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芸術の必要性とは? 澤田莉々花(学生インターン)

劇場との精神的距離と物理的距離

新型コロナウイルスが流行し始めてから3年の月日が経った。もうすぐ2022年も終わり、4年目に突入しようとしている。コロナが流行してから、人々は物理的にも、精神的にも劇場と距離を取るようになったと感じる。

コロナ禍において芸術、特に演劇はかなり厳しい状況にある。人から人へと感染していく病が流行している現代において、多数の人間が集まる空間はあまりにリスキーであり、一時期は政府が劇場等でのイベントを自粛するように呼びかけていた。演劇は劇場で上演されることが前提として作られる芸術なため、もちろん自粛を呼びかけられた。このことから、いつしか劇場は「危険な場所」という認識がされるようになった。感染したくないし、わざわざ劇場に行ってまでリスクを負いたくないという心理から、人々は劇場から精神的に距離を取ったのだ。

劇場という場所の特性上、コロナ禍で人々が精神的に劇場から遠のいたのに加えて、人々は物理的にも劇場から遠のいている。その大きな要因として演劇のオンライン鑑賞が可能になったという点が挙げられる。「ステイホーム」が重要視される世の中で、自宅から出ずに演劇を鑑賞できるシステムは画期的で、このシステムによって人々は劇場に足を運ぶ必要がなくなった。誰でもどこに居ても観劇が出来る時代になったのだ。

これには大きなメリットもある。観劇を躊躇う理由となる観客と劇場の「距離」という問題をこのシステムは解決したのだ。演劇作品は首都圏で上演されることが多いため、地方に住む人が観劇する際の金銭的、時間的負担はどうしても大きい。しかしオンライン観劇の文化がこの数年で普及したことでこれらの負担は軽減しただろう。これは大きなメリットだと考える。 

芸術の必要性とは?

感染症が流行する時代における劇場が持つリスクへの不安は、観客と劇場の精神的距離を離し、拍車をかけるようにオンライン観劇システムが出来たことで物理的距離も遠くなった。今、劇場の必要性とは何なのかという問いが改めて考えられる時代、そもそも芸術自体の必要性とは何なのかということを問い直す時代が訪れている。

芸術を説明するのは難しい。上っ面だけを見ると、芸術はケーキの表面にまぶした粉砂糖のように思えてしまう。ほかのことが全部片付いてから、やっと芸術について考える余裕ができるかのように。

翻訳:柴田裕之

芸術の必要性を考える時、この言葉を思い出す。心理学者であるマイケル・S・ガザニガ著『人間とはなにか』での中で彼が述べていた言葉だ。

芸術を嗜むことは生活の機能面をすべて満足に整えたそのあとで余裕が残っていれば可能だと、後回しにされがちなのは確かである。芸術を享受しても、私たちに目に見える変化はないからだ。これはコロナ下に限った話ではない。義務教育のなかで国語や英語や数学の授業は週に何度もあるが、芸術科目は週に 1 度だけ、または選択性など他の科目に比べて非常に少ない。まるで人間の発達に芸術は直接関係ないとでもいうように、普段の生活においても芸術の必要性は低いとされてきた。感染症が拡大してからその意識はより強まったと思う。芸術を嗜む行為は生物の発達の中で、人間ならではのものだ。言ってしまえば生物が生きていくための最低条件に、芸術は入っていないのだろう。病が流行した今、人間はその生物として生きていくための最低ラインを守ることに必死になっているように思う。そんなことをしている場合ではないとでも言うように、芸術を嗜む余裕が無くなっている。

また、芸術を嗜むというのは手間がかかる。作るのも鑑賞しに行くのも、時間と労力をかけなければならない。余裕が無い今の時代の人々にとって、手間がかかることへの関心は薄れつつあるだろう。テクノロジーが発展するにつれて、無駄や手間を忌避する人が増えたように感じる。演劇はその中の1つである。劇場に足を運び、チケット代を払って、約2時間黙って座っていることが苦痛になってきているのだ。近年問題になっている、映画を早送りで観る人たちと似たようなことが演劇でも起こっているのではないだろうか。

これは上記にも述べたオンライン鑑賞というシステムが生まれたことも関係しているだろう。劇場の中で黙って鑑賞するよりも、家の中で興味のない所をスキップしながら観るほうが効率的で、たった1回のためにお金を払うより、何度も繰り返し視聴できる配信を買う方がお得というような考えが出てきてもおかしくはない。

ここまではコロナ禍において芸術はどう捉えられているのか、どんな状況に置かれているのかを理論的に述べてきた。しかし、そもそも芸術の必要性とはすべてを論理的に説明できるものなのだろうか。私はこれまで芸術に助けられて生きてきた。芸術は人間にとって必要なものだと思う。それはどうして?今まではこれらを上手く言葉にすることが出来ず曖昧にしていた。インターン生として地点の活動に参加している今、この「芸術はなぜ人間にとって必要なのか」という根本的な問いの答えを自分の中で出す時が来たのだと思う。今回、「芸術の必要性」というテーマを取り上げた理由はここにある。インターン活動が終わるまでの間、このテーマに対する私の考えをnoteに書き連ねていきたい。

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