ルジャンドル変換のざっくり理解(物理)

ルジャンドル変換とは、まあ簡単に言うと「ある関数が与えられた時、その関数の微分を独立変数にとって全く同等の情報をもつ関数を構築する操作」のことである。

なんのこっちゃわからんと思うのも仕方ない。この変換、操作自体は割と簡単なのだけど、意味するところがつかみにくい。

ということでこの記事では、そのルジャンドル変換をとりあえずざっくり理解したい人(主に物理学徒)に焦点を当てて書こうと思っている。

ざっくり理解においては「お気持ちを察すること」が重要になってくる。今回の場合は、ルジャンドル変換の幾何学的なニュアンス、それがあると何がうれしいのかをおさえておきたい。


数式を追ってみる

ある関数$${f(x,y)}$$が与えられているとしよう。この関数の全微分は

$$
df = \frac{\partial f}{\partial x}dx + \frac{\partial f}{\partial y}dy
\equiv udx + vdy
$$

となる。偏微分係数はそれぞれ文字$${u}$$,$${v}$$でおいた。ここで、$${x}$$の代わりに$${u=\partial f/ \partial x}$$を用いて別の関数を定義しよう。

$$
g(u,y) = xu - f(x,y) = x\frac{\partial f}{\partial x} - f(x,y)
$$

(この$${g}$$何だよ....は置いといて、)このとき

$$
dg = xdu +udx - df = xdu -vdy
$$

となるから、確かに$${g}$$は$${u}$$と$${y}$$を独立変数とする関数になっている。このように、$${g(u,y)}$$は$${f(x,y)}$$と同じ情報をもち、$${f \to g}$$への変換を$${f}$$の$${x}$$に関するルジャンドル変換という

見ての通り関数を偏微分して定義式に従ってがちゃがちゃ計算すればすぐルジャンドル変換が完成するわけなんだけど、これじゃあイメージがちょっとつかみにくい。


幾何学的な意味を見てみる

イメージをつかむには、幾何学的な理解が手っ取り早い。今回で言うとグラフで考えてみる。簡単のために一変数関数を扱おう。

ある関数$${y = f(x)}$$が与えられている時、これは座標点$${(x,y)}$$の集合と考えることができる。でも実は他にもこの関数の捉え方が存在している。

曲線上の点を接点とした接線を想像してほしい。最初は一本。次にどこでもいいからまた接線を引いてみよう。これをひたすら繰り返していくと、曲線上の各点から接線が引かれるのがわかるだろう。この接線の集合によって、曲線のシルエットが浮かび上がってくる。つまり、関数は、接線によって作られた包絡線と考えることもできるのだ。

曲線上の任意の点$${(x,f(x))}$$において、傾き$${u}$$、$${y}$$切片$${-g}$$の接線を考えると、

$$
y = ux - g
$$

が接線の方程式となり、当然$${u =\partial f/ \partial x}$$であることがわかる。この式を変形すると

$$
g = ux - f(x)
$$

となる。この式の$${u}$$は結局$${x}$$の関数であるのだが、これって逆に$${x}$$が$${u}$$の関数であると見ることができないか?
ということで$${x = x(u)}$$とすれば、$${g}$$は$${u}$$のみを独立変数にもった関数となる。これはまさにルジャンドル変換ではないか!
先ほど定義した$${g}$$とは実は傾き$${u}$$によって決まる$${y}$$切片の集合だったのだ。確かに、傾きによって$${y}$$切片が一意的に定まれば、その曲線上の接線すべてが表現できる。すごい!

2変数以上の関数でも同じ議論をすれば良いことは明らかだろう。

上の図は$${y=x^2}$$とその接線の集まりである。これを見れば接線による曲線の表現というのがイメージしやすいかもしれない。


ちょっと注意

幾何学的なイメージをもってもらったところで一つ注意をしておきたいことがある。

ルジャンドル変換をすると、一つの変数が傾き(微分)に入れ替わるのだが、ここでこう思った人がいるかもしれない。

傾きが同じになるような点が曲線上にあった場合、その情報って区別できんのか?アカンくないか?

ご名答。これ実はアカンのだ。(小難しく言うと$${g}$$と$${f}$$をルジャンドル変換で結びつけるには、$${x(u)}$$と$${g(u)}$$が$${u}$$の一価関数でなければならない。)同じ傾き$${u}$$をもつ点が複数存在すると$${g}$$の値が一意的に定まらなくなってしまう。

ではアカン時はどうするか。使用の際に条件をつければ良い。この場合は$${f(x)}$$が常に「凸関数」であれば良さそうだ。凸関数であればあらゆる点で同じ傾きは存在しないからである。

ルジャンドル変換を実行する際、その関数が凸関数かはしっかり注目するようにしよう。しかし解析力学におけるラグランジアンや、熱力学における熱力学関数などは、基本凸関数となっているからあまり考えることはないかもしれない。


なぜルジャンドル変換か

ここまでやってくると、そもそも「なぜわざわざルジャンドル変換するのか?」みたいなことを疑問に思う人がいるかもしれない。大丈夫。ちゃんとそれなりに意味はある。と思う。

物理学において、「変換」と記されるものは全て言ってしまえば座標変換である。ルジャンドル変換もそう。ある物理現象を考える時、「この変数じゃなくてこっちの変数で考えたいな、、、」みたいなことが往々にしてある。そういう時にルジャンドル変換は大きな役割を果たすのである。たとえば解析力学なんかだと「位置と速度じゃなくて位置と運動量を独立変数として考えたいな」みたいな時に、ラグランジアンからハミルトニアンへのルジャンドル変換が使えるわけである。

また、ルジャンドル変換の"性質"も物理を考える上では非常に役立っている。その性質とは、以下に示す2つである。

  • 変換の前後で情報を落とさない

  • 対称性

「変換の前後で情報を落とさない」とはどういうことか。簡単な例を挙げて考えてみよう。たとえばルジャンドル変換の代わりに関数$${f(x,y)=x^2+y^2}$$の$${x}$$に関する偏微分係数を逆解きして新しい関数を作ってみたとする。このとき$${u=2x}$$だから逆に解けて、結局$${x(u,y)=u/2}$$となるが、一方適当に作った関数$${f(x,y)=x^2+2y+1}$$でも同じ結果を得る。つまりこれは$${x(u,y)}$$だけを与えられてもどの$${f(x,y)}$$が正しいのかを判断することができないということであり、これだと変換の後に情報を復元できないのである。

情報を落とさないためには逆変換で元の関数を得られなければならないはずだが、逆解きだとそれができない。その点ルジャンドル変換では、変換後の関数から元の関数を完全に復元することができるのだ。

とはいうものの、他の方法でもなんとかすれば関数の情報を落とさず新しい関数に変換する術はありそうな気もする。なぜルジャンドル変換のような段階を踏んでいるのか。そこにはもう一つの性質「対称性」が隠れている。
ルジャンドル変換した関数をさらにルジャンドル変換すると、どんな関数が現れるのかを考えてみよう。使う関数は先ほど出てきた$${g=ux-f}$$であるが、これをルジャンドル変換する($${g}$$は$${u}$$の関数であることに注意)と

$$
u\frac{\partial g}{\partial u} - g(u,y) =ux-g(u,y)
$$

これはどんな関数だろうか。最初の方でやったように全微分をとってみよう。

$$
xdu+udx - dg =xdu+udx -(xdu-vdy) =udx+vdy
$$

これはまさに$${f(x,y)}$$の全微分($${df=udx+vdy}$$)になっているではないか!
つまり関数をルジャンドル変換し、さらにそれをルジャンドル変換するとちゃんと元の関数に戻ってくれるということである(逆ルジャンドル変換と言う)。関数$${f}$$と$${g}$$はルジャンドル変換を通して対称的に結びついていたのだ。
物理学において、ルジャンドル変換を使って関数の情報を保ったまま変数を入れ替えたり、もとに戻したりが自由にできるのは非常にありがたい。これは物理でルジャンドル変換を行うときに強く実感することになると思う。


まとめ

以上がルジャンドル変換で僕が言いたかったことである。だいぶ長くなってしまったけど、ルジャンドル変換に関する理解の一助になればうれしい。
繰り返しになるが、ルジャンドル変換の強みは「関数の情報を落とさない変換」と「変換の前後が対称」主にこの2つである。これを意識すれば自分が今何をしたくてルジャンドル変換を実行しているのかがイメージできるだろう。ただ強調しておきたいのは、これがルジャンドル変換のすべてではないということで、この記事の位置づけはあくまでもざっくりとした理解にとどめておいてほしい。ルジャンドル変換に悩むすべての物理学徒に幸あれ。

余談だが、ルジャンドル変換をよく使うと言っていた熱力学には「相転移」というものが存在するのだけど、これが起こる系を表す関数については今回紹介した方法では不十分で、少し複雑な議論を要する。簡単に言うと関数の中で微分不可能な点が存在するため、その処理がちょっと大変になる。ただこの記事を理解できれば全然難しい話にはならないはずだから、興味がある人はぜひ自分で調べてみてほしい。というかもうそこまで行ったら一人でなんとかなるだろ。

ということで今回はこのあたりで終わろうと思う。さよなり。


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