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細かすぎて誰も聞いてくれない。レジンフィギュアの作り方。無理やりお話しします。(1:原型篇)

レジンで作るネコフィギュアの制作プロセスをご紹介させてください。かなり細かくて、聞いてくれる人がいません。私としてはワクワクする情報満載で楽しい内容だと思っているので、このnoteに強引に書かせていただきます。


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【写真上:私のネコフィギュア作品です。】

自己紹介簡易版

まずごく簡単に自己紹介です。私はネコ専門の造形作家、工房「benieda」の木村しこう、54歳です。多摩美のグラフィックデザイン科を卒業後、広告会社でデザイナー職として30年勤務しましたが、どうしても「手でものを作りたい」という思いから早期退職し、今年2021年から造形作家として活動しています。

→早期退社して造形作家までの詳しい経緯の記事はこちら。

原型は、オーブンで固まる粘土で作ります。

いきなりで大変恐縮ですが、後が長いので始めさせてください。
原型を作る素材は現在「グレースカルピー」という樹脂粘土を使用しています。この粘土はオーブンで焼くと硬化する特性があるため、例えば石粉粘土など時間とともに乾燥してしまう粘土に比べて納得いくまで造形がしやすいです。

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【写真上:樹脂粘土、グレースカルピー】

また硬化させた後からも削ったり、盛り足しができるため、微妙な増減も可能で私の造形スタイルにとても合っています。

私の造形スタイルとは、自分のイメージどおりに納得いくまで細部をツメたい、という性分です。逆に「一回性」を重視する手法もあります。例えば水彩画や書などは、にじみなど後からは修正できないものかと思います。「彫る」彫刻も後から足すことはできないので、一回性と言えるかと思います。

この一回性に対して私は非常に憧れがあるのですが、どうしても自分で習得できず、油絵のように何度でも納得いくまでやり直しができる画材が自分には合っています。そのため「彫る」彫刻ではなく「盛る」彫刻=塑造、の手法で作っています。

彫刻の手法は大きく分けて2つ。

やや余談ですが、彫刻は大きくわけて2つ手法があります。1つはまさに彫る、ミケランジェロのような「カービング的な方法」と、もう1つは粘土の塑造で原型をつくりブロンズなどで置き換えるロダンのような「モデリング的な方法」の2つです。私の場合は後者ということです。このような手法では、グレースカルピーという樹脂粘土はとても合っています。

原型作り初期で、最大のポイントは「ボリューム感」と「大きな動き」

実際の造形では、まさに粘土遊びと同じで「手で作る」ことを中心に必要に応じて道具を使って進めます。この時、最大に重要なのは「ボリューム感」と「大きな動き」です。

ボリューム感とは、アタマと体の大きさのバランスや足の長さや、上半身と下半身の大きさのバランスなどのことです。例えば現実の猫よりもアタマが大きいボリュームなら、少しコミカルな印象になるし、逆であればクールな印象になります。

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【写真上:一番はじめの段階。まさに粘土遊びな感じ】

このボリューム感は最初に決めないと、後からの変更は非常に大変なため重要なポイントですが、案外判断の難しい事でもあり、よく家族に見せて気になる所があるかを聞いたりします。


また「大きな動き」とは、「上を見ている感じ」とか、「ふりむいて体をひねる感じ」とか、モチーフが活き活きとした動きが感じられるようなフォルムを作ることです。

このプロセスでは、そのニュアンスを表現するために、実際の動きとは違うデフォルメも加わってきます。

例えば下記写真の「ツメとぎ」の動きでは「下に引く、力が入った感じ」を出すため、意図的に現実よりも下半身のボリュームを大きくしたり、現実ではつま先立ちでツメを研ぐことが多くても、造形上は足の裏を地面に着ける体勢にしたりと、少しデフォルメをしています。

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【写真上:デフォルメのポイント説明】

この「大きな動き」も、一番初めの段階で決めていかないと、後からの変更は極めて難しいことなので最重要ポイントです。これは超絶技巧とか、精密描写など外から見てわかりやすい技術と違い、出来てしまうと意外と気づきにくい所なんですが、しかし造形上はそれ以上に重要なところです。

ここでその作品が活き活きするか、無機的な印象になるかが決まってしまうのでとても大切なところです。

オーブンで焼いて一度硬化させます。

大きな動きとだいたいのフォルムが決まったら、一度オーブンで焼いて(焼成して)硬化させます。柔らかいままだと、確定させた部分につい触ってしまって変形させたり、自分のツメで傷をつけてしまったりとてもデリケートです。そこで一度硬化させて大きな動きを固定してから、より細部の造形に移ります。

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【写真上:焼成するオーブン。食品用とは分けて粘土専用です】

焼成については簡単な説明にしますが、私は130度で15分の焼きにしています。また粘土をむき出しで焼くと焦げることがあるのでアルミホイルでカバーをしています。

なおオーブンで焼成する前は、自分のツメで不用意に粘土に触れてしまった時にも極力キズが付く被害が少ないように、いつも自分のツメはギリギリまで切って作業します。一度硬化させてしまえば大丈夫です。

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【写真上:粘土を傷つけないようにツメを極力短く】

硬化後さらに細部をツメます。

細部の造形で代表的なところは、ネコの足の裏、いわゆる肉球と言われる部分です。この足の裏は、硬化した粘土にニードルで溝を掘っていき、だんだん深くして指のフォルムを作り、その後、指部分とそれ以外の高さに少し差ができるように、幅1mmの彫刻刀で指の間を彫っていきます。

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【写真上:足の裏を1mmの平刀で彫る】

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【写真上:指の周囲を彫り下げた状態】

アセトンで表面を少しだけ均します。

足の裏のフォルムができたら、細かい傷やケバ立ちを滑らかにするために少しだけアセトンを塗ります。アセトンでスカルピーを少しだけ溶かすことができるので、その作用で滑らかにします。

しかしアセトンに頼るとフォルム自体が甘い形状になってしまうので要注意です。ホントに表面を少し整えるくらいの役です。なおアセトンはネイルのリムーバーと同じなので、ネイル屋さんなどでも純度100%のアセトンは購入できます。

フォルムとしての原型ができたら表面全体をサンドペーパーで研削して大小のキズをなくし滑らかな曲面にします。次の段階ではシリコーンで型を作るのですが、シリコーンは本当に微細な表面の状態もフォルムとして拾ってしまうため、この原型の段階で最大限、表面をきれいにする必要があります。

原型の仕上げ。サーフェイサー塗装

さらに表面の最終仕上げとしてサーフェイサー塗装をします。サーフェイサーは少し厚手の塗膜で全体の表面質感を均一にすることと微細なキズなどを埋めるなどの表面処理です。これもシリコーンの描写力に対応するためです。

「ヒゲ彫り」はシャープにするため最後の最後。

そして最後の最後に「ヒゲ彫り」をします。ヒゲはなるべくシャープに感じられるようにするため、サーフェイサー塗装をした後に、直接彫りこみます。現在は幅1mmの三角刀で彫っています。ここは失敗できない一発勝負なところなので、けっこう緊張します。

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【写真上:ヒゲを彫る1mmの三角刀】

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【写真上:ヒゲを彫る】

原型の完成。

原型の完成です。原型で使うこの樹脂粘土は、形や表面状態が見やすいようにグレーの色ですが、最終的なレジンはきれいな白色になります。そのレジン(私の場合ポリウレタン樹脂を使用します)は非常に硬い材質です。そのため後から削ることはかなり難しいため、可能な限り原型の段階で表面仕上げも含めて精度の良い状態にする必要があります。

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【写真上:完成した原型。目のステンレス球は仮にはめてみました】

続きます。今、書いているところです。

話が長くなりすぎるため一度ここで区切らせていただき、次は「シリコーン型篇」へ続きます。シリコーン型制作では画期的な手法で型作りをしますので、投稿できたらぜひご覧ください。

●下記URLは私の作品工房「benieda」のギャラリーサイトです。
https://benieda.com/
●日常的な制作のようすは下記 instagramで共有しています。
https://www.instagram.com/benieda/?hl=ja





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