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デザイナー・ダイアリー:「エスノス」から「Archeos Society」に至るまで(Designer Diary: From Ethnos to Archeos Society)

本記事は、Paolo Mori氏が2023年6月23日にBGG上に投稿した「Designer Diary: From Ethnos to Archeos Society」の翻訳である。

Paolo Mori氏はイタリア出身のゲームデザイナー。本業は別にあるようだ。代表作としては、本記事の中心でもある「エスノス」をはじめとして、「パンデミック:ローマの落日」(Matt Leacockとの共作)があり、最近では「カエサル!」や「リベルタリア:ゲイルクレストの風」がある。渋いところでは、「Dog of War」や「Vasco da Gama」が挙げられるだろうか。

本記事は、次に上げる予定の記事の前段階的なものとして翻訳しているが、この記事自体に意義があると思われる。ゲームデザインの観点から、「エスノス」からの変更経緯が述べられている。

元記事は以下のリンク先を参照されたい。ヘッダー画像はBGGから引用している(クレジット: Domitien AW)

クレジット: W. Eric Martin

おそらくゲームデザイナーに起こり得る最も嬉しいことの1つは、自分のゲームの第2版を出版しないかという申出を受けることだろう。毎年、数千もの新しいゲームが発売されて、ゲームコミュニティにおける嗜好が絶え間なく変化する業界においては、そういった申出は、いまだに自分のゲームがプレイヤーに対して何かを伝えていることを意味する。

"未発表の拡張"という私の呪縛はかなりよく知られた話だけれども、近年は、その代わりにある種の"第2版の恩恵"に心動かされているよ。例えば、「Via Magica」(「Augustus」の新版)、「リベルタリア:ゲイルクエストの風」(「Libertalia」の新版)、それに「The Unsuspectables」(「アンユージュアルサスペクツ」の新版)がある。最近、「Pocket Battles」の新版(しかも、大幅に改訂したもの)の契約を締結したし、「Dogs of War」の改訂にも着手したところだ。

「エスノス」(私の最も愛する作品だけど、このことは、他の作品たちには伝えないでほしいね)も、例外ではなかった! このゲームの売上総額とこのゲームが受けた評価に対して不満なんてもちようがないけど、このゲームにはもっともたらすものがあるって思いが常にあったことは認めなければならないね。

こうした理由で、数年間にわたり、CMONとの間で、このゲームを復活させていくつかの要素を"修正"するための新版の話をしてきた。私たちは、主にテーマについて話し合いをした。これは、このゲームにおいて、いつも最も議論の対象となり続けたものだった。ファンタジーという設定は、意図的に一般的にしており、ある種の"ご自由にテーマを追加してくれ"的なもので、私がCMONに提出した当初のプロトタイプと同じものであるものの、多くの人にとっては、"とってつけたようなもの(pasted on)"すぎるし、少なくとも創造性のないもののように思われてしまった。こういった理由もあって、長年にわたり多くのプレイヤーが、多種多様な設定を伴う「エスノス」のテーマ替えバージョンを提案してきたし、多くの場合、極めて優れていて着想を与えてくれるものとなった。

クレジット: W. Eric Martin

CMONが違った条件を考えていると伝えてきた際には、イラストレーターが既に初稿を提出していた。要は、CMONは、このゲームの第2版をSpace Cowboysにサブライセンス(※ライセンスを受けた者が、ライセンスを供与した者から付与されたライセンスを、更に第三者に対してライセンスすること。再許諾)する可能性を考えていたんだ。私は、サブライセンスがあまり好きではなかったけれども(常に、自分のゲームに対するコントロールを失っているような感じがする。)、この出来事は、間違いなく前向きなことだというのがわかった。Space Cowboysが自分たちの製品に常に注いできた編集的な配慮を知っていたことに加えて、「Libertalia」の初版のために、過去に彼らの何人かと一緒に仕事をしたことがあった(こういう名前のスタジオはまだ存在しなかったけれどね。)。それに、私にとっては、「エスノス」が"彼らの流儀に則った(in their veins)"ゲームに本当になり得るように思えた。そういうことで、Philippe Mouret(※Space Cowboysの創設者の一人)とこのゲームに関するアイディアを議論した後で、この解決策(※サブライセンスをすること)をのむことに決めた。そして、新しい出版社と共に第2版の作業を実際に開始した。

Space Cowboysのデベロッパーであり、このプロジェクトを監督していたDomitienと私は、オリジナルのゲームのどの要素が問題と認識されていたか、少なくとも改良の余地があるかについて議論した。順不同だが、こういったことが議論に含まれていた。エリアコントロール要素とカードのセットコレクションの得点のバランス、時折強制される"トップデッキ(※重要な局面で、逆転のために、今この場でもっとも必要なキーカードをライブラリーの一番上から引くことだが、ここではカードの引き運が強いことという意味で用いられているようだ。)"の瞬間に対する一部のプレイヤーの苛立ち(オリジナルのゲームをプレイしたことがない人たちのために説明すると、連続して数手番、ただわけもわからずにデックの上から1枚引くだけのことが起こり得る。)、2人用バリアントルールによる完全に満足できるわけではないプレイ体験、最後に、当然だけど、テーマだ。もちろん、私が話しているのは、少なくとも部分的にであれ、ゲームデザイナーとしての私の役割を必要とする要素だけだ。プレイヤーからのコメントの大部分が、アートワーク、トークンの色、それにスロバキアに関することであるというのは十分にわかっているさ。

とりわけ、設定に関していうと、新版のテーマのアイディアは、地球上の様々な場所を考古学的な調査をするというものだった(エスノス島の6つの地域が、こうして6つの大陸に変換されることとなる。)。即座に、このアイディアは個人的に良い選択のように思えた。ゲームに変動性を追加するために、(オリジナルのゲームと同じように)複数の異なる場所をそれぞれの大陸に関連づけて、3つの時代における得点配分を異なるようにした。

プロトタイプ
クレジット: W. Eric Martin

けれども、調査というアイディアは、既に私の頭の中のアイディアを刺激し始めていて、エリアを支配するのではなく、プレイヤーがカードセットをプレイすることで前進するトラックを取り入れることで、このテーマにもっと合致するじゃないかと考えた。当初、このアイディアは、単なる表面的な(aesthetic)変更だった。トークンを配置させるのではなく、ポーンを前進させるというもので、ゲームプレイの観点からは実質的な変更点はなかった。けど、個人的には、せっかくのチャンスを十分に有効に利用していないように思えた。とりわけ、私たちが探していた変動性というのは、実のところ、かなりうわべのものだったからね。最初に到達した3人のプレイヤーに8/8/4点を与える場所があるゲームと、10/6/2点を与えるトラック上の場所があるゲームでは、真に異なる体験をもたらすものではなかった(例えば、ゲーム内に異なる組合せの集団、おっと間違えた、異なる組合せのキャラクターがいるのとは対照的だね。)。

したがって、このゲームについてSpace Cowboysのチームと作業するためにパリを訪問する予定日の数日前に、いちかばちか何か違うものにしようと決めた。私は、それぞれのロケーショントラックが他のトラックとは異なるように作動する新しいプロトタイプを粗々ながら作成した。トラックには様々な必要条件がある。例えば、プレイすべきカードの枚数や、プレイヤーのポーンがどの場所にいるかによって各ラウンドの最後に与えられる得点が固有に進行することとなる。

このトラックは、それぞれの場所にちょっとした"特殊能力"をつけることができるようになったため、興味深いデザインの余地を切り開いた。例えば、あるトラックでは、特定のスペースにたった1人のプレイヤーしかいないというのが重要で、別のトラックでは、それぞれのスペースで与えられる得点が高いときと低いときで交互に変化する(そうすることで、ラウンドの最後に適切なスペースにいることが重要となる。)。また、別のトラックでは、2つの異なるポーンを前進させる必要があり、さらに、別のトラックでは、フォークを手に取ることが可能だ。まぁ、最後のやつは合理化という祭壇に捧げられてしまったけれども。それに、私が、拡張に向けてそのアイディアをもう一度取り上げるかは誰も知る由もない(こんなアホなことを言ってる場合じゃないね!)。

後のプロトタイプ
クレジット: W. Eric Martin

初期のテストからであっても、この変更が本当に成功していることが示された。たった1つの手立てで、テーマ性と更なる変動性が加わりつつ、2人プレイ専用バリアントを取り入れる必要性がなくなった。「Archeos Society」をセットアップする際に、今となっては、ゲーム中に使用されるキャラクターカード一式を選択するだけでなく、それぞれの大陸には、シンプルで合理化されたルールの場所と少しパーティーゲーム寄りの場所の2つの場所があり、どちらかを選択することとなるので、プレイ内の6つの調査先を選ぶ必要もある。

依然として、ほかに考慮すべきところが2点あった。ボードから与えられるポイントとカードのセットから与えられるポイントとのバランス調整、それに強制される"トップデッキ"だ。得点調整に関していえば、計算と検討を少しして、カードのセットから得られる得点曲線を少し緩やかにすることにして(従前の0-1-3-6-10-15の代わりに0-1-3-5-8-12)、トラック自体の"競争"の重要性を相対的に高めることにした。

2つの正しいセット
クレジット: W. Eric Martin

トップデッキに関していえば……、私は、このゲームにおいて問題であると認識したことは一度もないということは認めなくちゃいけない。けど、この要素によってイラッと感じるプレイヤーのことは理解できる。何年にもわたり、この問題を"解決する"方法に係るアイディアを読んできた。そういったアイディアの大体は、何らかの形で"カードマーケット"から補充したり、デックからカードを引く際にプレイヤーにある程度の選択(例えば、"2枚引いて、1枚を選ぶ")ができるようにしたりすることを含むものだった。こういった解決策に伴う私の主な懸念は、当初の"凄まじいくらい早い"ペースのゲームが遅くなってしまうということだった。

幸いなことに、Space Cowboysのチームは、見事で常識破りの解決策を既に考えついていた。カード置き場が空になった際は、デックから闇雲に1枚のカードを引くのではなく……2枚のカードを引いてくるんだ! ちょっとアホみたいに聞こえるけど、とてもシンプルなこの変更によって、ちょっとしたことだけど面白い選択も付け加えつつ、ゲームのペースを落とさずに、トップデッキの場面が大幅に減らせたんだ。"カード置き場の最後の1枚のカードを本当に引いて、他のプレイヤーにデックから2枚のカードを引かせてしまうのか?"という選択だね。この場面での私の貢献というのは、この解決策を"いいね"して、ルールブックには記述されなかったけど名前をつけてあげたところだ(けど、みんながゲームしてる時には使って構わない。)。カード置き場が空になって、2枚カードを引くことが選択肢に入ってきたのならば、ゲーム体験を向上させるためにこう大声で叫んでくれ、"ハッピーアワー!"ってね。

クレジット: Domitien AW

こうして、第2版が棚に着弾する用意が整った。お察しのとおり、アートワーク、関連する要素を無視すれば、私は非常に満足しており、オリジナルの「エスノス」の支持者たちを失望させることなく、新規プレイヤーに私がいまだに大好きなこのゲームを楽しんでもらえることを願っている。このゲームの中核的な特徴は維持されている。恐ろしく早いプレイの流れ、どの調査をどのリーダーでプレイするかを決断するハンドマネジメントの楽しさ、強欲な対戦相手が手札の半分をカード置き場に廃棄するのを見る楽しさ、2枚目のドラゴンカード(つまり、猿)が引かれた時の緊張感の高まりといった特徴だ。もちろん、プレイヤーは、もはやスロバキア(注)の地域をめぐるマジョリティの支配を争うことはないが、やがて、それを受け入れてくれると確信しているよ。

Paolo Mori

注:このゲームの初版にあったスロバキアのマップに隠された真実(※BGG上で話題になった。)を知りたいという人に向けて言うと……まぁ、その謎をネタバレするのが嫌になるくらいどうでもいい話だ。要するに、真実味のある島の形をした輪郭のプロトタイプを制作するために、私は、インターネットからスロバキアの画像を拾ってきて使ったんだ。ただ、CMONの編集者にプロトタイプを渡す際にそのことを伝えるのを失念してしまった。John Howeが最終のゲームボードを製作する際に同じ境界線をなぞるなんて予測することなんてできるわけないよな?!

以上

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