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暮らしのはなし①

2020年7月28日、仕事を辞めて2日目。

8時に目が覚めた。決まった時間に仕事をしなくていい、それだけで驚くくらいに気持ちが楽で、久しぶりに感じた穏やかな目覚めだった。
窓を少し開けるとむわっとした風が入ってくる。今日は暑くなりそうだ。

餌が入った器を洗う。我が家は「猫壱」というショップのものを使っているのだが、底が高くて猫も食べやすいらしい。2匹分の器を洗い、餌を専用のスコップでちょうど一杯すくって、分け入れる。
同じように、水用の器も洗う。以前は自動で水を循環して清潔な水を保ってくれる機械タイプのものを使っていたが、フィルターを買い換えるのが面倒でやめた。それでもただの器ではなくて、「水をまろやかにする」効果があるらしい立派な器だ。そんなものはどう考えても、胡散臭い。胡散臭いけど口コミはいいし、実際ガブガブと水を飲んでくれているので、結果的には買って良かったと思っている。
正直な話、我が家の猫たちは我々よりも良いものを食べ、良いものを使っている。でも個人的には、人間のエゴで一緒に生活してもらっているのだから今できる最大限の快適な暮らしを提供するのは飼い主の義務だと考えているので、問題ない。むしろ今日も健やかでいてくれてありがとう、という感謝の思いでいっぱいだ。

Amazonから注文していた本が届いた。
坂口恭平さんの「自分の薬をつくる」という本だ。
坂口さんはパステル画で描く風景がとても素敵だなあというのが第一印象で、それまで私は風景画に全くと言っていいほど興味がなかったのに、一瞬で心を奪われた。そういう出会いもあるから、Twitterはおもしろい。

コーヒーを淹れて、冷凍していたおにぎりと昨夜の味噌汁を温めた。冷蔵庫の中身を見て、今夜はしらす丼にしようと思った。

朝食を終えて、ソファに座りながら早速届いた本を読み始める。模様替えをしたばかりだったので、この位置にソファがあるとこんなにも日差しを浴びられるのかと驚いた。同じ家でも、まだまだいろんな発見がある。
肝心の本は、坂口さんが実際に行ったワークショップを紹介する内容で、「死にたい」「苦しい」と感じている多くの人にむけた「処方箋」を教えてくれるようなものだった。それだけ聞くと、よくある自己啓発本でしょ?と思われるかもしれないが、自身も躁鬱だったという坂口さんの言葉はとてもユニークで重みもある。「死にたいと思ったことがある奴の言葉は信用できる」とよく私はTwitterで言っているが、まさにそれだ。いや、そんなに単純な話ではないが、とにかくスッと入ってくる。読んでいて違和感なく取り込めるのは、やっぱり同じ感覚を味わった人ならではだと思う。
特に印象的だったのは、インプットとアウトプットの話だ。創作等においても、アウトプットができないと悩む人は多いと思う。坂口さんはインプットを食事、アウトプットを排泄に例えていた。食べたらきちんと排泄しないと体に異常が出るように、たくさん仕入れた日々の情報は、きちんと体の外に出さないとおかしくなる。苦しくなった時こそ、なんでもいいからアウトプットしてみるいい機会なのだと教えてくれた。何より、坂口さんの生き方や考え方にとても興味が湧いたので、ぜひ他の作品も読んでみたい。

気付くともう、昼を過ぎていた。
ある公的な申請書を出す必要があったので(というか半年以上どうしてもやる気が起きず放置し、再度通達されたものだった)意を決して机に向かった。そもそも封すら開けていなかった。
心底だらしなく心底恥ずかしい話なのだが、25歳にもなって未だにこういった「書類」が書けない。読めない。開けない。
在職中だったら絶対に無視をし続けていただろうに、会社から解放された私はなんと2日目にして封を開け、書類を確認し、必要事項を記入した。添付する書類を探し出し、コピーまでして封筒に入れた。偉すぎる…。(めちゃめちゃに程度の低すぎる話だが、私にしてはかなり頑張った)しかし、封はしたもののまだポストに入れていない。今も机の片隅に置かれている。明日は、ちゃんとポストに入れることを1つ目標にしたい。

借りていた本を返す必要があったので、15分ほど散歩して図書館に行った。ここ最近インド哲学や仏教に興味があったので、立川武蔵さんの「マンダラ」、「死後の世界」を選んだ。あとは好きな寄生虫の本と、「ダンゴムシに心はあるのか」、友人に勧められた中島らもの作品を借りた。

寄生虫図鑑は装丁がとっても可愛い。昔から寄生虫が好きで、上京して初めて行った場所も目黒の寄生虫博物館だった。(ちなみに大学でできた恋人との初デートも寄生虫博物館だった気がする)

幸いなことに時間はたっぷりある。
毎日少しずつ、読み進めていきたい。

旦那が帰ってくる時間に合わせて、夕飯を作る。しらす丼と味噌汁、きゅうりの和物だったので、時間はかからなかった。淡々と作業ができる料理は好きだ。そういえば、母親が結婚のお祝いで定期購読の登録をしてくれた「暮らしの手帖」も、日々の暮らしや料理のあれこれが記されていて、勉強になる。
いつだかの回に載っていたにんにくが効いたシンプルな野菜スープは、今や我が家の定番メニューで、3日にいっぺんくらいの確率で食卓に登場している。改めて「暮らしの手帖」って本当にいい名前だと思う。これ以外のネーミングは考えられないってくらい、ぴったり。

食後は、友人の実家から送られてきた桃を使ってコンポートを作った。かなりの量になってしまったので、冷凍パイシートを使って簡単なパイにした。見栄えはあまり良くないものの、味はそこそこ。パイの中身にする分は、もう少し甘みを付けても良かったかもしれない。

今日は死にたいと思わなかった。
多分、充実した1日だったと思う。


明日はどんな感情になるかわからないが、とりあえずポストに書類を出す事だけはきちんと守りたい。

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