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シュリカン

 手作りのシーチキンマヨネーズが入った大きなおにぎり。ふわっとしている鶏の唐揚げ。トロッとした茄子の揚げ浸し。スペイン風オムレツ「トルティーヤ」。何が食べたいと聞かれたらよくせがんでいた料理である。定期的にスパイスを使ったいわゆるインドの家庭料理も作ってくれていた。もっちりとしたチャパティ、レンコンをヨーグルトとスパイスで炒めたもの、オクラとトマトをクミンとコリアンダーで簡単に炒めたもの。ヨーグルトで作るちょっと酸っぱいカディといったスープ。何気なく食べていた料理はどれもインドの西部・グジャラートの料理であった。そしてチャパティと一緒に食べる大好きなものがあった。ゴールと呼ばれる黒糖とギーをくるんで食べることと、シュリカン(シュリカンド)と呼ばれる甘いヨーグルトデザートをつけて食べることであった。シュリカンは水切りヨーグルトにサフランと砂糖を加えて作るシンプルなデザートだが私の中の大切な思い出の味である。

シュリカンドの歴史は古く紀元前500年頃には旅人によって作られていたそうである。ガーゼのような薄いモスリン生地にヨーグルトを入れゆっくりと水を切って作る独特な作り方は旅人が重いヨーグルトを軽くしようとして考え水を切ったのが始まりといわれている。水を切って軽くなったヨーグルトは酸っぱくなってしまい、それに砂糖やらサフラン、カルダモンやナッツなどを入れて工夫して作っていったそうである。11世紀ごろにはインドの詩人がシュリカンドのレシピについて書いたものが残っていたり、16世紀ごろにはジャインの王がシュリカンドについて彼が出版したレシピ本に書いているそうである。

長い歴史がシュリカンドを甘くしていった。神様のお供えとして作られたり、お祭りの時のご馳走としても度々登場する。西インドのキッチンにモスリン生地がぶらさがっていると子どもたちは喜び、何か特別な日になった。

私にとってのシュリカンも甘く、嬉しい思い出の味である。

ヒマラヤの登山ルートにもシュリカン・ロードというのがあるらしく、甘い名前とは対照的にとても険しい道であるらしい。

私のシュリカンルートは甘やかされた優しい道のりであった。

先日久しぶりにグジャラートの料理をいろいろ作り、シュリカンも作ってみた。

甘くて、優しい味がした。

「味」というものは記憶に残る大切な思い出である。

そんな思い出を作っても行きたいし、大切にしたい。

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