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『海響一号 大恋愛』(海響舎)感想
これは、ヴァージニア・ウルフをめぐる雑誌『かわいいウルフ』の主宰で知られた小澤みゆきさんによる新たな出版プロジェクト「海響舎」の文芸誌『海響一号 大恋愛』のレビューである。今回はISBNコードが取得されており、独立系書店を中心に販売されている。(なおAmazon.co.jpには高額転売品が出品されているので、うっかり買わないように注意してほしい)
私は主宰の小澤さんからご献本いただき、このたび
オンラインSFイベント見聞記2020
前書き こんにちは、橋本です。私の趣味は、SFや幻想文学を中心とした読書です。
20代のころ勤めていた会社では、好きな時期に夏休みがとれました。そこでブルックリン・ブック・フェスティバル(NY)やReadercon(ボストン)などの海外イベントにふらっと一人でバックパックを背負い、参加していました。
しかし現在の勤務先は、全社一斉に休むタイプです。海外イベントへの参加は一気に難しくなりました
SF賞の改名について(キャンベル賞、ティプトリー賞)
ジョン・W・キャンベル・ジュニア新人賞およびジョン・W・キャンベル・ジュニア記念賞、そしてジェイムズ・ティプトリー・ジュニア賞が改名される予定である。本記事はこの件について思ったことをまとめたものだ。(photo by Romain Kamin)
1.なぜ改名されるのか? 端的にいう。由来となった作家の言動に傷つく人がいるからだ。
ジョン・W・キャンベル・ジュニア(1910-1971)はファ
伴名練『なめらかな世界と、その敵』(早川書房)を読んで
*Twitterの下書きに溜めた思いつきが下書きから溢れたため、こちらに投稿した。あまりまとまってはいない。最後の方は個人的な感傷しかない。あらかじめご留意ください。読みごたえのある論が読みたい既読者は「この世界の中で、この世界を超えて――伴名練とSF的想像力の帰趨 - “文学少女”と名前のない著者」を読みに行くべき。
以下にネタバレはないはず。
1. 通して読んだ感想
こうして短編集でまと
『Ghost to Coast』より「先生と聖骸と私」と「ヤムとメラハ」の話
これは、2019年5月12日に発行された同人誌、漂着物アンソロジー『Ghost to Coast』に収録された2篇についての感想である。ジャンルは現代ファンタジーだろうか。表紙は三色刷り風味。遠くの島(岸?)の、ちらりとのぞく白地にこだわりを感じる。
ここでは、収録されたうちの標記2作について思ったことをメモしておく。致命的なネタバレは避けているつもりだが、ややヒントは出してしまっているかもし
未訳小説レビュー Moondogs by Alexander Yates (Doubleday, 2011)
※この文章は『本の雑誌』2011年11月号に寄稿したものの再掲載です。8年近く経ちましたが、翻訳される気配はありません。私はこういう本が好きですという名刺がわりに投稿しておきます。
蒸し暑さにくらくらすることの多かった今夏、どうせなら暑い国を舞台にした、めくるめくような物語を読みたいと思った。
そんなわけでこの長編小説Moondogsを手にとった。家族の仕事の関係でハイチ、メキシコ、ボリビア
Wheels and Dragons(同人誌)感想
Wheels and Dragons (同人誌。発行元:サ!脳連接派)
ドラゴンカーセックス(DCS)のアンソロジーの感想である。致命的なネタバレはないつもりだが、ぎりぎりまで踏みこんだところはある。
まず、DCSとはなんぞやという方のために解説すると「ドラゴンが自動車と交尾」する題材だ。2004年の5~6月にジョン・マーテッロが描いた3枚が起源だという。2007年ごろ、この「起源」がイラ
ボルヘス『伝奇集』より「トレーン、ウクバール、オルビス・テルティウス」 あるいは終末SF/侵略SFの話
ホルヘ・ルイス・ボルヘスの初期作集『伝奇集』(鼓直・訳、岩波文庫)をひさびさに読んだ。ボルヘス作品では、しくみや細部ばかりが書かれるので、人間同士の情念の物語を摂取すると脳がもたれそうなときもスルスルいける。
本日は収録作から一篇「トレーン、ウクバール、オルビス・テルティウス」を紹介する。以下の紹介はネタバレをふくむので、ネタバレを目にしたくない方はくれぐれもご覧にならぬように。
内容の紹介