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ものの作り方

緊急事態宣言の出ているゴールデンウィーク。
「ゴールデンウィーク」という名前の始まりは、たしか映画業界なんですよね。
1951年のゴールデンウィーク時期に公開した映画が、お正月やお盆の時期と同様にヒットして、興行成績が良いという意味で『ゴールデンウィーク』と呼んだようです。
始めは、映画業界内での専門用語だったようですが、徐々に他の業界にも広がっていきました。しかし、現在でもNHKや一部の民放や新聞では『ゴールデンウィーク』とは呼ばずに『大型連休』で統一しているみたいですね。

外に無闇に出ない方がいいし、じゃあ、家で映画でも見ようということで、久しぶりに「ビフォア」シリーズを見ました。

ご存知の方もいらっしゃると思いますが、イーサン・ホークとジュリー・デルピーが、とあるヨーロッパ旅行の列車内で出会い、ウィーンの街でぶらぶらと朝まで過ごす…という映画です。
これまでに「ビフォアサンライズ」「ビフォアサンセット」「ビフォアミットナイト」と3本出ていますが、この映画の素晴らしいところは、俳優と役が同じ年齢のまま物語が進むことです。
第1作目から9年後に、第2作が公開されましたが、劇中のキャラクターも演じる俳優達も9歳を重ねています。
そしてまた第3作目も9年歳を重ねた俳優達が、9年後の役を演じる。​
3本撮るのに、20年近くの時間をかけている作品です。


串田さんと一緒に芝居を作っていて学んだことの一つに「時間をかける」ということがあります。
現在のプロデュース公演の定番は、稽古期間30日でしょうか?長くて40日。
でも、3年〜5年くらい時間をかけて作る演劇もいいです。
もちろんそれをずっと扱ってるわけではなく、他の芝居もやりつつ、一つの作品を成長させていく。
これまでに串田さんの作品では「ファウスト」や「テンペスト」を長い時間をかけて扱ってきました。
その中で色々な人との出会いがあって、フランスのサーカスの人を混ぜてみたり、海外の演劇祭に行ったり、長い旅をしているような気分です。

じゃあ、自分でも何かやってみようということで、3年前から「A Walk in the Woods」という作品に取り組み始めました。
元来、自分から何か発信するようなタイプの人間ではありません。リーダーシップみたいなものもないし、小さい頃は姉についてどこにでも一緒に行ったような弟気質です。でも、そんな自分が「何か自分でやろう」と思ったのは面白い。
まずは、本を探すことから始めました。
二人芝居がいいと思っていたので、日本で出版された本は全て揃ってる国会図書館に行きました。
電子書籍のアーカイブで、悲劇喜劇だったか?セリフの時代?だったかもしれません、二人芝居特集なるものが検索に引っかかりました。様々な作品が紹介される中目に留まったのが、ある評論の最後にたった一言あった「それから『A Walk in the Woods』も非常に面白かった。」という言葉。それがこの戯曲との出会いでした。
2日かがりの国会図書館でのリサーチを終え「モジョミキボー」「くだんの件」「A Walk in the Woods」の3本が候補作になりました。

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ネットで調べると、Kindleで注文できたので、「A Walk in the Woods」をダウンロードし、英語の話せる友人にあらすじを教えてもらいました。
どうやら、冷戦時代のスイス ジュネーブで、核ミサイル軍縮会議の最中、アメリカとソ連の交渉人が 森で非公式に話す。というものらしい。
まず頭に浮かんだのは、スパイ映画みたいなスリリングな展開のお話。

2日ほどかけて最後まで読んでもらっているうちに、どうやら、そんなものじゃないらしい、ということがわかってきました。
同時に「モジョミキボー」もアイルランド語の本を購入し、知り合いのアイルランド人に英語に訳してもらい、またそこから友人に日本語にしてもらう作業を始めました。

話は少し飛びますが、僕は子供のころ、父の仕事の関係で長崎県に住んでいました。長崎は海と山が両方あって、江戸時代も貿易で栄えた街なので、文化が混在していて、今でもとても大好きな街です。
そして、原爆が落とされた街でもあります。
毎年8/9になると、その日だけは登校日で、11時02分に黙祷をし、被爆者の方のお話を聞き、被害にあった方々の写真を見て周ります。
大きくなって気がついたのですが、僕は戦争映画が好きで、特に理由もなく見てしまうんですが、子供のころ長崎で住んでいたことが関係あるのかなと思ってます。
戦争に関わるドキュメンタリーもなぜか見てしまう。
戦争、ホロコースト、原子爆弾、人間には破壊や暴力を好む部分がある元々ということを、子供の頃の記憶として持っているからでしょうか?
小学校1年生で、原爆に関する写真類を見るのは、相当ショックだと思います。大体その日の夜は、目の前に原爆の写真がチラついて、一睡もできませんでした。
8/9の登校日は「戦争はいけないよ、もう二度とこんなことが起きないように、平和を守っていこうよ」という教育のためのものだと思いますが、大人になってみると、人間が持っている破壊性や暴力性を認めた上でしか、平和というのは考えられないと思うようになりました。

「A Walk in the Woods」には2人の登場人物がいます。
ロシアの交渉人は57歳のアンドレイ・ボトヴィニック。彼は現実主義者で、元軍人です。10年間このスイスジュネーブで、核ミサイル軍縮の交渉に当たっているベテラン。
一方、アメリカの交渉人は46歳のジョン・ハニーマン。彼は理想主義者で、ワシントンの国務省の机の上で平和のために考え抜いた軍縮についての新しい提案を持って、ジュネーブに初めてやってきた新人です。
ハニーマンの赴任直後。恐らく、ボトヴィニックが誘ったであろう、夏の終わりの森の散歩から話は、始まります。

ほら、面白そうですね。
それだけがテーマではないですが、僕はどうしても無意識に「核」というものに興味を持ってしまいます。

一方「モジョミキボー」は、北アイルランドの領土問題、イギリスとアイルランドの地域紛争真っ只中の1970年のベルファストで、異なる宗教の生まれに育った子供達の話。
こちらも面白そうですね。

「A Walk in the Woods」も「モジョミキボー」も同時に翻訳が上がってきて、連載小説を読みながら作品決めをしているようで、実に贅沢な時間でした。
ですが、時間がないので、早々にどちらかに決めなければいけません。
「モジョミキボー」もとても魅力的でしたが、実は文学座の先輩が既にライフワークとして鵜山さんと3人で作っていて、日本初演ではありませんでした。
「A Walk in the Woods」はネット上ではいくら探しても、日本上演の情報はありません。
「日本初演」…いい響きですね。笑

そんなこんなで、僕は「A Walk in the Woods」を選びました。
さて、僕はこの作品と3年ほど向き合っていくことになるのですが、この続きはまた次回。



近藤隼の記事はこちらから。
https://note.com/beyond_it_all/m/m469a63ef1392


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