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【移住者エッセイ】のんびり走ろう高知県。


 このnoteで知り合って、フォローさせていただいて。後にその方のTwitterもフォローさせていただいて。ありがたいことにその方からもフォローしていただきました。その人の書かれていることにとても関心があった。その方の住まわれている土地にとても愛着があった。
 以前の、兵庫に住んでいた僕は、海を探しによく鳥取へ訪れた。それから島根。日本海は美しく、そして、どこか懐かしく思えた。
 浦富海岸。鳴り石の浜。吉岡温泉。湖山池。風車の立ち並ぶ国道。シーカヤックや、水木しげるロード。ふと、思い出したこと、その方がお好きそうなことをTwitterにメッセージせていただいたんです。
 わざわざいただいた返信には、こう添えられていました。
「どなたか知らないお墓に、よく参っているというお話がとても好きです」と。
 昨年、そのことを書きました。故郷を捨てて離れてきた僕は、参るお墓がない。いまや帰る実家もない。でも、よく行く海沿いに一基のお墓があって、引っ越してきてから、よく、そのお墓を参っている、と。
 お花を供えて、落ちているゴミを拾って、手を合わせる。お世話になっていますと声をかける。どなたかは知らない。行年十八歳と刻まれている。理由は知りようもないけれど、ずいぶんお若い。
 しかし、年齢とは無関係に、人は死することだってある。

 兵庫県の姫路市あたりは、交通マナーの悪さをよく指摘される。僕もそう思っていた。しかし、(こんなことは言いたくないけれど)高知県のドライバーの運転マナーたるや、姫路市どころではない。姫路へ帰郷すると、寝ぼけて運転してるんじゃないかと錯覚するほどである。
 高知県にある国道55号線付近に暮らしているので、どうしても、日常的にその国道を使うことが多くなる。レースでもしてるのかと思うくらい、誰も彼もかっ飛ばしている。先述の鳥取には「ベタ踏み坂」と呼ばれる、とても急な坂があるのだけど、それに近いような気がする。
 制限速度は何キロだっけ? なんて訝るほど、誰も彼もが思い切りアクセルを踏み込んでいる。わずかなスペースを見つけて車線を変えて、また戻る。ウインカーも出さず、突然、前方に割り込んで、そして、もとの車線に戻っている。土地柄といえばそうだろうし、きっと、せっかちな県民性なのだろうとも思う。
 けれど。
 だからと言って、運転能力が他県より高いというわけではない。速度超過を見張る覆面パトカーが走り回っている。中央分離帯に激突していたり、田畑に突っ込んで停止している車をよく見かける。怪我がなければ不幸中の幸いとも言えるだろうけど、決してそんな幸運ばかりでもないはず。人は不死身ではないのだから。
 無謀な運転で、ひとつ、ふたつ、前に進んだところで、所詮、国道である。赤信号になれば、さきほど、僕を追い抜いた車が斜め前に停車している。
 僕は、あまり速度を出すほうではなく、なにか考え事をしながら、安全に運転をしている。人様より高い運転能力なんてないし、移動のたびに余計なリスクを追いたくない。のんびりと景色を眺めながら、なにか推考するのは、アイデアの源になっている。もちろん、制限速度より僅かに早く走ってますけどね。

 雄大で美しい海や自然を横目にしているのだから、もう少し安全運転をすればいいのに、と、よく思う。飛ばすだけ飛ばしたつもりでも、きっと、5分すら短縮できていない。そのたった5分か、それ以下の時間は、きっとあなたの人生のなかでわずかなのに。
 遠くから移り住むと、その土地のことを新しい視点で見ているのがわかる。この土地の人は美しい海を見慣れすぎて、もはや感動すらないそうだけど、5キロほどクルマを走らせるだけで、同じ海、同じ太平洋とは思えないほどに違った表情を見せてくれる。
 それに。
 この高知県は、食べるものが驚くほど美味しいし、人が誰もあたたかい。にこやかで、人懐っこくて、はちきん美人というらしい、スタイルが良く、美しい女性が多い。
 一年暮らした。それでも、まるで見飽きない。それほど多くの海を見たわけではないけれど、僕は、この高知県の海は、世界でもっとも偉大な海だと思っている。これから書こうと思っている物語の多くに、この海が登場すると思う。それは、雄々しく、激しく、そして、寛大でもある。
 だからこそ、運転も寛大に。とても広大な土地だけれど、そんなに飛ばす理由なんて、ほんとはないでしょう。
 この土地で暮らした、たった一年と半年は、僕という人間を再生させてくれたんです。生まれ変わったとさえ思う。もはや故郷のない僕にとって、高知県は新しい故郷。
 スピッツでも聴いてさ。左右に広がる圧倒的な自然をよろこびながら、少しずつ前に進みましょう。
 のんびり走ろう高知県。
 ということで、一回目の移住者エッセイはこれまで。
 それでは、また。ビリーでした。

photograph and words by billy.

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