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この1枚 #7 『Revelator』 テデスキ・トラックス・バンド(2011)

この10月に来日したTedeschi Trucks Band(テデスキ・トラックス・バンド)。公演では彼らのルーツとなったオールマン、クラプトン、ジェフベックなどの名曲をカバーして喝采を浴びました。デレク・トラックスはオールマンのメンバーの血筋で、デレクという名前はデレク&ドミノスから命名されたと言う筋金入りのブルースロックの継承者でもあります。

Revelator』は2011年リリースのTedeschi Trucks Band(テデスキ・トラックス・バンド)のデビューアルバム。

総勢11人の大所帯バンド

Tedeschi Trucks Band(TTB)は、夫婦であるシンガーのスーザン・テデスキSusan Tedeschi)とギタリストのデレク・トラックスDerek Trucks)によって設立されたバンドです。

デュアン・オールマンの継承者

Derek and the Dominosからの命名

デレク・トラックスは1979年フロリダ州ジャクソンヴィル出身の44歳。オールマン・ブラザーズ・バンドのオリジナル・メンバー、ドラマーのブッチ・トラックスは叔父である。デレクと言う名前は、クラプトンDerek and the Dominosから取られており、生誕時からオールマンやクラプトンの奏でてきたブルースロックの継承者として運命づけられていたのです。
そして、1999年には叔父が在籍するオールマン・ブラザーズ・バンドのメンバーとなります。この時、彼はまだ20歳。
グレッグオールマン、叔父のブッチジェイモの2人のドラマー、このオリジナル3人に加えて、ソロでも活躍するウォーレンヘインズとデレクのツインリードの布陣は史上最強とも評されます。
スライドを奏でるデレクはデュアン・オールマンの生まれ変わりとも称されました。
Whipping Post (2014年1月に行われたグレッグ・オールマンのトリビュート・ライヴより)

エリック・クラプトンとの交遊

また自身のグループのデレク・トラックス・バンドも結成し、並行して活動していました。

自分が最初にデレクを観たのは2006年のエリック・クラプトンの来日公演。クラプトン史上最高のステージと呼ばれるこのライブ。
クラプトンにDoyle Bramhall IIデレク・トラックスが加わったトリプルギターに、Willie Weeksがベース、Steve Jordanがドラム、キーボードにChris Stainton等が加わった凄いメンバーでした。
デレクと言う存在がクラプトンにLaylaの再現を決意させ、封印していた『いとしのレイラ』収録のTell the TruthAnyday等のナンバーが次々と繰り出されました。
オープニングのTell the Truth(8)のイントロで炸裂する、デュアンを彷彿させるデレクのスライドには驚愕しました。

そして、デレク在籍のオールマンにクラプトンが客演して「Layla」のWhy Has Love Got To Be So Sad(9)を演奏する貴重な映像。

テデスキ・トラックス・バンドの誕生

大所帯バンド

そして2010年デレクは妻のスーザンとバンドを結成。
妻のスーザン・テデスキは『Just Won’t Burn』でデビュー、2000年のグラミー賞最優秀新人賞にノミネートされた、既に実績のある女性ブルース&ソウルシンガーでした。
スーザンがオールマン・ブラザーズの前座を務めた縁で、デレクと知り合い結婚に至ります。

スーザンは9歳年上の姉さん女房

他には、オールマン・ブラザーズで同僚だったベースのオテイル・バーブリッジデレク・トラックス・バンドのメンバーでオテイルの兄、コフィ・バーブリッジマイク・マティソンなど総勢11人。
ツインドラムと言う編成はオールマンから継承し、管楽器、コーラスをメンバーとして備えた点はジョー・コッカーのMad Dogs & Englishmenに類似しています。後にはMad Dogs & Englishmenのトリビュートコンサートを行うほど、彼らをリスペクトしているようです。

2011年にバンドは、名称をテデスキ・トラックス・バンド(TTB)と命名。TTBとしてのデビュー作『Revelator 』は2011年6月に発表されたのです。
そして『Revelator』は12位まで上り、グラミー最優秀ブルース・アルバム賞を獲得するのです。

Midnight in Harlem(A-3)

本作には彼らの名曲中の名曲と言えるMidnight in Harlemが収録されています。スーザンのボーカルで静かに始まりますが、後半で聴かれるデレクのスライドソロが素晴らしい名演。
彼の奏法はピックは使わず指弾きで弾くという、特殊な弾き方をします。指弾きと言うとジェフ・ベックマーク・ノップラーなどが著名。また、敬愛するデュアン・オールマン同様に、コリシディン(風邪薬)のビンをスライドバーとして使用してます。

デレクのスライドをじっくりとご覧ください。

好漢マイク・マティソン

また本曲のクレジットはMike Mattison/Derek Trucksとなっています。マイク・マティソン(Mike Mattison)は、TTB以前にデレクがやっていたデレク・トラックス・バンドのリードボーカル。TTBとなりリードはスーザンに譲り、自身はバックボーカル専任に回った謙虚な好漢。
ステージではたまにダイナミックなリードボーカルを聴かせてくれ、ライブでは人気の人です。
実はTTBでは多くの曲作りに参加している陰の立役者で、Midnight in Harlemも彼がメインで創作しています。
いかつい外見に似合わずハーバード大学卒業のインテリで、詩人やエッセイストでもあります。
マイクのソロ作で作者が歌うMidnight in Harlemを。

Bound for Glory(B-1)

Bound for Gloryは今もライブのレパートリーとして何度も演奏されていて、今回の来日公演でも3日目のラストに演奏。アメリカの開拓魂とこのバンドの未来を重ね合わせた、前向きのメッセージを発信する名曲。

夫婦と共に演奏の核となるのが、オルガン&フルート等をこなすコフィ・バーブリッジベースオテイル・バーブリッジの兄弟。
黒人らしいグルーブ感溢れるオテイル・バーブリッジだが、本作後に脱退しDead&Companyに加入しました。
そして兄のコフィはバンドの核として活躍し続けましたが、惜しくも2019年に逝去しました。

ジャズとインド

ハービー・ハンコック/Space Captain(19)

本作の同時期の2010年には、ハービー・ハンコックの「Imagine Project」にデレク、スーザンらが参加。ジョー・コッカーの「Space Captain」をカバーしました。

ブルースギタリストとしての評価が先行するでデレクですが、実はジャズへの造詣も深いことに知られ、そのため演奏にもジャズ的展開が顕著で、それがブルースと言う枠に収まらない個性となります。
前身のデレク・トラックス・バンド時代には顕著で、Afro Blue(15)、My favorite thingsをカバー。

ラーガ/These Wall(C-2)

デレクの個性の一つに「ラーガ(インド音楽)」からの影響もあります。These Wallではサロードと言うシタールのような弦楽器とタブラが使用されています。ちなみに自身のスタジオの名前はスワンプ・ラーガ・スタジオです。

パキスタン・ラホール出身の伝統楽器の職人集団Sachal Ensembleの作品にもゲストで参加。ディランのShelter From The Storm(18)をカバー。

Love Has Something Else to Say(D-2)

ハードなサザン・スタックス・スタイルのリズム持つファンク・チューン。これもお馴染みナンバーで来日公演でも演奏されました。

カバー

毎回ライブで多くのカバー曲を演奏するTTB。その範囲の広さとセンスに脱帽します。ブルース、ソウルからジャズ、そして彼らが青春時代から聴き込んだ60's、70'sロックの名曲の数々。
彼らのカバーした曲で構成したプレイリストも作成しました。

来日公演でのオールマン・カバー

来日公演は東京で4日開催された(Tokyo Doom City Hall)

自分が観た来日公演2日目には、オールマン・ブラザーズ・バンドのデュアン在命時の名曲Dreamsをカバー。デレクがデュアンに、そして新加入の、Gabe Dixonがキーボードを弾きながら歌う姿はグレッグに見えて来て、感極まったのです。
この日披露されたカバーは他にも、ジョー・コッカーウェットウィリーボニー・レイットジョー・テックスなど。
別日にはStatesboro Bluesも披露しています。
Tokyo Doom City Hallの公演からDreamsを撮影した映像を公開します。

Stand Back/Allman Brothers Band(1)

In Memory of Elizabeth Reed/Allman Brothers Band

All my friends/Gregg Allman(2)

グレッグのソロ作「Laid Back」からAll my friends

Oh! You Pretty Things/David Bowie(3)

彼らの音楽性では異色のカバーが、David Bowieの「Hunky Dory」に収録のOh! You Pretty Things。3枚目の『Let Me Get By』に収録されました。
2代目のベーシストTim Lefebvreは、Bowieの遺作「Black Star」でベースを務めており、その流れもあると思います。

Everybody's Talkin' /Nilsson(4)

ニルソンのヒット曲Everybody's Talkin'(うわさの男)もTTBが演るとこんなブルースロックに様変わり。

I Got A Feeling/Beatles

渋谷公会堂で初めて彼らを観た時、カバーでビートルズのこの曲が飛び出した時にぶっ飛びました。ビートルズの中でもスワンプ色の強いと言われるこの曲を選ぶセンスに脱帽。

Wah Wah/George Harrison

2回目の来日を人見記念で観た時にオープニングがこの曲でたまげました。スライドプレーヤーでインド好きのジョージを、デレクは敬愛しているようで多くの曲をカバー。バングラデシュさながらのホーン&コーラス隊ありのWah Wahには感涙です。

Be Here Now/George Harrison(25)

クラプトンバンドの同僚でデレクの盟友、Doyle Bramhall IIのソロ作品収録のジョージのBe Here Nowに、2人でゲストで参加。

Within You Without You/Beatles(5)

ジョージのWithin You Without Youはインド音楽好きのデレクならでは。

With A Little Help From My Friends / Beatles(Joe Cocker)

これもビートルズですが、彼らはジョー・コッカーのバージョンを忠実にカバーしています。

Alabama / Neil Young(6)

ニール・ヤングの「Harvest」収録のAlabama

Layla Revisited  

2019年には「いとしのレイラ」を全曲再現するライヴ盤「Layla Revisited (Live at LOCKN')」をリリース。

Bell Bottom Blues/Derek and the Dominos(7)

Layla/Derek and the Dominos(10)

Anyday/Derek and the Dominos(11)

デレク・トラックス・バンド時代にマイクが歌ったAny Day

Heartbreaker/ Rolling Stones

Don't Do It/The Band

Uptight/Stevie Wonder(12)

Sing a Simple Song &I Want to Take You Higher/Sly & The Family Stone(13)

Ali / Miles Davis(14)

Soul Sacrifice/Sanatana(16)

Don't Think Twice, It's All Right/Bob Dylan(17)

Angel From Montgomery/Bonnie Raitt(20)

Rollin' and Tumblin'/Cream(21)

I Pity the Fool/Bobby Bland(22)

I Wish I Knew (How It Would Feel To Be Free)/Nina Simone(23)

Baby,you are right/James Brown(24)

Becks Bolero/Jeff Beck

東京で4日間、セットリストは毎日変わり、曲の被りもないと言う驚異的なライブだったが、2曲が2回演奏。そのうちの一つがBecks Bolero。指弾きの先輩であるジェフ・ベックを追悼した。
(その後名古屋でも演奏されて3回となる)

Midnight In Harlem (Tokyo 2023-10-18)

そしてもう1曲が本作の名曲、Midnight In Harlem、東京公演の初日から。

デレクの経営手腕

このバンドはサザンロック、ブルースロックとジャンル分けされることが多いが、スワンプ、ソウル、ファンク、ジャズ、インド、アラブと広範なジャンルを包有しており、一筋縄でないことが魅力です。
そして、画期的なのはデレク・トラックスのリーダーシップ。
現状でホーンとコーラス隊も含む12人のメンバーを抱え、コロナ禍も解雇することなく、大家族的にバンドを運営している経営手腕と懐の深さには感心するばかりです。

そして来日公演は夫妻がメインの双頭バンドから、群像劇のようにメンバー全員が主役のバンドに変貌を遂げて来ました。
創業から支えてきたコフィの死を乗り越えて、良い意味での転換に成功したようです。
特にコフィの後釜のGabe Dixonは新作の『I AM THE MOON』でもソングライター&ボーカリストとしても存在感を発揮し、ステージでもスーザン、マイク、ゲイブのトリプルボーカルが新基軸として機能しました。
その分、スーザンの負担が軽減され、ギタリストとしてリードを弾く機会も増えて、スーザン&デレクの2人がバンドメンバーをプッシュする良い形が現出したのです。

結成時の11人から12人に増員された

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