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野村克也「オレとO・N」を読んだ。

さいきん、「野球本」が面白い。


最近、「野球本」をわりと立て続けに読んでいる。

もともとのきっかけは何だったのか考えてみたら、昨年の日本シリーズを見て、久々に「野球って面白いな。」と思ったことだった。

その時の記事がこちら。久しぶりにしっかりプロ野球を見た、そういえば、野球ファンだったよな、自分。という内容。


野球ファンだった(そして、巨人ファンだった)、ということを思い出し、”そういえば、松井ってなんで巨人の監督やらないんだろう?”という疑問が湧き、松井関連本を何冊か読み、そのあと松井の師である長嶋茂雄本を読み、そして今回、野村克也本にたどり着いた。。

思えば、昨年の日本シリーズを制したヤクルトの高津監督も、野村克也の愛弟子。昨年の日本シリーズをきっかけにプロ野球への関心がよみがえり、この本に辿りついたのも、考えたら不思議なことかもしれない。


「オレとO・N」


今回紹介したいのは、こちらの本。

野村克也著「オレとO・N」

2012年発行。

野村克也氏が、選手時代、監督時代を通じ、生涯のライバルとなったO・王貞治、そしてN・長嶋茂雄について、さまざまなエピソードを通じて自分の思いを書き記した本。


読書感想として一言で言うと、「抜群に面白かった。」


さすが野村さん、「野球本」の中でも群を抜いて著書が多いだけのことはある。
少し前に読んだ長嶋さんの自伝本も面白く読んだが、長嶋さん(そして王さん)が歩んだプロ野球の「光」・「中心」の部分を、野村さんがどのように見つめていたのかが、多様なエピソードをまじえて書かれており、プロ野球の歴史について理解が深まった。

野村さんの選手時代は、1954年(昭和29年)に始まっており、その後解説者時代を含むが、2009年(平成21年)に楽天の監督を退任するまで、実に55年間。

野村さんの野球人生は、ほぼ、日本プロ野球の歴史と共にある歩みであり、選手時代・監督時代とあらゆる名声を得た大スター・名監督でありながら、プロ野球の中心には常に「O・N」がいて、自身は準主役のような立ち位置。

ご本人はそのことを本書の中でもぼやきながら、その立ち位置にあったからこそ、見えたこと、考えてきたことは、非常に貴重なもの。

その貴重な財産に触れることのできる、抜群に面白い本だった。

興味深かったエピソード


野村さんが所属していたのはパリーグの強豪、南海ホークス。

つまり、ONの巨人とはペナントレースでは対戦がなく、対戦があるのは、オープン戦やオールスター、真剣勝負の場というと、日本シリーズとなる。

選手時代の話で興味深かったのは、1959年(昭和34年)から1966年(昭和41年)ぐらいまでの、巨人が球界の絶対的な盟主になるべく変化を遂げていく過程が、野村さんの目から鋭く分析されている部分。

本の中では様々なエピソードによって描かれていくが、印象的だったのは、1959年に南海が日本シリーズで巨人を4タテで圧倒した際に、野村さんは特別な感慨はなく、4タテの立役者の杉浦投手は、銀座で飲みながら、「そんなにうれしいかなあ?」とつぶやいたという話。

当時、南海のベテラン選手は過去に巨人に何度も苦杯をなめさせられたことから、日本一を決めたあとはみんな嬉し泣きしたというが、若手だった野村さんと杉浦投手は、「この先、何度も巨人に勝てる。」と思っていたのだという。

しかし、そうはならなかった。
1961年に巨人には川上監督が就任し、メジャーのドジャースに倣い、野球の近代化を進めていった。(一方で、南海は鶴岡一人監督のもと、旧態依然な個人技頼りの根性野球に留まったという。)

野村さんの分析によると、ONがチームの中心にいたのはたしかに奇跡的なことで、1965年からの9連覇の大きな要因ではあるが、それと同じぐらい重要だったのが、川上監督によるチーム改革であり、ONを中心としつつも、ON以外の役割に適合する選手を集め、育成する組織的なチーム作りだったという。

少し引用すると、

九つの役割にそれぞれ適合する選手を集め、育成することが非常に大事なのだが、V9巨人はこの意味でも先駆者だった。各ポジション、各打順にピタリとマッチした選手を配し、それぞれの選手もまた、おのれの役割と責任をしっかりと認識し、まっとうした。

101pより引用

これにつづき、

1番・柴田(出塁率が高く、俊足のセンター)
2番・土井(小技に優れ、追い込まれても進塁打を打てる)
3番・王
4番・長嶋(3,4番で着実に得点に結びつける)
5番・高倉や末次(強打で後押し)
さらに、高田繁や黒江ら、俊足で器用な選手が再びチャンスをつくったり、広げたりして、トップの柴田に返す・・。

と、当時のオーダーを例に書いている。


このように、この本は、タイトルこそ「オレとO・N」であるが、その内容は、ONを中心とした巨人とはどういうチームだったか、どのようにプロ野球の絶対的な中心となっていったのか、そこで川上監督が果たした役割は何だったのか、また逆に、南海はなぜ巨人のようになれなかったのか、というプロ野球論でもある。

また、後半では、なぜ巨人が絶対王者の座を守ることができなかったのか、というテーマに触れ、その要因として、ONのような中心的人材の育成を怠った、と語っている。

財を遺すは下、仕事を遺すは中、人を遺すを上とする


野村さんはこの格言を講演などで好んで引用するそうだが、本書でもこの格言を引き、巨人が球界の盟主から陥落した大きな要因はまさにこの点にあり、この点では、自分は優秀な指導者を多く育てた点で、「トータルではONといい勝負ができたのかな」と語っている。


この本、野球ファンにも、”野球ファンだった”方にも、オススメです。



(おまけ)

この本を読んで、youtubeで野村さんのホームラン場面を見ました。
ホームランボールが打ち込まれる外野スタンド、寂しい・・。



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