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先ちゃんとユキちゃん④~追い込まれ気味の独身時代


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━━━別府湯けむり道場ができる、何年か前の話━━━

「先ちゃん、メリクリやで~! 今日は本当にいい天気でよかったなあえ」

「!! そうか、今日はクリスマスだったか......くっ」

「? 何か不都合でも? あ、一緒に過ごす人がいなくて寂しんやろ~!」

「アナタと一緒にするな。今日が本当にクリスマスというなら、たしかに外は天気がいい。きっと夜も街中はキラキラした素敵なイルミネーションであふれ、そこら中に流れるキヨシ・ヤマシタとかワムといったクリスマスソングがいかにも心地よく耳に入り、そして幸せそうな市民達がウキウキと闊歩している......そういう光景を見れば、相手などいないわたしといえども、心から湧き上がる楽しさや嬉しさを抑えることは不可能なのだよ」

「(やっぱ、おらんのや)よ、よな~! クリスマス、楽しいよな! それとキヨシやねえけん、タツローやけん」

「だがな......こんないい日にはな......出るんだよ......」

「何が?」

「三太が......いかん、震えがとまらん」

「......サンタさんを化け物みたいに言うのやめんかえ」

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「違う!! サンタじゃない、三田だよ!! 毎年12月24,25両日に出てくるあの三太を、貴様は本当に知らんのか......遅れとるのう」

「(貴様呼ばわり......)流行の問題なん?」

「とにかく三田九郎、アイツに遭遇したら真っ先に逃げるんだ、いいな」

「はあ......(また訳ん分からんこと、ほざきよるわ)」

「ちなみに目撃者によると、こんな人相をしているらしい」

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「うっわ~これキッツイわ~、クリぼっちっちゅーんかな? それを徹底的にこじらせた末路やわあ……」

「その点は誰からも言われてると思うがな……というかユキちゃん、キミ、少し言い過ぎではないかね」

「いやだってコレは三太さんで、先ちゃんじゃないんやろ? やったらいいやん?」

「ま、まあそうだな……それから好物はトナカイ。決め台詞は『メリー南無阿弥陀仏』だ」

「やりたい放題、言いたい放題やな」

「なお、最近はさらに調子に乗ってクリスマスソングを作り、CDまで出したそうだ」

「ネット配信主流の時代にCD......調子に乗っちょるようで一世代の古さを感じる空回りっぷり。さすが三太さんやわ」

「少し聴いてみるか」

「何で持っちょんの?」

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<みんなで歌おう! 『三田おとこ節』>
ハー ヤットコドッコイドッコイショー(聖夜!)
時は師走の二十四、五(聖夜!)
待ちに待ったぜ クリスマス(聖夜!)
腰にナマクラぶら下げて(聖夜!)
捕ったトナカイ大物だ(聖夜!)
今宵はごちそう嬉しいな(聖夜!)
そこの赤服着た爺さん(聖夜!)
「よければアンタも一杯どうだい?」
「それよりワシのトナカイ返せよ」
ハー ヤットコドッコイドッコイショー(聖夜!)
男 男 男一匹 三田九郎~(「聖夜!」× 気が済むまで連呼)

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「本人の楽曲解説には、『男、いや、漢らしい掛け声であるセイヤッ!! とクリスマスの聖夜をかけて、この日独特の神聖かつ荘厳な雰囲気を醸し出してみました。一曲入魂の超力作、是非お楽しみください』と書いてある」

「......先生、あんな?」

「何だ?」

「人生という時間は有限なんだということ、この三太さんとやらはそろそろ自覚した方がいいんやねえかなあっち思うんやわ、ワタシ」

「そうか?」

「そうよ」

「そうか」

「うん」

「そうだよな」

「ええ」

「ごめんね」

「わかったんならいいわ……っちゅーか、早く奥さん見つけよ??」

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