見出し画像

新しい小説を書こうと思う男

小説を再び書き始めようと机の前に座った。

手が動かない。

書いてみようかなと何となく思っていることはあるけども、書く価値があるのかイマイチなんともこう。

頭では理解してる。

書く価値なんてはなからどこにもないということ。

書きゃいい。

書いたって誰にも迷惑は掛からない。

まずは書いてから。

それは分かってる。

でもいまひとつなんだかこう。


書くモードが途切れないようにしないといけない。

前回賞に投稿した作品の続編を書いてみる。

短編にしてみた。

思うがままに進める。

主人公も作品世界も一度出来上がったものだからそれほど苦労せず書ける。

あくまでもウォーミングアップみたいなものだ。


長い物を書くならば、モードが必要だと思っている。

プロがどう考えているかなんて知らない。

僕はアマチュアだから。

普段仕事をして、人と喋って、家に帰って、そのままの自分で長い物を書くのは難しい。

長い小説の世界は、この現実と世界が違うからだ。

リアリズム小説だとしてもだ。

気構えみたいなものが必要だ。

ハッ!と息を吐いてスイッチを入れる感じが僕には向いている。

簡単なことに見えて、事実はそうでもない。

ハッ!と息を吐くことにもモードが必要なのだ。


つまるところ、執筆世界に入る覚悟が決まらないということでしょう。

そのような声が自分の内部から聞こえてくるようで居心地悪い。

覚悟と書くとなんだかキザったい。


白紙を前に座ってほしい。

これからここに文章を書きなさい。

テーマは『善意』

こんなふうに課せられたと想像してみよう。

一文字目と二文字目はほぼ同時に生まれるだろう。

でもそれを書き始めることには勇気が要ると感じるはずだ。

スイッチとはそういうものだ。

コツがある。

クオリティなんかどうでもいいから、とりあえず記してみることだ。

そうすると五行ぐらいは勝手に書き進められる。

あれ?「スイッチを入れる」のとはまるで正反対なことを言ってしまった気がする。


まぁいいか。

話を進めるとしよう。

次に書く物のタイトルは決まっている。

これは僕には珍しいパターンだ。

毎回僕は書き終わってからタイトルを考える。

無理やりこねくり回すように考える。

だからどれもろくでもないタイトルになる。

今回は違う。

タイトルから最初考えた。

中身が始まらない。

さて困った。


日にちだけが過ぎていく。

書こうとしている作品は賞に出す為のものだ。

繋ぎで書いている短編の方はそうではなく、ただ書いているだけだ。

ピッチャーが肩を冷やさないようにタオルを掛けているようなものだ。

ひとつ短編が書き上がったから、とある投稿サイトに載せた。

誰にも読まれることはないだろう。

そう思っていたら一件だけコメントが付いた。

他者の反応が届いてくる。

案外、嬉しい。


油断すると日々だけが過ぎる。

スイッチを探さなければならない。

そもそもどんな話にするかすら決めていない。

そこから考えるか。

プロットを作るのは嫌いだ。

そして苦手だ。

でもある程度のプロットらしきもの、

それは作っておくべきだと経験上学んだ。

あくまで僕の場合は、だ。

主人公の名前や経歴を考える。

おそろしくめんどくさい。

でもちょっとは楽しい。

他のキャラクターも考え始める。

気付くと楽しくなっている。


新人賞というものは年がら年中やっているわけではない。

大きい賞は春と秋に締め切りが寄っていたりする。

いいかげん取り掛からないと間に合わなくなる。

なにせもう盛夏。


プロットに再度取り組む。

近頃感じてる人生や生活に対しての想い。考え。感覚。

そんなものを落とし込む。

気付くと何の特徴もない代物が目の前に鎮座している。

何も特別な出来事のない生活をしている自分が作ったものなのだから当たり前だった。

特別な感性もない。

何か一捻りした方が良さそうか。

指がキーボードを打っていく。

何故なのか近未来の世界が舞台となり始める。

数年先の日本。

こんなの書けるのだろうか。

腕を組み、悩む。


センスも才能もない男。

それが僕である。

近未来の話なんて書けるとは思えない。

ましてや教養も知識もない。

頭が悪い。

馬鹿である。

面白さのない、真面目馬鹿だ。

書けなさそう。

自信が出ない。

書く覚悟。

それが必要そうだ。

スイッチ。

オンにする必要がある。

ハッ!と息を吐く行為。

そろそろしようと思う。

その先からは楽な作業じゃない。

代わりにまずは、

ハァー、と溜息が出る。


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?