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新しい資本主義に関して・ベター・プレイスの「参加型資本主義」、事始め

当社は数年後にIPOを計画しています。IPOというと≒株主資本主義を目指すのか? と感じる人も多いでしょう。しかし、当社は株主資本主義ではなく、ステークホルダー資本主義でもなく、「参加型資本主義」を志向します。その真意は、株主やステークホルダーを軽視するというわけではありません。株主も大切にしたうえで、当社は少しだけ従業員にプライオリティーを置きたいと考えているのです。「参加型資本主義」といってもピンとこないと思います。いわば(従業員)参加型資本主義です。従業員に会社経営に株主として参加してもらいつつ、従業員を企業の主権者と位置付けて、全社一丸となって顧客価値創造やイノベーションを実行します。なお、参加型資本主義は伊丹敬之 一橋大学名誉教授の著作が主要な理論的背景になっています。

今回の記事では、「会社は誰のものなのか」「会社の目的とは何なのか」「会社の主権者は誰なのか」を読み解くとともに、当社が志向する「参加型資本主義」とそのために考えられる施策について、私自身が考えていることを綴ります。

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<プロフィール>ベター・プレイス 取締役CFO 野崎 始
東京大学法学部卒業、丸紅(株)・さわかみ投信(株)を経て、三菱UFJ国際投信(株)(現・三菱UFJアセットマネジメント(株))でエグゼクティブファンドマネジャー・国内株式バリュー運用チームヘッド・国内株式ESG投資統括を担当。優良日本株ファンドでモーニングスターアワード・ファンドオブザイヤーを4度受賞(最優秀賞2回)。
2022年2月に当社執行役員CFO就任、2023年1月より現職。

会社は株主のものなのか?

・ノーベル賞経済学者ミルトン・フリードマンが1970年、ニューヨーク・タイムズに「企業の社会的責任は利潤を増やすことである」を寄稿、編集者によって付けられた見出しが、かの「フリードマン・ドクトリン」である。フリードマンは、経営者の社会的責任とは「社会的な基本ルールに沿って、可能な限り利益を上げたいという株主の願望に沿って経営を行うべきだ」と説き、株主資本主義の誕生とも言える歴史的な一文となった。
 
・会社は株主のもの、利益を増やすこと・株主利益の最大化が企業の目的という考え、今で言う株主資本主義については、スタートアップ経営者の中にも信奉者が多い。

会社は株主のものではない、利益が会社の目的ではない

・フリードマンの考え方にも歴史的文脈・時代的背景がある。影響を及ぼしているのは、フリードリヒ・ハイエクと彼の代表的著作である「隷従への道」。ファシズムとの戦いを継承した中央計画経済を特徴とする社会主義との戦い、株主に対する説明責任を欠いて我が物顔にふるまい私腹を肥やす経営者のエージェンシー問題との戦い。時代が変われば、必要とされる考え方もかわって当然。
 
・そもそも所有と目的は違っていい。(あきる野ルピアはあきる野市、新宿コズミックセンターは新宿区のものだが、それぞれ あきる野市民・新宿区民のための施設です)。百歩譲って会社は株主のモノだとしても、株主と株主の利益のために会社が存在するわけではない。

・組織の目的は組織の外にある。消防署の目的は火を消すこと、病院の目的は病気を治すこと。企業の目的とは社会課題を解決すること。事業を通じて世の中を良くすることこそ、会社の存在理由。そのことによって世の中から存在を許されている。JR東海・葛西元名誉会長曰く「わが社は株主利益をもちろん大切にするが、それ以上に大切なものがある。乗客の安全です。」すなわち、企業の目的は、企業の内側の論理である利益では決してない。
 
・企業価値向上が至上目的ではない。企業価値とは会社の値段、すなわち、将来CF≒中長期の持続可能な利益の割引現在価値。利益は企業の目的ではなくて社会課題解決の結果・企業の存続条件・企業活動の評価基準にすぎない(ただし、評価基準としては非常に優れている)。
 
・法律に書いてあるから明らかという人もいる。しかし、会社法は、ヒトとカネの重要性を比較考量して、株主に独占的な統治権を与えている訳ではない。あくまでカネ同士の種類別に権利関係を規定しているだけ。会社法は逃げない金と逃げる金、株主と債権者の関係を規定したもの。法律上の建前と社会通念上の本音は違ってもいい。

「失われた30年」の間、会社が株主のものになっている

・大企業の設備投資額・配当金額・人件費について、法人企業統計を使って「失われた30年」で比較してみた。結論的にはわずかに増えた付加価値を全て株主に回してきた。日本企業がバブル崩壊・リーマンショック・国際競争力喪失等で自信を失う中で、株式市場から自社を守るためや、コーポレートガバナンス改革・米国型資本主義への礼賛が原因だが、設備投資や人への投資にお金が使われることは使われなかった。

*法人企業統計より筆者作成                           

とはいえ、日本において株主が軽視されていたことは事実。2023年3月、東京証券取引所による「資本コストと株価を意識した経営の実現に向けた対応」、いわゆる「PBR1倍割れ改善要請」が出される程、資本コストを上回る資本生産性すら実現できていない株主軽視企業が日本の上場企業には未だ多い。しかし、物事をなすには何事もバランス感覚が肝要。拙速に株主還元ばかり増やしていたら、何かがおかしくなっていく。
 
・日本経済におけるマクロ的な売上の停滞を前提とすれば、株主の利益最大化要求は、費用の最小化を意味する。株主に帰属する利益と配当金を重視して、従業員を相対的に軽視し、設備投資をはじめとするさまざまな投資を抑えるような経営。こんなことを続けていては日本がどんどんだめになっていく。
 
従業員主権と積極的な設備投資(≒アニマルスピリッツ・実現したいことに対する非合理なまでの期待と熱意)を取り戻せ。攻めの経営・投資から人が育つ、健全な負荷・困難への挑戦・事業の成長を通じて、従業員の能力開発・自信獲得・視野拡大が達成される。「電力の鬼」・松永安左エ門は実業人の条件として、「闘病」・「浪人」・「投獄」を挙げている。もはやそうそう投獄される時代ではないでしょうが、修羅場体験はお金を出してでもしてください。面倒くさいこと・貧乏クジ・謝罪案件などから逃げないことが大事です。たまにアウェイで冷や汗をかかないとあなたのビジネスマン価値は確実に逓減します。

株主資本主義からの転換:会社を従業員に取り戻す

ベター・プレイスは「参加型資本主義」を採用する。株主資本主義は言うに及ばず、ステークホルダー資本主義の欺瞞。ステークとは賭金のこと、ステークホルダーとは会社に何かを賭けている人、確かに取引先・社会・債権者等のステークホルダーも会社に大きくベットしている。しかし、取引先・社会・債権者等はあくまで外部者、株主や従業員程には企業活動に関与することはできない。よって、配慮すべき対象ではあるが、会社の主権者には足りえない。では、企業の主権者は株主なのか従業員なのか? 3つの観点で考える。結論は企業の主権者は従業員である。
 
1      競争力の源泉は?:圧倒的に従業員。働く人の知恵とエネルギー。お金で差別化はできない。決してカネが競争力の中核になることはできない。

2      コミットメントは?:誰が会社の主権者なのか。会社へのコミットメント度合で考える。
株主 ― 債権者と比べて資本金という逃げない金を提供しているので、法律的に特権的な地位を与えられている。現実にはババ抜きゲームではあるが、逃げられる。
従業員―リアルな世界に存在する従業員の方がよほど逃げられない、人生を賭けている。

3      希少性は?:カネ余りの時代。資本のコモディティ化。資本主義の発展にとって必要なフロンティアはほぼ消滅した。私の体験的にも資金調達は容易。一方で、生産年齢人口の減少率が今後加速し、働く人がますます希少になる時代を迎えている(この2020年代後半から始まる、「超人手不足時代」については、今後noteでさらに詳しく解説したいと思います)。

「参加型資本主義」の採用と上場後の対応

・ベター・プレイスが採用するのは、ステークホルダー資本主義でも株主資本主義でもない、「参加型資本主義」である。利益の最大化から付加価値の最大化・付加価値の最適分配・従業員重視の付加価値分配へ舵を切っていく。弊社は上場準備中であり、上場後は対株式市場で以下の方針を取ることを考えている。利益最大化の発想(株主資本主義)からは、株主と従業員の分配はトレードオフ(二項対立)だが、人に投資して付加価値を中長期で最大化させる発想(参加型資本主義)からは株主と従業員の分配はトレードオン(二項合一)になる。決して株主軽視の考えではないことを強調しておきたい。むしろセームボート経営の観点から、従業員には積極的に株主になってもらい、全員経営に貢献してもらう。
 
1      三分の一主義
当期純利益の最大化を目的にしない。なぜなら、当期純利益とは株主に帰属する付加価値に過ぎず、すべての関係者に帰属する付加価値ではないから。とりわけ、企業の主権者であるところの従業員に対する付加価値分配を重視する。とはいえ、危険資本の供給先である株主に報いるために、株主資本コストを十分に超えるハードルレートを期初に設定する。十分に高いROEないしDOEを株主に会社計画としてコミットメントする(ROEで20%程度・DOEで10%程度をイメージしています。コミットメントですが、未達のこともあるでしょう。その時は以下の追加分配を当期においては諦めます)。そして、期末においてハードルレートを超えた利益は内部留保ないし成長投資・従業員/役員(人的資本経営:人材価値向上のための投資も含む)・株主に三分の一ずつ分配する。一方で、従業員には中長期的観点を重視して報いることに留意する。

2      現金での決算賞与は従業員一人当たり年間500万円以内に収める。短期・高額な分配は徒に早期退職を誘発してしまう。パーパスへの共感ではなく、短期の経済的インセンティブという邪な目的で入社する人間が増える惧れもある。

3      例えば、従業員持株会制度を利用して株式で従業員に還元する(特別奨励金スキーム:自社株を特別奨励金として持株会会員に無償で交付する)。
市場から自社株買いで自己株式を取得(株主も喜ぶ)→譲渡制限付株式(RS)として持株会口座に付与する。当社にとっては
(1)逃げない従業員の逃げない金が自己資本になる。
(2)従業員のモチベーションアップになる。オーナーとしてより一層頑張る(ベター・プレイスでは一人でも多くの社員に会社の株主・オーナーになってもらい全員経営を行うセームボート経営を志向している)。
(3)従業員によるモニタリング・ガバナンス強化、内部からの真剣度の高い経営者チェックが働くことが期待できる。

4      上場前にも税制適格ストックオプションの割当や従業員持株会への奨励金付与(拠出金の10%)も積極的に行う(それぞれ2025年に第二回割当・2024年に設立済)。従業員が株主になり会社のオーナーになるセームボート経営が、従業員全員が顧客価値創造・イノベーションを志向する全員経営に繋がると信じる。

5      参加型資本主義主義を強調しすぎるとコーポレートガバナンスが機能しなくなる惧れがある。経営者や従業員の暴走を阻止する仕組みが必要。色々なステークホルダーに配慮、従業員が全てではない。従業員の利益のみを追求されても困る。

6      取締役会は社外役員が過半数を占める構成を取り、株主軽視を防止する。株式市場の持つ効率や成長の論理は最大限活用する。株式市場を否定しているわけではない、株式市場の良いところは活用していく。

7      社外役員や上述の従業員によるモニタリングに加えて、従業員代表による取締役会参加も検討することで、経営者に対するチェック機能を確保する。360度評価結果や従業員満足度スコアを役員報酬決定に活用することで、経営者の自覚を促す。

8      環境・社会などのステークホルダーに対しては、子供の貧困問題等の当社が解決したいと考える社会課題に、できればビジネス化、ビジネスにならなくても当社らしい社会事業の分野・あり方を模索したい。従業員と株主が大切だが、社会や環境を無視していいとは一ミリも思っていない。

 
参考文献
ピーター・F・ドラッカー「現代の経営」
ピーター・F・ドラッカー「マネジメント」
原丈人「「公益」資本主義」
伊丹敬之「漂流する日本企業」
伊丹敬之「日本型コーポレートガバナンス」
徳成旨亮「CFO思考」
スズキトモ「「新しい資本主義」のアカウンティング」
平山賢一「物価変動の未来」
広野彩子「世界最高峰の経営学教室」
堀内勉「読書大全」
堀内勉「人生を変える読書」
大川内直子「アイデア資本主義」
安本隆晴「現場の会計思考」
橘木俊詔「資本主義の宿命」


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