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▼ 全身復元骨格模型を完全自作した話

35年前、北海道の片田舎で課外実習中に500万年前の地層からネズミイルカの全身化石が発見され新属・新種と同定されて立派に復元され博物館に展示されたがグッズ販売などは予算が付かない、そんなものは無い。
全身が発掘されるのは世界的にも珍しく学術的にも貴重なんだけど不人気、理由は簡単ネズミイルカは恐竜じゃない市販品はもちろん無い。

無い…? それなら自分で作ってしまえばいい。
これはそんなミュージアムグッズを勝手に作ったおじさんの軌跡である!

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Numataphocoena yamashitai
ネズミイルカの絶滅種 ヌマタネズミイルカ
全身そのまま埋まってる、こんな産状は稀なのだ。

一時的に顔を出した川底に脆くて繊細な化石が埋没しているという状況で、砂質泥岩だから乾燥すると泥団子のように固くなってしまうが、おそらくは重機でまるごとゴッソリ掘り出し外に出したと思う、じゃないと雨が降って水かさが増せば全部流されてしまうから。
ハケでなでて「フーッ」と発掘すると思っている人もいるがそうではない、とんでもない硬い石からコツコツ取り出したり、泥の中からズボッと引っこ抜いたり、自治体と調整して土木工事だったりケースバイケースなのだ。

そのへんの詳細については有名・無名の北海道で発掘された大型哺乳動物の発掘作業の大半に関わった大先生木村方一名誉館長が足跡を書籍にまとめ、2020年7月23日に出版された…そこに書いてあることと思うので割愛する。是非ともご覧いただきたい。

先生、ぼくにもください。(買いなさいよ)

大雑把に説明すれば脆いので固定しながら丁寧にクリーニングして1つ1つ型を取って樹脂に置き換え、不足分を近似種を参考に補って繋げていく。
すると ―――――-- 。

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▲ あのペシャンコの遺骸が、こうなる。
おそらく絶滅したネズミイルカの全身復元骨格なんて沼田でしか見られない超絶希少標本、欠損部を補い全身が復元されるのは専門家や職人芸の大変な苦労の積み重ねでできている。

ペシャンコからここまで立体になったのだ。
理屈では2次元的に再現すれば組み立てられる? ← 短絡思考
できるはず、もうできてるんだから、簡単だよ。

「じゃあ、作ってみよう!」ということで博物館に行ってこれを色々な角度から写真を撮ってきた…200枚ぐらい。さすがにこれでは迷惑すぎるので平日昼間に来館者ゼロのタイミングで館長に撮影と三脚使用の許可を取ってからやっている、大人だから。

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一般人にゃなんのことやら全然わかんないけど骨好きにはたまらない!系の画像こちら。現生のイルカは首の骨が癒合して塊になっているけど古い種類ヌマタポコエナは首ちょっと長くて動きに自由度があったらしい。
あとは前肢の形状が現生と違うね。
全然関係ないけれどヌマタポコエナって学名カワイイ。

膨大な資料写真があっても残念ながら市販ソフトで一発変換!なんて便利な方法は通用しない。
ある程度は完成状態をイメージしつつ目的の画像を探し、Adobe Illustratorに数枚ずつ取り込んで、手当たり次第コツコツ各部をトレースしていく。
この時点ではベジェ曲線のデータでしかないので結合やポイント編集などは自由自在、反面、使わなかったり無駄な工程も出てくるが材料費に大打撃を与えるよりはずっといい。

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出揃ったところで無駄無く切り出せるように配置。
パーソナルレーザー加工機「Podea-01」は.ai形式のデータをそのまま切断に利用できる、材料を筐体内に置いて実行すれば超精密に切断してくれる。

ただし使用していたモデルはパワー不足だったので試行錯誤が必要だった、当時はなかったけれど、より高出力なほうが加工できる対象が幅広い。

シナベニア板を切り出したテストショットを作成すると ―――――-- 。

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組 み 立 て た ら 立 体 物 に な っ ち ゃ う ぞ !

二次元印刷物を綺麗に作るためのAdobe Illustratorを使いはじめて20年以上たつけれど、まさか21世紀になったらご自宅で立体になるなんて、考えもしなかった…仕事とはいえ若かりし頃に頑張って覚えて良かった。
こういうことができるのがレーザーカッターの面白いところだね。

おじさん自慢のレーザーカッター壊れたけど。

誰か機械余ってたらポンとくれないかなぁ…さすがにそれはないか。

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レンズ歪みや撮影角度に制限があるので、どうしても画像判断には無理がある部分もでてきた…復元用の頭骨キャストを撮影させてもらった。
こういうところは化石よりキャストのほうが陰影がわかりやすい。
これから博物館は三次元スキャナ&プリンタの設置が必須だと思う。

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この斜めについてる肩甲骨とか全然わからない。
組んだ状態では、真正面から撮影できないのだ。
泣きついたらタイプ標本を撮影させてくれた(大人気無い)。

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ぬぬ?どうも肋骨のRが違う、想像よりも細身ですらりとしている。
でもこの形状は論文に記載されていないのだ、わからない。

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何本か学芸員さんに並べてもらって撮影。
しかたがないよ、だって…わからないんだから。

博物館って「見るだけ施設」って印象があったけれど、今はメールで問い合わせたりできて、本当に便利な時代になった。
でも、ここまで無茶苦茶なお願いには対応できなくなったと思う。
だってこれ…後日、天然記念物に指定されちゃったから。(ぉぃぉぃ)

s_新旧図面比較

各部を修正して学芸員さんにメールで確認、より正確にしていく。
学芸員さんはマイブームに生きている、情熱的に取り組んでいる真っ最中のことならド素人の疑問・質問にも熱心に回答してくださる。
このころ若手学芸員さんが「海の哺乳類がキテる」時期だったので、かなり詳細な修正案を提示していただけた。

しかし興味無いこと、てんでだめ…無反応という方が多い。
悪気はない、興味がないのだ、そういうときは仕方がない。

s_組み立て_fix

組み立て説明書も作った。レーザーカッター用のデータはIllustratorなのだ、そこからイラストすぐできる、なにしろこの曲線を切り出しているから正確そのもの…まぁこういう仕事してたからチョチョイでできる、というわりには2日ほどかかってる。
ただこれは説明書の作り方としては邪道、マニュアル用のイラストって別途わかりやすく描き起こすものなんだけどね。

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これは確かに博物館の復元骨格とソックリそのままになった!
というのは嘘で、ミニチュアサイズなので微妙に誇張して表現するところ、合板の厚さが均一で切断面の色が濃くなるので大きく見えすぎていれば縮小するなど、工作物として比率の調整をしてヌマタポコエナらしくしている。

そのまま馬鹿正直にトレースするだけではソレっぽくならない。
こういう商品おじさん5歳くらいのころから40年以上の歴史があるけど、さすがにここまでマイナーな種類はなかったなぁ。

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と…いうわけで。
なければ作ってしまえばいいという身勝手なおじさんが勝手に作った非公式ミュージアムグッズ、ヌマタネズミイルカ全身骨格標本でした。

いや…本当は実際に博物館のワークショップで使おうという話もあったんだけれど、レーザーカッター壊れちゃったので切断作業ができなかった。

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