恐る恐る、猫アートのフルオーダーを受けた。私が踏み出した新たな一歩。
私はネコ専門の造形作家です。手に乗るくらいの小さなレジンフィギュアを作り、ハンドメイドマーケットに出品などしています。
基本的には「作ったネコを、発表」というカタチです。しかし昨年末「こんなネコを作れないか」と急な相談が来ました。実在のネコをオーダーから作ることは初めてだったので、迷いながらも手掛けた、そのいきさつをお話しいたします。
え?ジョージア州アトランタからの相談
昨年末のある日、「あなたのネコアートは、オリジナルで作ることができるのか?」というお問い合わせをいただきました。発信元はなんとアメリカ、ジョージア州からでした。
私はEtsyというハンドメイドマーケット(国内でのCreema、minneにあたる海外版)にも出品しているので、そのEtsy経由でのお問い合わせでした。
もともとは私が完成させたネコ造形を出品するカタチなので、そのショップではオーダーは受付けていませんでした。
ただし私自身も、オーダーを受けてみようかなと考えていた時でもあり、また、オーダーを受けていない事を知った上で、それでも問い合わせてきてくれた、という事はそれはそれで大変ありがたいことだとも感じました。
ここが踏み出しどころ
そこで「早めになんらかの返信をしなければ」というプレッシャーの中、「時差を考えれば、あと半日は返信までに時間をかせげる」とも思いながら、依頼の「やりとりが大変だろうか」や「言葉の壁」など、いろいろ不安要素も考えました。
しかし短い熟慮の結果「ここが自分にとっての踏み出しどころだ」と決心して返信をしました。「もちろん受けられます。既存のボディにご希望の着彩を施すことも、またはボディ自体をはじめから作ることもできますよ」と回答しました。
もちろん私は英語などできません。グーグル翻訳とマイクロソフト翻訳を交互に使い、バックトランスレーションを繰り返して英文を作るので、けっこう手間もかかります。
しそして依頼者さんは、「数カ月前にウチの白猫ちゃんが亡くなってしまったので、その子を作ってほしい」という要望を相談されてきました。
そこで私は「なるべく多くの写真を送ってください」「どのようなポーズが希望かを教えてほしい」と返事をしました。
すると先方から「いつも前足を丸めて寝ることが多かったので、この感じで作ってほしい」といくつかの写真が送られてきました。
【写真上:送られてきた依頼者さんの写真】
慎重なやりとり
先方の要望はほぼ理解できました。しかしオーダーの受注は始めてでもあり、まして言葉や習慣の違いなどから、誤解や行き違いなどの可能性も高い案件です。私は元々、かなり慎重な性格でもあり、やりとりを続けました。
まずご希望のポーズを確認するために、手描きのラフスケッチで確認させてください。そこで合意できたら、実際に樹脂粘土で原型を7割がた作ります。その段階まではキャンセル可能です。
しかしそこから制作に進める場合は、Etsyで費用の決済をお願いします。また今回はあなたのために作りますが、その造形は、以降も私の作品として発表させてほしい。というように、後からのトラブルを避けるため、段階を示して提案しました。
この段取りをスムーズに進められれば今後のオーダー受けの感触も見えてくるとも考えていました。そして私からの説明に対し、依頼者さんは「全く問題ありません」と返事をしてくれました。返信文をグーグル翻訳で理解したのですが。
【上図:ポーズ確認のために送ったラフスケッチ】
形を言葉で表現する意思疎通の難しさ。
かくして、まずラフスケッチを送り。そこは問題なく「進めてください」との返答。次に原型の試作をつくり、動画にして送りました。
【上動画:原型確認のために送った動画】
すると、ここではさすがに、こだわりのコメントが返ってきました。その中で、私には理解の難しい部分が「thinning out the curled front arm a little on top?」。
グーグル翻訳では「カールしたフロントアームを少し上に薄くしますか?」。対象が曲げた前足なのはわかるのですが、「上に薄く?」、どうゆうことだ?
ということで、当時まだ会社に勤務していたので、同じ部署の若手で英語堪能な後輩にヘルプ依頼です。「thinning out the curled front arm a little on top?」って、どうゆう事だ?
そこで頼りの後輩さんは、おそらく「腕を上方へ引き上げる」ことと、「腕の太さ、厚みを薄くすること」の2つを言っているのではないか、と解釈してくれました。
そして私は確認のための図を作り、依頼者さんへ送付しました。ここは理解を間違えると後々「そうではなくて」と、お互いにイライラする分岐点です。
確認用のシートに対する回答は、「Yes, you are correct.」→グーグル翻訳「はい。それで合っています。」とのこと。意思疎通ができた!
そこで今度は、実際に修正した原型をビフォーアフターで送りました。
【写真上:確認用シート。曲げている前足の角度が修正ポイントです】
この確認で原型は合意に至り。ここからは実制作へ向けて、原型の仕上げ、シリコーン型、レジン注型、部分的に着彩、へと向かいます。そしてこのプロセスを経て完成に至りました。
【写真上:完成した白ねこちゃん】
依頼者さんも、大変喜んでいただき。納品完了となりました。
そして納品した約2か月後に、急に連絡があり「私のベッドサイドのテーブルにいつも置いています」と、改めて御礼の連絡があり、私も大変うれしく思いました。
毎回、意図せず新たな挑戦に
今まで私の造形は、①作ったものをハンドメイドマーケットへ出品、から始まり。②着彩ができないかと相談があり既存のボディに柄を着彩。③次は一般の柄ではなく、固有の「この猫の柄にしてほしい」と希望されて挑戦。
このように毎回、少しずつ難易度が高くなりながら進んできました。そして今回、初めて④フォルムを固有のオーダーで受ける。という「フルオーダー」の対応までたどり着きました。
結果的に私にとって、とても密度の高い挑戦となりました。当初は「自分が作りたいものを作りたい」という事に対して「人のオーダーに応える」ことが、自分のストレスになるのかもと少し恐れてもいました。
しかし実際にやってみると逆に、「自分の思うように作る」以上に「求められるものを自分の技能で具現化する」ことは、けっこう楽しいな、という印象です。今のところ。
しかしこの事の背景には、長年、広告会社でさまざまなクライアントのさまざまな依頼を、そのたびに何とかクリアしてきた経験があり。「うまく言葉で表現できない要望を汲み取り、カタチにして提示する」経験が、かなり役立っているように感じます。
今後は、「自分の思う造形」と、「ご希望されるものを自分の造形で具現化する」この2つの造形を並行して活動してみようと考えています。
あ、そしてまたもう1つ、会社勤務で培ったデザインや、クリエイティブワークの技能を役立てる、という仕事も並行しています。
今回も長めの話におつきあいいただき、まことにありがとうございます。