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80年代の足回り

 主観にはなるが、記憶をたどると80年代の足回りと言えば、一言「Soft」だ。

 改めて感じたのは、今から6、7年前だったと思うが、VT250Zをレストアしたときである。廉価版VTとしてベーシックな足回りを持ち、バイク便ライダーに愛用された機種であり、当時はまだ探せば新品パーツが多く出たので、レストアも比較的楽な車種だった。この時フロント、リア共にオーバーホールをしたのだが(リアは専門業者に依頼)、出来上がっていざ乗ってみると、「あれ?」だった。こんなにしなやかだったか。

 その昔学生だった頃、フロント16inのVTに乗っていたがあまり記憶になかった。と言うか16inの乗りづらさしか印象にない足回りだった。実際VT250Zにまたがってみると、体重が掛かった瞬間から沈み込みが始まり乗り降りがしやすい。

 今時のバイクは、「パン」と張った感じがして、跨ってもそうは沈まない。その代りコーナー進入前のブレーキングで、姿勢変化が少なく倒しこみが安定していると思う。そう言えば当時、各社からアンチノーズダイブフォークなるものが、こぞってリリースされていたと思う。簡単に説明すれば、フロントブレーキを握ると、その油圧を使ってフロントサスの減衰をコントロールするシステムである。決してブレーキフルードと、フォークオイルが混ざっているわけではなく、別室となっている。詳しくはご自分で調べて見てほしい。
 推測ではあるが、何故柔らかいサスが長らく採用されていたのかは、日本国内の道路行政が安定していなかったからだと考える。


 しかし、このソフトな足回りがこの年になると非常に有り難かった。ツーリング等で多少路面が荒れていても、何事もなかったように通過してくれた。コーナー前の減速もツーリングスピードなら、適度なノーズダイブがコーナーに入る良いきっかけとなった。もっとも歯を食いしばってのコーナー進入速度だと、このしなやかさが仇となった。サスが柔らかければ、Gが掛かった時にバンク角が削られ、コーナー進入前の姿勢変化が大きくなりコーナリング姿勢を作りにくい。また、フロントに荷重が偏り、リアが抜重して接地感が希薄になってしまう。VT250Zは良く伸びるリアサスであるから、それほどバタつきや、不快な滑りは出ないことは秀逸であった。 
 結果として、現行のバイクのサスの味付けと、80年代のどちらを選ぶか今の時点で問われたなら、迷わず80年代だと思う。きっと乗る人の年代によるところが大きいと考える。 何故なら、若いライダーは、あのしなりのあるサスに乗ったことがないだろうから、わからないと考えるからだ。


 訳あって、このVT250Zとは別れてしまったのだが、ちょっと後悔している。実はHONDAのVツインは、学生時代の初代VTで、結構な事故を起こしてトラウマとなり、良い印象が無かった車体だった。その後社会人の時にFEにも乗ったのだが、やはり相性が悪かった。なのでリベンジの意味を込めてレストアに挑戦してみたのだった。


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