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放牧から始まる地域づくり~子ども・保護者・地域のパズルのピースを組み替えるプラットフォーム

不定期連載でお届けしていく『役員の顔』ですが、第二回目は理事の【清水紀人さん】です。

清水理事は(公財)かながわ国際交流財団という神奈川県が提唱する「民際外交」の推進団体として1977年に設立(当時の名称は神奈川県国際交流協会)され、現在は「多文化共生の地域社会づくり」に取り組む団体の職員として、NPO/NGO等との連携・協働、国際人材育成や学術文化交流の事業を実施している理事です。
子育て家庭の多様性の保障にさまざまな見地を頂きながら、今回はその一方でワークライフバランスの先駆け的な清水理事の「ライフ」の方に着目して一稿してもらいました!その人がその人らしく過ごせる「日常の暮らし」を大事にすることは何によって体現できるか?を考えさせられる内容です。

清水理事 ビーチバレーでの一コマ

PTA×学校×地域で広がる関係性

うちは自他認める放牧型子育ての家庭かと思う。今は中学生~大学生となった4人の子どもの子育てとして、では、これまで何をしていたのか?と改めて振り返ってみると、その大きな一つは子どもたちの通った小学校でのPTA活動だった。

子どもが学校内外で親以外の大人から「よう!元気!?」などと声を掛けられるような関係ができていれば、自分が何となく「見守られている」という安心感も抱けるのではないか―― そんな(親子のタテ関係ではない)ナナメの関係の大人がいることで、子ども―大人(親)の関係を閉鎖された家庭空間だけでなく、地域にも広げて開放系の関係を持つことは子どもたちにとって(そして親にも)よい影響を及ぼすだろう――そんな想いを持ちながら、PTA活動を通して、それぞれの子ども、そして親が自身の関係性を広げていく手伝いができればと考えていた。
ただ、もちろん関係性が広がっていくと、その分、しがらみも多くなってくるのは当然のこと。そうした時に、複数のコミュニティに帰属していれば、ちょっと窮屈だな、と思ったコミュニティから距離を置く、ということもできるし、実は、そうした適度な距離感をもった関係づくりは子どもだけでなく自分たち大人にとっても大切だと思ったりもしている。自らを過度に追い込まない一方で、その場の状況に臨機応変に対応していく、言わば「生きる(生きていく)力」にも通じるものでもある、かと。

いずれにしろ、そんな関係づくりを目指して、さまざまなPTA活動を行ってきた。災害時に避難所となる体育館での宿泊体験だったり、ロケットストーブづくりをはじめとした防災フェスティバル、個人的に念願だった流しそうめんも実現した夏祭りなどなど(ちなみに今は、そんな活動を通じて知り合ったオトーサンおかーさんやその子どもたちも含めて、一緒にビーチバレーを楽しんでいる)。

防災フェスティバルの集合写真

「本気の失敗」と「小さな成功」

PTAについてはここ数年、社会的にも見直しの動きが見られている。個人的には、その大きな問題の一つが「“組織の継続性”と“担い手の流動性”を両立させようとすることで、活動の形骸化を引き起こしている」ことだと思っている。年度ごとに役員も入れ替わるのだから、その時の顔ぶれでできることをできる分だけやればいい(今年やったからって来年もやる必要はない)と考えていたし、だからこそ、保護者の主体的なかかわりを生み出したい、育みたい、という想いから、これらの活動は実行委員会方式にして「この指とまれ」で手が挙がった保護者とともに企画・実施していた。

こうした経験を通して感じることは、「子どもたちや地域のために、自分で何かできることがあれば」という想いを持っている保護者や地域の人たちは潜在的に多いということ(防災フェスティバルでも夏祭りでも当日ボランティアとして数十人が集まってくれた)。
そして、そうした人たちの想いを共有して、学校、保護者、地域(防災フェスティバルのロケットストーブづくりのために、市内の石油販売店の方にペール缶、竹林を所有している方に枯れた竹をいただいたりしていた)でそれぞれ、できることを寄せ集めるだけで、大きな輪となってつながれることを感じた。一人ひとりのできることはたとえ小さいとしても、それらをパズルのピースを合わせるように組み上げていくことで、一つの大きなつながりとなるのだと。

そして、そうした経験や想いが今、三浦市教育委員会が設置した、市内初声地区の「地域とともにある学校づくり協議会」での活動に生きている。協議会の趣旨は「保護者、地域住民等の学校運営への参画や、連携及び協働を促進することにより、学校、保護者及び地域住民との間の信頼関係を深め、学校運営の改善及び児童生徒の健全育成に取り組む」ことであり、初声地区の小中学校校長や自治会長、民生委員、元PTA役員などが集って一昨年秋から話し合いを重ねて、現状の把握と課題の整理、そして協議会としてできることを検討してきた。そして、協議会ができることを以下の3つに整理した。
・地域イベント(夏休み等の居場所につながるようなもの)
・学校環境整備(災害時には避難場所にもなる校庭の草刈りなど)
・授業支援(理科の観察や算数の九九の暗唱、家庭科のミシンや包丁の使い方などの補佐)

これまで協議会での話し合いの中では、児童生徒の主体性を育むことの大切さが何度も取り上げられてきた。では「どうしたら主体性を育むことができるのか?」 少なくともそこには、何かにチャレンジして、それが仮に失敗しても大丈夫、と思えるような安心感が必要ではないか、と思う。
そこで、まずは協議会の大人たちが(失敗してもいいから)自ら何か企画をしてやってみる、そしてそれを踏まえて、次回に活かしていく姿勢を見せていく――そんな「本気の失敗」と「小さな成功」を繰り返していく姿を子どもたちに見せていくことができれば、という想いで、まだ手探り状態ながらも、現在、今夏の開催に向けた「竹灯籠づくり」を準備している。

びーのびーのが果たしている役割

びーのびーのは2000年(今から20年以上前!)に「地域全体での子育て」を目指して、子育て中の親たちが自らお金を出し合い、商店街の空き店舗を借りて親子の集う場をつくり(当時は「ともかくやってみよう」という想いだったかと)、商店街の方々やボランティアさんに助けられながら子育てをしてきた。
それは子育て中の親だけでなく、そこに関わるすべての人たちにとって、「子どもを真ん中にした地域」への参加意識あるいは帰属感を育む場であったのではないかと思う。そうした想いを大切にしながら、びーのびーのは今では9つの事業所を運営しながら、それぞれの場で子ども・保護者と地域の人たちのつながりを育んでいる。
「分かち合い社会」を提唱している財政学者の神野直彦さんは「共同作業を通してしか仲間意識は育まれない」と話されていたが、びーのびーのは、まさに「子育て」という共同作業を地域に開き、その輪を広げていくプラットフォームとなっている。私自身も陰ながら、そうしたびーのびーのが描く「子どもを真ん中にした地域」のパズルのピースの一つとして、そしてそのプラットフォームの輪の中の一人として、これからもかかわり続けていければ、と思う。

理事 清水紀人

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