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中央線芸術祭~遠くには行けないけれどアートを通じて日常の半歩外へ~


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コロナ禍の今は雪に閉ざされた長い農閑期なのかもしれない

 コロナ禍で、演劇などの舞台芸術もオンラインでの配信が定着してきている。劇場に足を運ぶことが難しい人も観劇が可能になり、海外の作品も鑑賞できるし、地方で活動する人たちにとっては発信するチャンスになるなどメリットも多い。

わたしは子育て中なので、最初は便利だなと期待したけれど、結局観たいと思った配信も見逃してしまいがちだ。なぜかと考えてみると、劇場で観劇する場合は、子どもたちから離れ、会場に向かう過程や劇場空間の中で開演を待つ間に「非日常の世界をこれから観るぞ」と感覚が開いたり、集中する方向に自然と頭が切り替わっていたけれど、自宅だとそれが難しい。慌ただしい日常の中で、今日は観る気分じゃないなと思っている間に配信が終わっていることが多い。そんなこともあり、わたしはオンライン配信には、なんとなく距離を感じている。

 

 最近の変化の中で、わたしがより共感できたのは、自宅に籠らなくてはならなくなった時に、多くの人がパンを焼いたり、マスクを作るなどの手芸や料理をし始めたということ。

もともと、わたしは家族のために簡単なパンを時々作っていたのだけど、昨年の緊急事態宣言中に小麦粉などの材料が売り切れ、手に入らなくなったのには驚いた。確かに、家族など身近な人たちのために、黙々と手を動かし、生活に必要なものを自分の作りたいように作ることは、楽しく、充足感がある。

最近知った、長野県上田市の「農民美術」とつながる感覚のようにも思える。大正時代の洋画家の山本鼎が、ロシアの農民たちの美術作品に感銘を受け、冬の農閑期が長い上田で、絵画や木彫りの工芸品を作り、生活を豊かにしようと始めた運動。「自分が直接感じたものが尊い。そこからすべての仕事が生まれてくるものでなければならない」という言葉を残している山本鼎は、それまで模写が中心だった子どもの美術教育に、自分の目で感じとったものを描く「児童自由画」も提唱したそう。

 コロナ禍の今は雪に閉ざされた長い農閑期なのかもしれない。身体を動かし、顔の見える人数の人たちのために、自分が必要だと思うものを作り続けようと思う。春が来た時の糧になるように。


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自分の足で歩き、人に会い、手を動かして作る、身体を通して感じる芸術祭

 今年から始まるCenter line art festival Tokyo中央線芸術祭に実行委員として携わることになり、10月の開催に向けて準備を進めている。

中央線沿線の複数の街にある会場でパフォーマンスや展示、ワークショップが行われる回遊型の芸術祭。活気のある商店街などがある一方で、劇場やライブハウス、アニメスタジオなどが数多くあり、生活と文化が共存しているというイメージが中央線にはある。今は非日常を体験できる遠方への旅はなかなか難しいけれど、いつもの中央線でアートを通じて日常の半歩外へ行く散歩ができるとよいなと思う。

Center line art festival Tokyoの略称「ClafT」(クラフト)は、19世紀末にイギリスで興った、手工芸の復興や、人間と事物との全体的な調和を図る「アーツ・アンド・クラフツ運動」に倣っている。オンライン化する時代に逆行するかもしれないけれど、自分の足で歩き、人に会い、手を動かして作る、身体を通して感じとることの楽しさが伝わる場を目指している。


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街を歩き、出会った人たちとアートを通じて対話する 

 最近、芸術祭の準備で取り組んでいるのは、街を歩き、出会った人たちとアートを通じて対話をする試み。芸術祭のプレ企画「with you」は、今年の会場がある中野、高円寺、吉祥寺、武蔵境、武蔵小金井の街の人たちに「他者とのつながり」や「遊び」など今年度のテーマである「with you」にまつわる質問をしたり、「アート」「中央線の思い出」などについてお話をうかがう。インタビューの内容は、テキスト版はnote、動画をYoutubeで公開している。


「アート」と言うと特殊なことをするイメージがあるけれど、例えばコップで水を飲むという日常の動作を「普段どうしているんだろう?」と意識してみると、それはもう演劇の始まりになる。

この企画も、日常生活の中で無意識になっていることに改めて目を向けてみることや他者と対話すること、それ自体がアート体験になるのではないかと考えている。

実際に高円寺で取材をしてみて、普段は特に意識はしていないものの、日常生活の中に自然と「アート」を見出している人の語る言葉は、その人の生きざまそのもののように感じられた。


「人生そもそもアートだよ、遊びだよ。」は80代の画材屋さんの言葉。

「自分をアーティストだと思ったら日常生活が豊かになるんじゃないですか」と言うのはガラス工芸の職人さん。

「アートと意識しなくても、みんなの中に自然に入っている」と答えたのは古本屋さん。


芸術を身近なものにする試みは、そこに暮らす人たちの「アート」に対する捉え方とアーティストの「生活」感覚の間に接点を見つけることかもしれない。


米谷よう子


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中央線芸術祭についてはこちらをご覧ください。

中央線芸術祭プレ企画「with you」note



米谷よう子の記事はこちらから。
https://note.com/beyond_it_all/m/me1e12a71d670


読んでくださり、ありがとうございます。 このnoteの詳細や書き手の紹介はこちらから。 https://note.com/beyond_it_all/n/n8b56f8f9b69b これからもこのnoteを読みたいなと思ってくださっていたら、ぜひサポートをお願いします。