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べてるの家のオンラインマガジン「ホップステップだうん!」 Vol.291




・ モノを大切にする研究所  江連麻紀


小学校2年生の息子は無くし物の専門家で、1年生のとき水着やタオル一式、傘4本、靴下20足くらい、えんぴつ30本くらい、靴7回、上着10回以上無くしたことがあります。無くしものは学校の忘れ物ボックスで見つかることもありますが、見つからないことも多いです。

人に借りたものを返せなかったことをきっかけに研究所を作ることにしました。息子が「モノを大切にする研究所」と名前をつけました。
所長は我が家の猫のタマが任命されて、息子は部長になりました。私や姉は研究員です。

部長の息子が学校に行ったら筆箱のえんぴつを「見る」という実験をしたところ、無くならなくなったそうです。「最後まで使えるかもしれない!」とちょっと興奮気味に教えてくれました。えんぴつを最後まで使うことが目標のようです。

部長の息子は無くしたことがたくさんあって気持ちが理解できるのか、私の忘れ物、無くしものに優しく声をかけてくれたり一緒に探してもくれます。私も研究員として一緒に研究していこうと思います。

・文/写真:江連麻紀


●新刊「弱さの情報公開」

2023年10月発売の最新書籍です。
2020年に発売しご好評をいただきました「弱さの研究」の続編。
不寛容な社会での孤立と孤独「つながり」を考える。

一部では、カーリング日本代表の吉田知那美選手とべてるの家の人や
向谷地生良氏との「強さと弱さ」についての対談。

二部では人と人の「つながり」を各章で考察、依存症、認知症の孤独について、本当の「つながる」ことの意味を考える。

<目次>
まえがき―「弱さの情報公開」の源流 
一部 弱さの情報公開
一章 弱さの情報公開 
二章 弱さを認める 
三章 行き当たりバッチリ 
二部 つながる
四章 わたしが「ダメ。ゼッタイ。」ではダメだと思う理由 
質疑応答 
五章 「認知症と繋がる」ということ 
六章 あいだは「愛だ」 
七章 地域と人と苦労で繋がって(向谷地生良氏最終講義) 

●大反響増刷中!
『子ども当事者研究 わたしの心の街にはおこるちゃんがいる』

本体価格:990円+税、出版社:コトノネ生活



・「北のバラバラな日々」 (44) 笹渕乃梨

風の強い日が続いている札幌です。わたしはなぜか強風に弱いです。

外で風にあたらなくても、すきま風がピュー!と音を立てなくても、重力に抗えず体を起こしているのがしんどいとき、窓の外に目をやるとたいてい強い風が吹いています。

あまりに身体がしんどくて自然と思考もネガティブに傾き、自傷したい気持ちも湧いてきたので、時々お世話になっているボディトーク(アメリカ発祥の自然治癒力に由来した療法)の助けを借りることにしました。

いまわたしに起こっているいくつかの困難なことを紐解いていくと、強風への恐怖はかつての結婚生活の恐怖に紐づいているらしいことがわかりました。その日できるすべてのセッションが終わったころには「風が吹いてももう大丈夫かも」と思えるようになっていました。(強風と恐怖がどのように結びついているのかについては割愛しますが)幸いなことに10日間ほど続いたわたしの混乱は落ち着きを取り戻すことができたのでした。よかった。

近年のわたしのメンタルの浮き沈みのメカニズムを振り返ると、かつての結婚生活を思い出させるできごとや元夫に関する情報に接したときに、決まって体が動かないようなダルさに襲われ、体調のしんどさに引っ張られてか精神的に不安定になるというのを繰り返していることがわかりました。

そういえば10日前にかつての結婚生活を思い出させる出来事に触れたのでした。

身体は感情を記憶しているのですね。えらいね、身体って。

以前にくらべればずいぶん落ち着いた気持ちで暮らせるようになったし、「今が人生でいちばん凪いでいるワ!」と思える日は更新を続けているけれど、生活の中には過去の苦しい記憶に結びつくことがらに枚挙にいとまがないのです。

わたしはこれを『その後の不自由状態』『その後の不自由現象』と勝手に名づけて呼んでいます。上岡陽江さんと大嶋栄子さんの著書『その後の不自由ー「嵐」のあとを生きるひとたち』(医学書院)に由来します。

その後の不自由現象がわたしを包み込んでしまう頻度は年々少なくなっているし、威力も小さくなっています。近づいてきたときのいなし方や対処もどんどん上手になってきてるようにも感じています。それでもやっぱり時々飲み込まれてしまうのは、「このことをうまく活かして暮らしなさいよ」というメッセージなのかもね、と思うようになりました。

この苦労を神さまかお日さまか誰かからのギフトとして心から受け取れたとき、その後の不自由現象はわたしから去っていくのかもしれません。

(まだ先の話になりそうですが。とほほ)


笹渕乃梨(ささき・のり) 自己病名は『境界線ぐちゃぐちゃ症候群サトラレ型変化球言葉タイプ(現在は枯れている)』
北海道で小学生の娘と二人暮らしをしている。趣味はゆるめの野遊び、スキー、工作、手芸など。精神科のお医者につけてもらった病名はうつ病とADHD。現在は無脳薬で約3年。
「子ども当事者研究」、「子育て当事者研究」、「なさ親」などで活動中。22年4月より「nasaLAB(なさラボ)」のWebラジオ「つまり、きりがないラジオ」パーソナリティ。

「nasaLAB(なさラボ)」の登録はこちら↓



・続「技法以前」 231 「対話のモデル」 向谷地生良

べてるを訪れたこともある哲学者の鷲田清一氏の言葉に「わたしをほどいてくれるその声は、けっして「強い」場所から発せられるものではなかった。傷を負って挫けているような、そんな「弱い」場所から届くひりひりした言葉が、なぜかわたしをぎりぎりのところで支えてくれたのだった」がある。(鷲田清一. 〈弱さ〉のちから-ホスピタブルな光景 (講談社学術文庫p3)

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