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「蠅の王」ってそんな話か!?ーゴールディング「蠅の王」についての思い出と感想ー

 実家のテレビで見た記憶があるので、もう十年以上、あるいは二十年以上前の話。アナウンサー出身のタレント・某氏がゴールディングの「蠅の王」について解説していたのです。蠅の王を読んでいたことがあった僕は、某氏の解説に?とクエスチョンマークが幾つも浮かぶことになりました。
 某氏は主人公のラーフがお気に入りのようで、ラーフの言動を一々絶賛するのです。ラーフが仲間たちに、遭難中でも英国人らしく規律正しく動くべき、と呼びかけるシーンでは、こんなしっかりした子供がいますか!と手放しで褒めます。どうやら氏はラーフ一派とジャック一派の対立を、善悪の戦いと見ているようなのです。
 待って待って、ラーフって正義の主人公じゃないだろ?僕はテレビの前でそう思わずにはいられませんでした。そして番組が進むにつれて増していく違和感に僕はテレビの前で呟いたのでした。「ラーフってファシストじゃん」

 ラーフは口では立派な事を言います。でもその本質はいじめっ子です。ラーフは自分の恥ずかしいあだ名を明かした上で、ピギーと呼ばないでと頼んだ少年に、わざと皆の前でピギーと呼びかけました。少なくとも僕にとってはラーフの人物像はこのエピソードで完全に決まってしまっています。ラーフはいじめっ子で、ファシストなのです。彼がどれだけ「秩序」の重要性を叫ぼうとも、それは彼を頂点とすることを固定する秩序でしかないのです。
 僕にとってラーフ一派とジャック一派の争いは、ファシズムと野蛮という両極にありながら両者とも悪である勢力同士の争いです。そして物語全体のテーマは「ファシズムと野蛮の争いのなかで、真に智慧ある者(サイモンが象徴)はあまりにもか弱い」というかなり絶望的なものだと感じました。

 僕も一度読んだきりで読み返していないので、あるいは僕の感想が的外れで元アナウンサー氏の解説が正しいのかもしれません。それでもラーフが善なる存在とは、僕にはとても思えないのです。
 「蠅の王」が好きな方でひとこと言いたいという方がいらっしゃいましたら、コメント欄でご教示いただけたら光栄です。

 蛇足ながらこの小説は、ホラー作家スティーヴン・キングが影響を受けた作品として挙げており、氏の多くの小説の舞台となるキャッスルロックの地名はこの小説に因んでいます。
 また漫画家・西原理恵子氏は少女時代に「ロビンソン・クルーソー」や「十五少年漂流記」の楽し気な遭難描写に違和感を覚え、(うろ覚えながら「リゾートじゃん!全然遭難してないじゃん!」と)この小説でやっと納得したとか。

 最後まで読んでいただき、ありがとうございます。本業のサイトもご覧いただければ幸いです。


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