見出し画像

Anthony Faber氏の2023年のベストボードゲーム(My top ten games of 2023)

本記事は、Anthony Faber氏が2024年2月19日に投稿した「My top ten games of 2023」の翻訳である。

こういった形式の記事を翻訳するのは一過性感があるものの、Anthony氏のブログが再開されてきたことや、意外と日本語版のアナウンスがないものが散見されたことから、翻訳する意義があるように思われた。

注目すべきは6位と2位に掲載されている作品であろう。どうやら海外ではかなり意見が分かれたゲームのようだ。本記事はそのゲームを擁護する内容となっている。

それと同時にAnthony氏の方向性がややシフトしてきたと感じられる。メカニズム的なものというよりも、プロダクト的(ゲーム全体的)な質を重視するようになっている。

元記事は以下のリンク先を参照されたい。ヘッダー画像はみんなのフォトギャラリー機能を利用させていただいた。

かなり遅い時期にこんなようなリストを作成するのには利点がある。見逃したゲームを多くプレイできるし、どのゲームが忘れ去られずに残っているか(staying power)を真剣に考えることができる。少なくとも、それが私にあった怠惰の言い訳となる。注記:私のリストには再販やリメイクは一切載せてないので、ここではみんなは新しい作品を眺めることとなる。そうでなければ、「テラミスティカ:革新の時代」や「Freelancers: A Crossroads Game」がこのリストに入っていただろうさ。

10位:「ファラウェイ

クレジット: Matthieu Bonin

このリストの中で私が完全にBoard Game Arena(※以下「BGA」という。)上でプレイしたゲームはこの作品だけだ。最終得点計算を取り扱うのがコンピュータであることを除けば、このゲームは、実物でプレイした場合と何も変わるところがないけれどもね。この小箱のタブロービルドゲームにおいて、プレイヤーは、1ラウンドに1枚、計8枚のカードをプレイして、得点を計算することとなる。各カードには、どのリソースがもたらされるか、何から得点できるか、得点するために満たさなければならない前提条件が何かを示すシンボルがある。得点が高いものであるほど、その要求は厳しいものとなっている。

2つの工夫があるんだ。1つ目は、カードが前提条件を満たすには、8枚の連続したカードのうち以前にプレイされた他のカードからでなければならない。つまり、プレイするカードが後になればなるほど、そのカードから得点を獲得するのが厳しくなるということだ。2つ目の工夫は、プレイするカード全てに2つの効果がある番号が付されているところだ。数字が小さければ、後に使う新しいカードを最初に選ぶという効果と、プレイヤーがプレイした数字が前にプレイしたカードより大きければ、ボーナスのミニカードが与えられるという効果がある。

カードを順番にプレイし続けて前にプレイしたカードから得点を得たり、得点を獲得するために新しいカードを探し出したりすることが結合して面白いちょっとしたパズルを形成している。そして、このゲームは、2023年で、私の時間を浪費したBGAのフィラーゲーム(※空き時間を埋める(fill)ぐらいの極めて短時間で遊べるゲーム、参照)である。あんまり褒めてない(faint praise)ように聞こえるかもしれないが、私の266回のプレイ記録はそうでないことを示している。このパズルは非常に中毒性がある。ただ、実際の多くのゲームではカードの引き運によって(※勝敗が)決まってしまうことは理解しなければならない。ランダム性につきもののイライラによって、この10分間のゲームをもう一度、そして何度も繰り返してプレイしてしまうだけだ。このゲームのおバカな感じだが異国情緒のあるアートが見ていて心地よいということは困ったことにはならない。楽しい小箱のゲームだが、ほぼ完全にやろうとしていたことをやり遂げている。

9位:「ニュークレウム

クレジット: Kacper Frydrykiewicz

「ニュークレウム」は、2023年のトラヴェリング・ウィルベリーズ(※夢のタッグであることの喩えとして用いている。)であり、Simone LucianiDávid Turcziというスーパースターのタッグによる作品である。私はこのゲームを1回しかプレイしたことがないので、私の意見は容易に変更され得るが、私の最初の印象は、Lucianiがデザインした大部分のゲームよりも好みではないものの、Turcziが手がけた作品よりかは遥かに出来がいいというものだった。このゲームの中心となっているとっぴなアイディア、すなわち、プレイヤーが線路を介して建物を起動させるのに必要な動力源に、建物を接続していくというアイディアは素晴らしい。これにより、ゲームが開始した瞬間から緊張感が引き起こされる。プレイヤーは、そうした建物を得るために線路を敷設する必要があるが、自分のアクションタイルは貴重で限られている。このゲームは複雑なユーロゲームであるため、プレイヤーは、敷設した線路の色と既にボード上にある線路の色とが一致することでボーナスアクションも得ることができる。これにより、先ほどの中核となる意思決定にもう1つのレイヤーを加えている。

その上にあるレイヤーでは、既定のラウンドにおいてプレイヤーが達成できることを含めたこのゲームの得点システムの大部分が占められている。多くの場合には、自身の建物がどれだけ多くのものを生産するかという観点からである。プレイヤーは、ラウンドにおいてアクションが尽きるまではアクションをし続けることができる。それにより、またしても何枚のアクションタイルを保有しているか、どのくらい多くの線路を敷設する必要があるかという話に戻ってくることになる。プレイヤー固有能力、ゲーム終了時の得点タイル、それにコストを支払って他のプレイヤーの線路を使用することといったユーロゲーム的なことがかなり多く起こっている。このゲームは、インタラクション性があると同時に、黙々と集中して取り組んで頭を悩ます(a heads down brain burner)、奇妙な感じのユーロゲームである。私は楽しめたけど、複雑なレイヤーを伴うので、私の好きなユーロゲームよりも少し不透明に感じる。それに、プレイするたびにルールブックを読み直したりルール説明動画を見直したりする必要がありそうだ。最高にカツカツなゲームを探している人であれば、このゲームをプレイするのは天国にいるようなものだ。個人的な感想は、初回プレイでは、片足を天国につっこんでいて、もう片足は煉獄(purgatory)つっこんでるようだった。

8位:「アリスガーデン

クレジット: Lifestyle Boardgames

実際に発売されたのが2020年ということもあって、今年全く話に上がらなかったゲームの登場だ。じゃあ、どうしてこのゲームがリストにあるのか? 私の2023年ゲームの基準というのは、私が2023年に初プレイしたか、あるいは2023年にアメリカで発売されたかのどちらかとなっている。それに、3年前に、Zee GarciaRahdoがこのゲームに高評価を与えていたけれど、最近までは、東ヨーロッパの外では、このゲームよりもユニコーンを見つける方が簡単だったんだ。昨年末に、このゲームがTargetの棚に置かれているのを見た時の私の驚きを想像してほしい。すぐに購入してプレイしたさ。そして、すぐにRichard(※Rahdoのこと)とZee が正しいと認めざるを得なかった。

これは、飽和したテーマにもかかわらず、楽しむことができる「不思議の国のアリス」を舞台にした地味で小さなポリオミノパズルゲーム(私のお気に入りのジャンルの1つ)である。正直に話すと、このゲームにはテーマというのが全くなくて、バラ、チェスの駒、マッシュルーム、歩くトランプ兵等が描かれたかわいらしいアートのある必要最低限のパズルなだけだ。

クレジット: Àlex

だが、このゲームのパズルは強力である。タイルはオープンドラフトで配られて、個人のプレイヤーボードにプレイされる。タイル上の各地形の種類(そして、全てのタイルには地形の種類が混ざり合っている)によって全く異なる方法で得点となる。つまり、バラは大きなグループとなりたいし、チェスの駒はボードの中央に配置したい、マッシュルームは同じ縦列に配置したいし、木は横列の一番下に配置したいなどである。つまり、全ての(※タイルの)配置は、(※達成することが)困難な一連の結合した意思決定となっている。必要とされている妥協とトレードオフは、こんな単純なゲームにうってつけである。もう1つのトレードオフは自分のボードをどのように埋めるかにある。自分のボードをきちんと埋めるのを気にかけないのであれば、もっと得点を得ることができる。しかし、ゲーム終了時にある空白スペースのグループにつきマイナス点となる。得点モードが1つしかないことで、このゲームの終わり(※legs)は少し制限されているが、そのモードは完全にバランス調整されているように感じられる。単純で小さなゲームであり2023年の最高のゲームとはならないけれども、目指したことをしているという観点からは、その年の最も完璧なゲームとして「ファラウェイ」と張り合うゲームだ。

7位:「Junk Drawer

クレジット: Winsmith Games LLC

そんで、1回しかプレイしたことがないけれども、私がより高評価を付けた更なる別の軽いポリオミノパズルゲームだ。けれども、「ニュークレウム」のような不透明なゲームとは異なり、このゲームは、即座にどのくらい面白いかがわかるほど直感的に理解できるものだ。そして、なぜ他のポリオミノパズルゲームが似たようなことをしてこなかったかが不思議に思えた。

このゲームのテーマとアートは、非常に熱心にボードを見つめることとなる空間パズルには必須の要素であり、完全にうまく機能している。全てのパズルが、色あせたり場違いだったり感じることが一切なく完璧に現れる。プレイヤーは家庭にある物をランダムに取って、自分のガラクタをいれる引き出しに配置する。いや、プレイヤーは、実際には、一度に4つのパズルに取り組んでるので、正確には複数のガラクタを入れる引き出しに配置する。各パズルの得点は、各ゲームの初めにランダムに引かれる様々な得点カードに基づいている。各ラウンドにおいて、「ビンゴ」形式で様々なタイルが引かれる。すなわち、各人はそのタイルのコピーを配置しなければならないが、4つの引き出しのどこにでも置くことができる。誰かが配置することができなくなるまで、これを続けることとなる。

6位:「フォレストシャッフル

クレジット: W. Eric Martin

このゲームと次のゲームは変な意味で悪いところがある(in a weird spot)。中核となるゲームプレイは、このリストの全作品に劣らないくらい強力であるが、それぞれの作品には、それを割り引く強力な欠点がある。この作品については長い間考えあぐねていた(went back and forth)。ある時点では、この作品は2023年の最高のゲームになるかもしれなかったし、別の時点では、私のリストに入らないかもしれなかった。簡潔に理由を説明しよう。

このゲームは率直な軽量級/中量級のタブロービルドゲームで、各手番では2枚カードを引くか、1枚カードをプレイする。森林テーマは、全てのカードが木、植物、動物であることを意味しており、木を除いた全てのカードは木の四辺の1つにプレイされなければならない。これはこのゲームの最初の新しい工夫である。つまり、木でないカードは、上か下又は右が左に分割されてその必要となる場所を示している。カードは他のカードによって支払われるが、同種のほとんどのゲームとは異なり、捨て札は個人の山札ではなく、他のプレイヤーが自分の手番でドラフトすることができる共通の空間(clearing)に置かれる。10枚以上のカードがその空間に置かれたら、全カードが破棄される。

カードはセットコレクション形式で得点となるが、この重さのゲームの大部分よりも多様性と複雑さを備えており、満足のいくコンボも多く含まれている。プレイヤーは対戦相手が必要とするものを渡したくないが、自分の手札を詰まらせたくはないとも考えるため、捨て札を置く空間はほとんどのタブロービルドゲームよりも多くの興味深いインタラクションを付け加えている。時には、プレイヤーは自分の戦略を明かしたくないと思ってカードをプレイするのを遅らせることもあるだろう。こうすると、捨て札を置く空間からヘイトドラフトを促すことになるかもしれない。全てが楽しく機能していて、しばらくの間は、この作品こそが「レース・フォー・ザ・ギャラクシー」になってほしかったゲームだと思っていた。

クレジット: Ilya Ushakov

そして、その後にバランスの問題が見えてくるようになった。多くの場所で熱い議論が交わされてるのは、カードバランスがさして重要な問題ではないか、完膚なきまでゲームを破壊するかということであり、それはみんなが話を聞く人たちによって異なっている。私的にはその中間のどこかとなる。まさしく、カードはあまりバランスが取れているものではない。もし、あるプレイヤーが別のプレイヤーよりもはるかに多くの鹿を引いたのであれば、そのプレイヤーは全く上手くプレイしなくても勝利するかもしれない。けれども、パワーカードが比較的公平に出現するプレイでは、このゲームは卓越したものとなる。それに、多少のバランスの悪さによって、このゲームに繊細な戦略があるという事実が否定されるものでもない。前述のタイミングの問題と手札管理パズルは習得する価値がある。プレイヤーは、どんなカードが引かれても対応できるように手札を多様なままにしておきたいが、特定の戦略を際立たせるために特化させたいと考える。

その上、私はこのゲームの終了について複雑な感情を抱いている。このゲームの3分の1になると冬カードがいつでも訪れる可能性があり、3つの冬カードが全てデックの一番上に現れるとゲーム終了となる。こうすることで緊張感が高まり、テーマ的に上手く機能し、楽しいプッシュ・ユア・ラック要素が付け加わる。けれども、プレイヤーがずっと首位にいて、対戦相手が1点差で追い抜くカードを構築するが、それに対応する前にゲームが終了してしまうと、しょげることとなる可能性がある。プレイヤーの走行可能な距離は異なるかもしれない。

もし、このゲームをまだプレイしたことがないのであれば、このゲームに対する意見は、軽いタブロービルドゲームが好きかどうか、多少のバランスの問題が嫌かどうかによって異なる可能性が高い。このゲームをプレイしたことがあるのであれば、このゲームに惚れ込むことになるかもしれないし、惚れ込んだのであれば、おそらくいまだに好きでいるだろうさ。個人的には、いまだにこのゲームをプレイするし、不快なプレイも我慢しているさ。だって、他のプレイは素晴らしいしね。そして、これから出るであろうこのゲームの拡張やリメイクでカードバランスが磨かれることを願っている。

5位:「ダーウィンズ・ジャーニー

クレジット: Gonzalo Aguirre Bisi

このリストにおけるSimone Lucianiの2つ目のデザインは、探検、トラックの上昇、ワーカーのアップグレード、契約、セットコレクション、ゲーム終了時の得点タイルなど、あらゆる物をごった煮にして詰め込んだ(kitchen sink)ワーカープレイスメントゲームだ。テーマ的には、プレイヤーはガラパゴス諸島を探検し、新たな生命を発見する。これは、島にたどり着くまでトラックに沿って船を動かし、その後、新しい標本を得るために分岐するトラックに探索隊を派遣し、その探索隊がお金と勝利点のためにヨーロッパに送還されることで達成していく。このリストの後のゲームとは異なり、探検は謎というよりもレースである。プレイヤーはトラック上にどんなタイルが配置されているかを確認することができ、重要なのは、貴重な標本タイルをとるために自分の対戦相手よりも早く動くこととなる。

このゲームにはうまみのある選択肢が豊富にある。特に好きなのは、アップグレードされたワーカーのみが利用可能な強力なワーカーの配置場所があるところだ。だが、プレイヤーはそうしたアップグレードをするために貴重なコインを消費する必要があるし、既にワーカーが収容されているエリアに行くためにもコインが必要となる。

このゲームの完璧さを阻害する1つの重大な不満がある。標本と倍率トラックが得点の大部分が割り当てられていて、これらを上手くプレイしないで勝利することはできない。テーマ的には筋が通っているけれども、とりわけ島トラック上で探索者が後れをとると巻き返すのが難しいため、ゲームプレイの観点からは少し残念なことである。それに、標本を送り返すことでゲーム序盤で喉から手が出るほど(desperately)必要となるお金が多くもたらされる。そうすると、この有力な戦略には不都合な点が全くないこととなる。「ダーウィンズ・ジャーニー 拡張:火の大地」では、これを修正することとなっており、一般的にこのゲームをより良くしている。けど、私は、ここでは拡張を判断するつもりはないね。

4位:「Apiary

クレジット: Emile de Maat

このリストのゲームの一部は、ゲームのタイプのおかげで上位にランクしている。この作品は、どんなゲームであるかに関係なくほぼ上位にランクしている。誤解しないでほしい。私は、(宇宙空間の高知能の蜂という)奇抜なテーマの中量級のユーロゲームが大好きだ。私が普段楽しんでるゲームと異なる点は、ゲームバランスを取るのが非常に不可能となるまで、大胆なプレイヤー固有能力とコンボがつながる(comboriffic)機会を積み重ねたということだ。たとえ、妬むしかすることができないくらい、対戦相手がばかばかしいほど強力な動きをしたとしても、なおこのゲームは魅力的で楽しい。

このゲームの特徴は、非常に楽しいエンジンビルドゲームであることだ。ワーカーを配置するボードの大方のスペースは、リセットする手番を行うたびに大量に物がもたらされる新しい個人能力や農場を与えてくれる。他のスペースはリソースや1回限りの効果をもたらしたり、個人ボードをアップグレードしたり、ゲーム終了時の得点タイルを配置したりするなどを行う。エンジンビルドは、押し出したり、押し出されたりする際にワーカーがアップグレードすることとなる、ワーカー押し出しメカニズム(worker bumping mechanism)によって強化される。ワーカーの強さが最高値になると、超強力なアクションをすることができるようになる。しかし、その後、そのワーカーは冬眠するか引退しなければならない。そうすると、小さな報酬がもたらされるが、初期のワーカーからもう一度やり直さなければならなくなる。

これは、ゲームの終了までには強大な力を持ったように感じられる楽しいサイクルだ。各ゲームでは異なる戦略が求められるほど、個人ボードに置くタイルはたくさんあり、ゲーム開始時のボードは様々あり、ゲーム開始時のプレイヤー固有能力も多種多様である。ゲーム終了時のカードでの大量の得点の獲得は、そのカードを獲得するのに困難で何段階ものプロセスを踏む必要があるので、満足感が大いにある。欠点があることで、「フォレストシャッフル」や「ダーウィンズ・ジャーニー」が最大限のポテンシャルを発揮できてないけれども、このゲームは標準以上の成功を収めている。大ざっぱで荒っぽい感じからすると、思っている以上に楽しいゲームである。

3位:「Nova Roma

クレジット: Stanislav Kordonskiy

Stan Kordonskiyは、これまで悪いゲームを作ったことがなく、この作品も例外ではない。彼のデザイナーとしての最大の強みの1つは、ゲームのポテンシャルが常に発揮されるように、絶え間なく作業をして彼のデザインを磨いて発展させるのをいとわずに行うことだ。「Nova Roma」は、約6つの個別のミニゲームを特徴としているが、そのどれもが強すぎるとか弱すぎるとかと感じるものはない。これらのミニゲームは(※戦略として)通用するものであるし、デザイン上の弱いところを見出すのではなく、プレイヤーがどう上手く動かしたかに全て行き着く。

こうしたミニゲームとローマというテーマは表面的には「トラヤヌス」ぽさがあるが、この作品にはマンカラはなく、エンジンビルド、リソースの獲得、そして最終的な得点変換という昔ながらのユーロゲームのタスクを巧みにこなしているだけだ。この作品のメカニズムは、トラックの上昇、建物の建設、カードタブローの構築等の馴染みのあるものだ。だが、どれも決まりきったものと感じられないのは、おそらくそれぞれのミニゲームが互いに関連性があるからだろう。

クレジット: Dimitri Quinti

けれども、このゲームで本当に素晴らしいところはミニゲームではなく、メインアクション選択メカニズムそのものであり、それは長い間見てきた中でワーカープレイスメントにおける最高の工夫である。プレイヤーが行うことができる全てのメインアクションはグリッドのX軸かY軸のどちらかに並んでいる。プレイヤーがグリッド上の点にワーカーを配置すると、その点と交わる両方のメインアクションを行うことができるようになる。その上、そのアクションは、同じ縦列又は横列に自分のワーカーがいると増強される。

このシステムによって、私が大好きな結合した意思決定が作り出される。使わざるを得ないもう1つのアクションは価値がないのに、本当に必要なメインアクションを行うのか。それとも、そこそこだが素晴らしいわけではない2つのアクションを行うのか。この組合せは、私が思いつくどのワーカープレイスメントゲームよりも、"お前、俺の場所を奪ったな!"という怒り(※原文はangstであるが、文脈からangerのタイポと思われる。)を多く生み出す。

このゲームに弱点があるとすれば、テーマの新鮮味がなくてみんなの目を引かない(the theme isn't exactly lighting the world on fire with its freshness)ということだ。けど、メカニズムが非常に研ぎ澄まされていて没頭できるので、テーマについてはすぐに忘れてしまったよ。このゲームはKickstarterを通じてささやかに販売されただけだが、ある時点ではもう少し広範に販売されるようになっている(Miniature MarketBoardlandiaで予約されてるのを見た。)。だから、中量級のユーロゲームが大好きであれば、目を光らせておくべきだ。

2位:「ラッツ・オブ・ウィスター

クレジット: W. Eric Martin

Simone Lucianiの2023年の作品を取り巻く話は、主に「ニュークレウム」と「ダーウィンズ・ジャーニー」が中心となっていたが、個人的には、「ラッツ・オブ・ウィスター」が最高のゲームだ。なぜ、このゲームは見逃されていて忘れ去られてすらいるのだろうか。以下のとおり、いくつか理由がある。

1) 最初の2作品は2023年に世界的に発売された。「ラッツ・オブ・ウィスター」はまだアメリカで発売されてないので、かなり少数の人しかこのゲームをプレイするに至ってない。

2) Cranio Creationsは、いつものCranio Creationsらしく、このゲームのアクションホイールを非常に醜悪なものとしてしまい、ゲームのたびに骨の折れる分解と組立てが必要となっている。製造の問題を抱えるCranio Creationsは信頼し難いよね。

3) 特定のカードを取り除くべきだ。説明し難い動きだが、LucianiとDanilo Sabiaはネガティブなカードを少しだけデック内に入れ込んでいる。そのインパクトは大きくはないし、全部シンボルが付されていて、このゲームを捨てることなく簡単に取り除けるようにしている(デックには莫大な枚数のカードがある。)。そんなカードがあると知っただけで、一部の人が興味を失うのも理解できるところだ。

クレジット: BGG Cranio

4) ランダム性。これは大きな問題だ。ユーロゲーマーは、普通ランダム性を嫌う。いや、おそらく、もっと正確に言えば、ランダム性があると認識するのを嫌うのだ。私自身、特定のゲームにおけるランダム性に不服を言うユーロゲーマーであるが、順序立てた説明がある。私は、自分の戦略に合致したカードを引く必要があるといった大型のタブロービルドゲームにおけるランダム性を楽しめない。もし、カードが引けなければ、単に運が悪かっただけだ。このようなゲーム(例えば、「テラフォーミング・マーズ」)では、引いてきたカードでどんなエンジンを構築したかをみて、誰が勝利することとなるか早い段階でわかることが多い。

「ラッツ・オブ・ウィスター」はそんなゲームではない。カードの引き運があるが、タブロービルドはゲームの一部にすぎない。このゲームにおいてみんなが最も嫌うランダム性は、このゲームが探索ゲームであることに由来する。プレイヤーの高知能のねずみがワーカーとなり、廃墟となった農場にある家屋(an abandoned farmhouse)を探索する。部屋に入るとランダムでリソースを得る。そして、家の中の問題に対処するために、猫を探すといった(テーマ性のある)クエストカードが表向きにされる。クエストは段階ごとに解決されて、その場にいる人やそこにトークンを置いていった人がいつでもそのクエストを処理することができる。普通は、クエストを発見した際に、クエストを達成するために必要なものを保有していない。しかし、クエストは構築する方向性を与えてくれる。

クレジット: Amadeusz

一部の人はゲストねずみを嫌っているように思われる。ゲストねずみは既に家に住んでいるねずみで、プレイヤーの仲間になって特殊能力をもたらす。プレイヤーは、能力を確認する前にそのねずみを獲得して巣穴に置かなければならない。特殊能力は望むものではないかもしれない。Rahdoとしても知られているRichard Hamはこのメカニズムについて大々的に不服を述べて、彼は書かれたとおりのルールで遊ぶことは二度とないと宣言したことは、このゲームを利することはなかった。

本当に嫌なのであれば、ゲストねずみを獲得する前にみんながそのねずみの能力を確認できるようにすると言うのは簡単なことだ。しかし、私がこのゲームをプレイした中では、それは全く問題とはならなかった。全ての能力は有用であるし、プレイヤーはゲーム序盤にその能力を獲得するのが通常だ。そうすると、その能力全てをうまく活用することができる。

このゲームのランダム性が嫌じゃなかった理由がもう少しある。何よりもまず、全てにテーマ性がある。このゲームは、ユーロ/探索ゲームである。プレイヤーが発見するものにランダム性がなければ、真に探検なんかできない。そして、発見するものは常にわくわくする。次に、このゲームのランダム性は対処することができるものと思っている。ネガティブなランダムイベントがあるわけではない。つまり、プレイヤーが発見するのはポジティブなことだけあり、見つけたものを最大限に活用するということである。最後に、「ラッツ・オブ・ウィスター」にはエンジンビルド要素がある。それはほとんど家の外で起こる要素だ。誰かが最初の部屋で最高の特殊能力のねずみを見つけて、そいつが勝つだろうとみんなわかってしまうというわけじゃない。

いいかな、暴言はほぼ終わりだ。あるユーロゲームに過大なランダム性があるという噂が広まるっているのは、恋人候補の人が梅毒持ちであるという噂が広まるのと同じで、多くの人たちが興味を失ってしまうというそれだけの理由で、この話に対応するために複数の段落を費やしてしまった。このゲームにおけるランダム性は大部分のユーロゲームと同等だと思う。もっとわかりやすい話なだけだ。

だが、なぜ、私は実際にこのゲームが好きなのだろうか?

クレジット: Alberto Decostanzi

テーマから始めよう。高知脳のねずみは強い「ニムの秘密」や「ピンキー&ブレイン」的な雰囲気をもたらしてくれる。それに、各部屋にあるクエストとプレイヤーが制作するデバイス(プレイヤーが手に入れるカード)はSimone Lucianiが今まで制作した全てのゲームにない斬新な感覚を与えてくれる。アートは素晴らしくて、ねずみやその苦境に生き生きとした感じを与える。メカニズムは常にテーマと関連しているように感じさせる。例えば、アクションを強化してくれるために働く追加のねずみ、ねずみの間抜けな発明品となるタブローのカード、クエストの展開という形で物語の一部と結びつく探索メカニズムがある。

ワーカープレイスメントは、いつものLucianiのゲームにあるように巧みで厳しいもので、プレイヤーのアクションの強さが、ワーカーの配置ホイールの外側を動くねずみによって定まる。それと同時に、ワーカーを置くそれぞれの場所には2つのアクションがあり、結合した意思決定をもたらしている。そして、サブアクションはラウンドごとに回転(※して変化)するので、新鮮さが失われることはない。

ゲストねずみやその特殊能力のための部屋を作るためにベッドを加えたり、自分のアクションを強化するためにもっと多くの普通のねずみを加えたりするのに、プレイヤーの巣穴を増築することができる。また、リソースは、使える1回限りの効果やカードコンボのために発明品も作成する。最後に、プレイヤーは、クエストを達成したり新しいねずみを発見することを通じて更に成長することができる。

多くのユーロゲームは勝利するために全てのことをうまくやるように求める。このゲームは、プレイヤーが気に入った部分をどこでも際立たせることができるようにしてくれて、各ゲームにおける各プレイヤーの戦略を非常に異なるものと感じさせてくれる。そして、プレイヤーがしていることは、常にやりごたえがあり、少し間抜けでもある。素晴らしい組み合わせだよね。

1位:「Life of the Amazonia

クレジット: Hani Chang

2023年の終わりに、「ラッツ・オブ・ウィスター」が年間のベストゲームだと強く確信していた。昨年のいつかに「Life of the Amazonia」について初めて聞いた時は、あまり興味を抱いてなかった。かなり新しい会社であり、レビュアーから前作が練り足りてない(underbaked)との評判だったことで、私が見逃したKickstarterキャンペーンとなる。そして、このゲームに関する全ての説明が、このゲームのアニミープル(animeeple, ※動物ミープル)がいかに美しいかに焦点が当たっていたように思われる。私は、"典型的なKickstarterか"と考えた。

その後、このゲームがバッグビルドゲームと聞いて少し興味を抱いた。そして、テーマ的にもメカニクス的にも「カスカディア」を思い起こさせるが、それより重いゲームである聞いて、更に興味を抱くようになった。さらに、一、二個の素晴らしいレビューを見て、このキャンペーンを支援しなくて少し申し訳なくなった。このゲームを支援した友人を突き止めたら、彼はこのゲームが非常に素晴らしいと言っていた。地元のコンベンションで、このゲームが新作ゲームエリアに置かれていたことを見たら、アニミープルが本当に驚くべきものだった。友人がルール説明をすると申し出てくれた。そして、ここから先はご承知のとおりとなる。このブログを書いたりポッドキャストを録音したりするのを怠っていたおかげで、数週間前に私の2023年のベストゲームについて考えを変えることができた。

クレジット: Wouter (Tabletopping)

全ての手番が満足できてやりがいのあるように感じられる。ひょっとしたら、自分のバッグを改善するかもしれない。ひょっとしたら、水トラックが森林トラックを上昇させて、自分のボードに配置するための新しい地形タイルや植物を得るかもしれない。ひょっとしたら、イカした新しい動物を自分のボード上に置くかもしれない。ひょっとしたら、ゲーム終了時の得点カードや強力な1回限りの能力を得るかもしれない。プレイヤーは常にこのうちの1つのことを行って、とりわけ、動物、植物、地形タイルという視覚的な報酬を伴って常に最高だと感じる。

また、このゲームは、驚くほどテーマ性のある形で非対称のプレイヤー固有能力を取り扱ってもいる。ゲームの最初に、プレイヤーはユニークな動物を受け取る。この動物は、プレイヤーが条件を満たしてボード上にプレイすることで初めて能力がもたらされる。このような形で、プレイヤーの固有能力はゲームボード上の固有の視覚的表現を伴っている。

クレジット: Wouter (Tabletopping)

ある意味では、これは私が「カスカディア」に求めていたゲームである。巧みな得点計算がある地形上に動物を置くゲームであるが、更に考えどころがあって、かわいくて、緻密なものだ。特定のゲーマーのためにいくつか補足説明がある。メカニズムは何一つ独自性のあるものはない。これら全て以前に見たことがあるものだ。4人プレイでは少しテンポが悪い。私がプレイしたことがあるのは4人プレイだけだけれども、それでもなおこのゲームが大好きである。最後に、他の誰かが獲得する前に各タイプが最後に利用できる動物を獲得しようと我先にと争う段階になるゲームの終盤に至るまでの間にインタラクションはあまりない。

以上のことは私は全く気にならない。「カスカディア」のように、動物の得点条件をありとあらゆる方法に変えるのも巧妙だ。このゲームは単純にかわいらしいだけではない。最後に、自分が作り上げたユニークな動物の生息地の写真を撮りたくなるかもしれない(掲載した写真を参照)。最も重要なのは、ユニークな生息地を段々と作り上げていくことにとても満足感を得られるんだ。

おわりに

エヴァキュエーション」は私のリストには入らなかった。次にプレイする際も同じような手を打つことになるだろうと感じたけれども、非常に実直なデザインである。それでも、このゲームをもう一度プレイできたら嬉しいと思うだろう。「Bonsai」は、プレイヤーが最終的に作り上げることとなる突飛で奇抜な植物のためだけだと思ったゲームだが、戦略がゲームごとに非常に似たものと感じられてしまうかどうかを確認するためにもっとプレイする必要がある。みんなから話を聞きたいね。このリストにあるゲームを楽しんだかな? それに、みんなの昨年のお気に入りのゲームは何かな? 下のコメント欄で教えてほしい。

以上

※本記事と関連する記事としては、以下のものがある。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?