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【明日に向かって】

映画
【明日に向かって撃て】

中学を出て就職した秋に、
米国の西部劇映画
【明日に向かって撃て】
が公開された。
主題歌の「雨にぬれても」
は心地いい曲で、
それにまず惹かれた。
なけなしの給料を使い
洋画専門の映画館へ
身を隠し、恐る恐る
ひとりで行った。
まるで、成人指定を
観にでもいくように。

タイトルの
「明日にむかって・・」
という
夢や希望に満ちあふれた
建設的で前向きな
主人公たちの振る舞いを予想していたが、実際は実在の二人組の銀行強盗の物語で、不道徳きわまりない話しだった。

しかし、それは、わくわくする面白さであった。
ポール・ニューマンが演じるリーダー格の男は、頭が切れて機転も利く悪党。もう一方のロバート・レッドフォードが演じる男は、名うての早撃ちで女ったらしの色男。
結末の警察隊に囲まれた中

死を覚悟の飛び出しの場面は
悲壮感がほとばしり、
そして、
明日に向かって撃て!
スローモーションの映像が
今も脳裏に焼き付いている。

私は社会人とはいえ、
まだ17に随分と足りない、
青過ぎる世間知らずの少年で、
至極、感化されやすい
年齢であった。
中学を卒業する前は
親は生活保護を
もらおうかという
かなりの貧乏で、
町内の奇特な人がその手を
すすめたらしいが、
福岡県のとある地区においては、支給日に役所へ外車で乗り付け、ということが話題になっていた。
私は馬鹿で、ガキなりに
妙な阿呆臭いブライドと
世間の眼が気になり
それは嫌だった。
少しでも楽で旨いものを得るために、私が銀行強盗になるには、あまりにも非現実的だったし、これも嫌で、万引きもしなければ、コソ泥にもならなかった。
そういう訳で、
勉強嫌いも重なり、
中卒で就職の道を選んだ。
将来、何になりたい、
というような目標はなく、
とにかく直ぐに現金が欲しかった。

換気が悪くて薄暗い
ゴムと溶剤臭が酷く
しかもサウナ風呂みたいに
クソ熱い履物工場で
夜勤をし、ひたすらに働き
なけなしの賃金を得ながら
成人を迎えた。
私は、苦労に耐える人間とか
努力する人間とかではなく
いつまでたっても子供で
いや、生まれ付きの
馬鹿だったのだ。

この年に、
4日だけ年上の
同じ中卒の
女性と付き合い始めた。
無垢で優しかった。
それから四十数年、
いまも一緒。
それは、いまさっき、
最高に安い
番茶を淹れてくれた

家内である。
でも、いつだって、
やすらかな、
しみじみな味がする。

腰の具合も調子いいので
新しく増えてしまった
猫たちのため、
そして、
九州新幹線に乗ったことがない家内を、短距離の日帰りで申し訳ないが

駅弁をつっつきながら
久留米から八代まで乗って
日奈久温泉へ連れて行こうと思う。

そのために、再び

【明日に向かって働く】

これが、これからの
私の人生のタイトル。

(完)

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◆本品の構想◆
(人生の振り返り、今後のこと)
~2022.03末
◆粗下書き◆
~2022.04上旬
◆草稿と推敲◆
~2022.04.中旬

破棄・中断
◆再下書き・草稿◆
2022.05.上旬
◆読み直し・改稿◆
2022.05.15
◆推敲◆
2022.05.20~05.23




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