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暮らしのはなし②

2020年7月29日、仕事を辞めて3日目。

すっかり寝過ぎてしまった。
睡眠時間が短すぎても長すぎても、身体の調子は悪くなる。
何事も適度がいちばんということだろうか。

目標にしていた「ポストに投函」は起きてすぐに達成したので、今日はなにもすることがない。図書館から借りてきた本を読みながら、ぼーっと物思いに耽った。

その本には、「死とは時間が止まること」とあった。
時間が止まる。

その一文を見たときに、胸にずっと残るモヤモヤとしたなにかの輪郭が浮かび上がってくるような、そんな気がした。当たり前のことだけど、死ぬことは流れている時が止まることだ。

高校生の頃に、いちばん仲が良かった友人が死んだ。その前も後も、何人もの同級生が亡くなったけど、やっぱり心にずっと残っているのはその友人のことだった。
彼女が死んだ後、私は大学に入るために上京した。アルバイトをしたり、お酒を飲んだり、就職活動をした。命日の度に地元に帰って挨拶をしに行っても、遺影の彼女は、ずっと制服のままだった。当時は大人っぽい顔立ちをしているなと思ったけど、写っているのは幼くあどけない表情の女子高生だった。写真を見る度に感じていたあの気持ちと、「時間が止まること」という事実が頭の中でぴったりと組み合わさって、なんだか物凄く納得してしまった。

本には、こうも書いてあった。

輪廻とは、これほど安上がりで、永遠の「いのち」が保証される装置というか思想はありません。
ただ、輪廻の怖いところは死にたくっても、死ねないところです。地獄へ行って釜茹でにされたり、八つ裂きにされたりして、苦しいから殺してくれといっても死ねないのです。   (立川武蔵著「死後の世界」より引用)

さらに、地獄に行ったからといって痛みを感じないわけではなく、「肉体が亡んでも魂は変わることなく存続し、しかも熱さや痛みを感じ続ける」というのが輪廻の考え方なんだそうだ。そうなると、火葬は相当苦しいのではないだろうか。

昔、ネット記事か掲示板かなにかで、火葬場で働く人の恐怖体験を見たような気がする。火を焚いている時に、ご遺体が動くといった内容だった。それはなにも心霊現象ではなくて、熱する事によって起こる「反応」だと言われているが、もし、万が一、死んだ後に熱を感じていたら大変だ。そんなに怖いことはない。
かといって土葬はいやだし、水葬や洗骨のようなものも難しそうだ。一時期、宇宙葬なんてものが話題になったけど、ずっと終わりのない宇宙空間を彷徨い続けるなんて、拷問に等しい。
そうなると鳥葬がいちばん向いているのかもしれない。
鳥たちに啄まれ彼らの栄養になったあと排泄され、今度は植物や大地の養分になる。

寄生虫にも、同じような生き方をしている奴がいる。「ロイコクロリディウム」という吸虫で、カタツムリの触覚に寄生する虫だ。(寄生されたカタツムリは結構グロテスクなので、苦手な人は検索しないほうがいいかも)

こいつに寄生されたカタツムリは、本来天敵であるはずの鳥に食べられるよう、わざと目立った行動をする。まんまと捕食された後、鳥の腸管で成長し、卵を産む。やがて卵は鳥の糞と一緒に排出され、それを食べたカタツムリに再び寄生するのだ。

ずるい生き方だと思う人もいるかもしれないが、寄生虫はとても高尚な生き物なのではないかと私はひそかに思っている。
生き物は本来、「種を残す」これをテーマに生きている。「ロイコクロリディウム」はとてつもなく短いスパンで、これを実現し続けているのだ。
生まれて、排出され、食べられて、操って、食べられて、ずっとこの繰り返しだ。人間が考える宗教とか「生まれ変わる」とか、全部を凝縮したのが寄生虫に思えて仕方がない。

ずっと命が循環していくなら、鳥葬で鳥に食べられて(ここで痛みを感じて)、さまざまな鳥から排出され(もしくは他の生き物に捕食されて)、また大地へ戻る、というのはとても理想的な流れに感じられる。回り回って、人間にまで辿り着くかもわからない。本を読みながら、そんなことを考えていた。

さて夕飯は、焼き魚と油揚と野菜の煮浸し、きゅうりのタタキに味噌汁。質素な食事だけど、素朴な味わいでなかなか気に入っている。昨日に作った桃のパイが余ってたので、食後のデザートとして食べた。
旦那と、「もしカフェをやるとしたら、アップルパイの原価と粗利はどのくらいか」という話で盛り上がった。何故だかわからないけど、漠然と将来はカフェを開いてる気がしているので、私はよくこの手の妄想をする。
やっぱり、お酒の方が儲かるから夜はバーもやった方いいのかもしれないけど、長時間の労働はいやだ。無理だ。週休3日がいいし、そうなるとカフェは難しいかも。だめだ。学習能力がないので、この一連の流れをよく考えている。

今日は何かをなし得た日ではなかったけど、ゆっくりとした時間を感じた1日だった。
そういえば、近々ミッフィー展に行きたいななんてことも思った。せっかくだから、比較的空いてそうな平日に行ってみよう。

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