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貝の刺身盛り合わせと、夏の終わり

「あおやぎってさ、青くないのに、なんで青柳っていうの?」

その日、なじみの居酒屋で「三種の貝の刺身盛り合わせ」を注文した私は、店主に聞いた。この店では、仕入れによって魚介類の種類が変わる。その日の貝類は、ほたて、つぶ貝、そしてあおやぎであった。

「ん?あおやぎ?実はさ、あおやぎって、バカガイっていう貝なんだ。だけど、さすがに食材をバカって呼ぶのはちょっと…っていうんで、産地の地名からあおやぎ、って呼ぶようになったんだってさ」

ふ~ん、なるほど、と言いながら私は、刺身が盛り付けられた和皿から、そのあおやぎを箸でつまみ、醤油皿の醤油にちょっとだけつけて、口へ運んだ。柔らかな食感と磯の香りが、冷たい日本酒によく合う。

「そういえば、あおやぎは英語でなんていうんだろ?」私はバッグからスマホを取り出し、すかさずググった。

あおやぎ イエロークラム(Yellow clam)

「あおやぎはイエロークラムだって。青じゃなくて、黄色だったよ!クラムは、クラムチャウダーのクラム。あさりとか、はまぐりとかの二枚貝のことなんだって」

「へぇ~。じゃ、他の2種類は?」カウンターの向こうで料理をしていた手を止めて、店主が聞く。

「ええっとね…。ほたては、スカロップ(scallop)で、つぶ貝は、ウェルク(whelk)。それで、貝類の盛り合わせは…

アソ―テッド シェルフィッシュ(Assorted shellfish)っていうらしいよ」

「貝類って、シェルだけじゃなくて、シェルフィッシュなんですね。シェルとフィッシュだから、貝殻と魚、なのかな」私と店主のおしゃべりを聞いていた隣席の女性が言った。

「そうですよね。アクセサリーなんかの売場に行くと、シェルって書いてありますよね」

「ですよね~。貝殻を使ったアクセサリー、ありますもんね。そろそろ、シェルアクセサリーの出番も終わりですねぇ」

私たちは、それぞれのグラスに注がれた日本酒を飲みながら、しみじみとそう言った。

「あ、そういえばさ、夏も終わりってことは、そろそろ夏酒も終わりだから、いっぱい飲んでってよ。今日、お客さん少ないし」と、ニヤリと笑う店主。

「あ~、いただきますけどね。ちなみに、シェルフィッシュ(shellfish)じゃなくて、セルフィッシュ(selfish)っていうと、利己的な、って意味があるらしいですよ~」

私がいうと、店主は「人聞き悪いなぁ。利己的じゃないよ」と言って苦笑した。


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