な匂いばかり残すわけではない。

 オスとメスが夜の覇権を争うように貪った痕なのだ、甘いといえなくもないが、とても良い香とは言えない。人そのものの性が腐乱してゆく、それは濃密な死のにおいだった。流された液は腐敗し、死する。
 ポルノスターに恋する男は現実の彼女のことを知らない、まるで赤の他人だが、そもそもが理性を持たない人間だ、現実と妄想の境界線を一瞬で跳躍する。

 彼にとって、彼女は娼婦ではなく聖女でなかてはならなかった。どちらも架空の存在でしかないが、曖昧な境界線上を生きる男には壁なんてなかった。
 ポルノスターが見ているのは紫と桃の間の淡く甘い夢だった。春の柔らかく暖かい陽光のような瞬間を彼女は夢に見ていた。

 初めて脱いだギャラで買ったカーテンが燃えてしまっていることなんて考えもしない。狭い部屋に押し込んだ天蓋つきのベッドが焦げつつあることも知らず彼女は眠り続けていた。幸福な魔法が解けない、ありふれた平日の午後のことだった。
 アパートメントに火を放った後、彼はそこに彼女がいないことを知り絶望した。

 共に死すべきであった裸の女王はそこにいなかったのだ。彼は絶望する。絶望しながら「彼女」が架空であったのではと思い至る。
 恋い焦がれたポルノスターは彼にとって架空も同然であり、彼女にとっての彼は存在しないも同然だった。
 燃え盛る火に消えてゆくものが在るだけだった。




artwork and words by billy.

サポートしてみようかな、なんて、思ってくださった方は是非。 これからも面白いものを作りますっ!