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ヨーグルトとトマトの大喧嘩

インド料理に今や欠かせない唐辛子やトマト、じゃがいもなどがやってきたのは今から約500年前の大航海時代。コロンブスがアメリカ大陸を発見したことによって、ヨーロッパ経由でインドに伝わってきたと言われている。簡単に育てられる美味しい辛味の唐辛子やインド料理をさらに美味しくしてくれるトマトは酸味で味を引き立ててくれるしトマトの旨味が料理に深みを与えてくれる。トマトや唐辛子の登場はインド料理に劇的な変化をもたらしたものだと思うし、今や「スパイスから作る基本のチキンカレー」のレシピには唐辛子もトマトも欠かせない存在となり、インド料理の中で重要な存在になっている。

 さて今から500年前にインドに登場したトマトさん。見た目の派手さと衝撃的な登場、そして食べたら美味い。と三拍子揃った新食材にインドの人々は次々に魅了されていった。家庭の主婦から街中の料理屋さん、さらには宮廷の料理人たちも使うようになり様々な新しい料理が次々に誕生していった。そんな華々しいトマトの活躍を鍋の裏からそっと見ているものがおりました。
 ヨーグルトさんです。

 ちょっと派手だからってチヤホヤされて、と。ヤキモチと妬み半分、寂しさ半分のヨーグルトさん。それもそのはず、トマトさんがインドに来る前のキッチンのヒーローといったらヨーグルトさんだったのです。各家庭、各レストランでは独自のヨーグルトを自家製していて、それらが旨味、酸味、とろみを料理に加えてくれる。それぞれが自慢のヨーグルトを作っていてそれぞれのカレーがスパイスの香りとオリジナルのヨーグルトと絡みあい独特の美味しいカレーを作り出していたのです。スパイスやニンニク、生姜、レモン汁と一緒に鶏肉やその他のお肉とマリネしておけばお肉は柔らかくなるしスパイスの香りが中まで染み込み、それをじっくりと焼けばそれはそれは美味しいタンドリーチキンが出来上がる。鍋に加えて炒めるように煮込めば旨味に変わり、カレー作りの途中に加えれば程よい酸味を加えてくれる。仕上げに加えればクリーミーなとろみを与えてくれる。使い方を知れば知るほどインド料理の幅が広がっていく。

 トマトさんなんて僕ができることの一部しかできないじゃないか。

 と、ヨーグルトさん。

 そんなヨーグルトさんとトマトさんをみかねてある料理人が両方一緒に調理してしまったのだ。トマトさんもヨーグルトさんもそれにはびっくりして、最初は距離を取りつつ火が通ってくるにつれて言い争いになり、さらには殴り合いの喧嘩になってしまった。バッチバチにやりあうトマトさんとヨーグルトさん。ブクブクと鍋の中では泡立ち、その勢いは鍋の外まで噴きこぼれるほどである。びっくりした料理人は慌てて蓋をしめて火を弱火にしてほとぼりが冷めるまでほっておくことにした。

 鍋の中が少し静かになったような気がしたので、恐る恐る蓋を開けてみたらそこには今まで見たことがない輝かしい赤色の、今までに見たことがないグレービーソースが出来上がっていたのである。激しい喧嘩をした後のヨーグルトさんとトマトさんの顔は晴れ晴れしく、番長同士の喧嘩の後のようにお互いがとても仲良くなっていたのである。

 お互いの良さを認め合い、引き立て合うことでインド料理はさらに進化していったのだそうだ。

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