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この想いを、あなたに伝えたい!書く衝動が抑えきれなくって急に手紙に綴っちゃった幼少期の話

私は手紙が好きな子供だった。今みたいにスマートフォンがあるどころか、家の電話はまだ黒電話の時代。メールなんて便利なものはどこにもない。何か伝えたいことがあると「手紙」をよく書いていた。

小2の頃には「パーマン」に何故か憧れて、パーマンセットが欲しい、とパーマン様に恋文を書いたものだった。憧れているはずなのに、パーマンセットが欲しいなんて、物欲丸出しなその手紙は宛先がわからなくて枕の下にこっそり隠して毎晩寝ていた。今思えばパーマンセットが欲しいならパーマン本人ではなく、みつお達をパーマンに任命したバードマンに書くべきだろう。

またある時はアニメの「聖闘士星矢」にハマり、「キグナス氷河」とかいう青いタイツに白いブーツを履いた、頭に白鳥をつけているブロンドのキャラクターが好きになり、奴へも手紙を書いた。
必殺技のダイヤモンドダストがかっこいいだの、青目が素敵だだの散々褒め言葉を並べたものの、明らかに日本が舞台のパーマン以上にどこへ出せば届くのかわからなくなり、結局それも枕の下に葬られた。
いつかなくなっていたことを思えば、母親が見つけて廃棄していたのだろう。私が親なら笑わずにはいられなかっただろうと思う。知らぬ間とはいえ、定期的に笑いを届けていたならば、それはそれで本望かもしれない。

10歳くらいだっただろうか、夏休みはほぼ毎日区内の図書館に通っていた。朝はプールに行き、アイスクリームを買ったり、駄菓子を買ったりしながら昼ごはんの頃に家に着いた。ブラウン管では「あなたの知らない世界」が夏の暑さに冷ややかさを与えていた時代だ。
毎日通っていた図書館は、小さいながらも居心地の良い空間で、私の好きな児童書がたくさんあったので、日々読みきれなかった本を借りて帰っていた。

ある日、本棚で何を手に取るか、と悩んでいた時に一冊のタイトルに目が止まった。

「ゆうこ、夢の中へ」

自分の名前だったので、すぐにその本を手に取った。

今日は時間がない。帰ってゆっくり読もう、とその本も借りて他の何冊かと一緒にかばんに入れて自転車で家に着いた。

桃色の夕焼けのような空に主人公であろう「ゆうこ」が浮かんでいるような表紙だったと思う。ハードカバーの児童書で、やや大きめの楷書体だったのを記憶している。読み始めてびっくりしたのが、その主人公と私は同姓同名だったのだ。

「おかあさん、すごい!見て!主人公の名前が私と全く同じ!上も下も同じ名前!」

そんなに珍しい名前でもないが、そんなによくある名前でもない。そんな私の名前の女の子が主人公なのだ。心がウキウキし始める。この私と全く同姓同名の子は、この物語でどんな冒険をするのだろう。

さらに読み進めると、その「ゆうこ」には弟がいるらしかった。「つよし」という弟は「ゆうこ」よりも3つ下だ。
私は度肝を抜かれた。
私の弟の名前も「つよし」なのだ。そして私とは3歳さだ。

「おかあーさん!これ見て!弟は「つよし」だって!こんなすごいことある?」

はっきり言って序盤から刺激が強すぎて、あちらの「ゆうこ」が物語の中で何をしたかなんて覚えてないのだけど、私の中ではむくむくと
「この作者に教えなければ」という使命感が募り始める。

私はすぐにレターセットを準備し、この「ゆうこ、夢の中へ」の作者に手紙を書いた。

作者さまへ
私の名前は、「ゆうこ夢の中へ」の主人公と同姓同名です。弟の名前も同じです。これは偶然ですか?私のことを知っているのですか?

多分、一番伝えたかったのは、あなたの創作の中の人物が、実際にここにいるよということだったと思う。それを知らせてどうなんだ、と言われればそれまでだが、幼い私は、とにかくびっくりするだろうな〜という思いで綴ったのだと思う。

出版社の住所が本の最後に載っていたので、今回はちゃんとポストに入れることができた。

それから手紙のことを忘れかけていた頃、うちのポストに手紙が届いた。なんとその作者からの返事だった。ちゃんと手書きで返事が届くなんて思ってもいなかったから、本当に嬉しかった。私は見慣れないその作者の字を見つめ、ドキドキしながら封を切った。

XXゆうこちゃんへ
お手紙を書いてくれてありがとう。ゆうこちゃんは、「ゆうこ、夢の中へ」のゆうこと同じ名前なのですね。びっくりしました。実はこの「ゆうこ」は実在する私の知り合いの名前で、彼女は今、岡山県で歯医者さんを目指して頑張っています。弟のつよし君も、ゆうこちゃんの弟なのですよ。私は、いい名前だなあと思って本を書くときにお借りしたんですよ。

というようなことが書かれていた。本以外に私と同じ名前の人が岡山県にいるんだ、私よりもずいぶんお姉さんなんだ、となんだか急に違う世界と繋がったような気持ちにさせられた。今ならFacebookで検索すれば、同姓同名の人を探すのに苦労はいらない。昔は実際に会ったり聞いたりしない限り、そんな事実と触れ合う機会はなかったのだ。

それから30数年経つ中で、時折、この本のことを思い出した。少しずついろんな記憶が混じったり、色づけられたり、色褪せたりしてきているけど、やっぱり本の中の「ゆうこ」が何をしたのかもう一度読みたいと思い、ネットで探した。幸い本のタイトルを覚えているから安易にたどり着けるだろう、と思っていた。
だけど、全然検索にヒットしないのだ。残念ながら作者の方の名前も出版社もわからないため、調べようがないのだが、タイトルを入れて出てこないなら、それは仕方がないのかもしれない。もう、ずいぶん昔の本だから。

しかし長い時が経っても覚えているのは、当時の私にしてみればそれだけ衝撃的だったからだろう。知らない人に手紙を書き、また手紙が届くという嬉しさやワクワク感。同じ時期流行った「ペンパル」や「文通」にも似た甘酸っぱさがある。
これだけ鮮明に覚えている私の「手紙」にまつわる話なのに、万が一、全部「夢」だったとしたら、こっちの「ゆうこ」が本当に「ゆうこ、夢の中へ」行っちゃっててオチが壮大すぎる。

いつか探偵ナイトスクープで調べてもらおうか。



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