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チョコレートとピーナツバターのようなメカニズムの組合せ(Chocolate and peanut butter)

本記事は、Anthony Faber氏が2022年6月3日に投稿した「Chocolate and peanut butter」の翻訳である。

現代ボードゲームは、ほとんどの場合、複数のメカニズムが組み合わさってできている。本記事は、相性のよいメカニズムの組合せとは何かということをやや一般化して検討した内容となっている。なお、チョコレートとピーナツバターが喩えとして用いられている理由は本文冒頭で語られている。

元記事は以下のリンク先を参照されたい。また、ヘッダー画像はみんなのフォトギャラリー機能を利用させていただいた。

文字で読みたいというよりも耳で聞きたいのであれば、Two Wood for a Wheatというポッドキャストをチェックしてほしい。そこでは、後述するゲームの1つである「Ascension Tactics: Miniatures Deckbuilding Game」のレビューをしている。

私のように歳をとっているなら、うっとうしいReeseのピーナツバターカップのCMを覚えている可能性が高いだろう。そのCMでは、2人がぶつかって、1人がが"俺のピーナツバターの中にあんたのチョコレートが入ってるぞ"と言う。もう1人が、"私のチョコレートの中にあなたのピーナツバターが入ってるじゃない"と言う。その後、2人は、同時に、その偶然の産物を食べて、いかにその組合せが美味しいかを語る(※このCMのことである。)。

このことに言及しているのは、80年代のノスタルジーに浸るためではない。少しはあるけど、このCMがボードゲームのメカニズムについて何かしらの指摘をしているからだ。メカニズムは、他の要素との関わりを指摘されないまま(in a vacuum)議論されていることが多い。まるで、私たちが最も好むメカニズムを含んだ新しいゲームが、自然と魅力的に映るかのように。しかし、当然、メカニズムは、個別に思い付くものではない。ゲームのメカニズムが、他のメカニズム(※の魅力)を増幅させたり、損なったり(diminishes)、そして、複雑化させたり、洗練させたり(clarifies)する。メカニズムの中には、他のメカニズムと特に相性が良くて、ほとんど当たり前のようになっているものもあるが、不快感やぎこちなさを覚えるものもある。レビュアーが"このゲームはたくさんのメカニズムが一緒くたになって1つの箱に放り込まれたみたいだ"って(※不満を)言うのを聞くことが多い。これは、どんなゲームにも当てはまる話なので、ばかばかしい(absuid)批評だよね。けど、もちろん、彼らが本当に伝えたいのは、ゲームのメカニズムがうまく相乗効果を発揮してない(synergize)ということになる。今回は、私のチョコレートとピーナツバター、つまり、私にとって特に相性の良い組合せについて議論しようと思う。

デッキビルド、マップ、他の相性が良いもの

複数の機会において、デッキビルドが美味しくてやみつきになるけど、個人的には不十分なところがあると言ってきた。メカニズムとして常に砂糖のように甘い素材に感じられるが、手を加えられてない料理(a whole dish)というわけではない。最初のデッキよりもより良いデッキを組み上げる楽しさをすぐに感じられる。しかし、私は、いつもそのデッキを使って単に効率的に得点を稼ぐのではなく、何か独自のことを達成したいと思ってしまう。別の言い方をすれば、もし、ゲームで行う全ての作業がデッキの強さを測ることだとすれば、戦略は一次元的なものに感じられてしまう。デッキを構築して全く別個のゴールを達成させることによって、デッキ構築がより多角的なものとなり、やりごたえが出てくる(less straightforward)。

クレジット: @StoneBlade

このブログを昔から見ている読者はお分かりのとおり、デッキビルドに合う最高の付け合わせは、マップ上で行われる対戦プレイの類だ。具体的にいうと、マップはボードと対照的である。マップは空間的な対戦(spatial competition)を暗に意味するが、ボードはほとんどのあらゆることを意味する。単純な空間パズルは、デッキビルドの多様なインプットと組み合わせることで、その可能性を増大させる。空間的なプレイの本質は、ほとんど何でもありなわけだ。「Tyrants of the Underdark」はエリアコントロールの争いだ。「トレインズ」と「オルレアン」は駅の建設を含んでいる。「Super Motherload」はポリオミノのピースを使ってリソースを獲得する。「エルドラドを探して」は、文字どおり困難な地形を横断するレースだ。「西フランク王国の子爵」は、ユーロ的な行動をとる複数の層のあるロンデルを周回する。「クランク!」や「The Hunger」では、プレイヤーのアバターが価値のあるものを握りしめて、マップから脱出する。そして、最後に、最近発売された「Ascension Tactics: Miniatures Deckbuilding Game」は、六角形(※のマスがあるマップ)をベースにした(hex-based)小さい戦闘(skirmish)のあるゲームだ。

上記の全てのゲームは、かなり異なるマッププレイを採用しているが、どれも素晴らしい。少なくとも、上記の長ったらしい文章によって、マップのあるデッキビルドが一定のジャンルを築いている(kind of a thing)ことを確信してくれたらいいなと思うよ。これらのゲームの1つを見て、この組合せが、デッキビルドやマッププレイ単体の可能性を増大させることに寄与している理由を深く掘り下げて行きたいと思う。

クレジット: W. Eric Martin

Kniziaの「エルドラドを探して」は、難易度が変化するあらゆる種類の地形を素早く駆け抜ける。デッキビルドなくして面白い決断が生じる場面を想定することは難しい。プレイヤーがいつも最適な地形を通り越すだけにはならないような何かが必要だ。カードデッキを用いることで、プレイヤーは、それぞれ異なる種類の地形を通り抜けることができるようになる地形カードをランダムに手に入れる。手札にどのようなカードがあるかによって、その手札に合うという理由で、客観的に見てあまり良くない道筋を採用するかもしれない。

同じくらい重要なのは、プレイヤーが望む地形の種類に関連した、もっと優れたカードを手に入れるためにデッキを構築していることだ。森カードを中心にデッキを構築していたら、森を通り抜ける長い道筋を選択するかもしれない。もちろん、このこと以上に重要な点がデッキビルドにある。1回だけ使える超強力なカードがあり、どんな地形でも少しだけ通り抜けられる万能のカード(jack of all trades cards)や他のカードを手に入れるための購入力を高めるカードなどがある。能力カードを購入することで、いつ自分のデッキを強めることから(※お金や勝利点に)清算していくかというよくあるデッキビルドのジレンマが増強する。異なる構成の(divergent)デッキの種類によって、素晴らしくテーマ性の高いレースの瞬間が訪れる。長距離を想定して構築された高価なデッキを組むと、終盤に大急ぎで駆け込んで、目先の利益のために間に合わせのカードを購入したプレイヤーに追い付くかどうかを確かめることになる。

単体としてみれば、このゲームのデッキビルドはかなり単純にできている。例えば、自分のデッキから弱いカードを捨てることができる場所が道筋からわずかに逸れたところにあるといったデッキビルドと相乗効果を発揮したイカした工夫(twists)があるが、マップも同じく単純だ。しかし、(※単純なデッキビルドとマップが)一緒になれば、魅惑的な(magical)決断の場が現れる。

移動やマップをベースにしたボードゲームは予測可能性や計算可能性に苦しむ可能性があり、この2つの要素を一緒にするのはかなり相性がいいと思う。もし、プレイヤーがマップ上でいつ何を行うかを正確に把握できてしまうと、マップ上の物が変化する必要があるか、実際にどう行動することができるかを決断するために、あるいはマップ上で起こることを操作するために、ある種の半ランダムなインプットを必要とする。もし、そういった半ランダム要素が、プレイヤー自身で生み出したように感じることができれば、プレイヤー自身でデザインしたデックが、特別なものに感じられる。成功しようが失敗しようが、その成果物を生み出すのに多くの労力をかけたように感じられる。たとえ、そのカードの出現順序がランダムであったとしてもね。

もちろん、デッキビルドのインプットを活かすために異なる二次的なメカニズムを用いた他のゲームは多くある。最近の流行りは、「アルナックの失われし遺跡」、「デューン 砂の惑星:インペリウム」、そしてもうすぐ発売される「Endless Winter: Paleoamericans」にみられるようなデッキビルドとワーカープレイスメントを組み合わせたものだ。同様に、デッキビルドよりもハンドマネジメントに近いものを使って、デッキビルドとの融合以上に計画を立てることができて、場当たり的ではないと感じられる体験を生み出す、他のマップベースのゲームが多くある。「コンコルディア」や「グルームヘイヴン」は、同じ文脈で比較されることは多くないが、両方とも究極的には空間パズルを組み合わせたハンドマネジメントである。それに、どちらとも、潜在的に混沌としたボード上の状態に関してものともしないプレイヤーの用心深いカードプレイに対して見返りを与えるようになっている。

ポリオミノパズルに付け加えると……

ポリオミノを配置すること(Polyomino placement)は、多くの場合、他の種類のメカニズムと見事に組み合わさる、かなり特定された種類の空間メカニズムである。その他のメカニズムというのは、大抵の場合、「どうやって、このポリオミノを配置していけばいいのか」という質問に対する答えでもある。おそらく最初に人気を博したポリオミノゲームである「テトリス」を初めてプレイした時、その答えは単純だった。ポリオミノは、言葉のとおり、空から降ってくるのさ。その落下するメカニズムをシミュレートしたゲームが中にはある。「Tasty Humans」が格好の例だね。だが、最も人気のあるポリオミノゲームは、もっと伝統的なユーロのメカニズムを採用している。

クレジット: Simon Lafrance

今まで作られたゲームの中で最も大きくて人気のあるポリオミノゲームである「オーディンの祝祭」について考えてみよう。最初は巨大で威嚇的(intimidating)にも思えるが、その後、このゲームの90%が2つのメカニズムで構築されていることに気付く。ポリオミノとワーカープレイスメントだ。そう、60を超えるワーカーを配置する場所がある。しかし、その大部分は、個人ボードに配置する(cover)するためのポリオミノを手に入れる場所にすぎない。はい、以上、それでこのゲームを言い表されるのさ! ワーカーを送り出してポリオミノを獲得し、そして、ポリオミノを使って自分のボードに配置する。こういう理由から、私は、「オーディンの祝祭」が、あらゆるアクションの選択肢を搭載しているとしても、明確なコンセプトをもった見事なゲームだと考える。

クレジット: Frank West

一見してポリオミノを含む他のゲームは、ポリオミノの配置と、それを入手するために別のメカニズムに帰着する。「アイル・オブ・キャッツ」は、カードドラフトを用いる。カードは、ポリオミノから得点を得る方法だけでなく、ポリオミノを得る機会を与えてくれる。

「オーディンの祝祭」のポリオミノ部分の副産物とも言われている「パッチワーク」のようなシンプルなポリオミノゲームですら、もう1つの極めて重要なメカニズムがある。実際、「パッチワーク」には、収入と時間トラックという2つがあり、自分のタイルをいつどのようにして手に入れるかを決断することになる。他のシンプルなゲームでも同じだ。「クマ牧場」は共通のプールから自由にドラフトするが、「マイシティ」は「ビンゴ」のメカニズムを用いて全てのプレイヤーにポリオミノをあてがう。

習慣化された組合せ

クレジット: Rodney Thompson

一部のメカニズムの組合せについては、ほとんど当然のように一緒になって用いるものだと思ってしまうほど、一般的で自然になったものもある。この一例が、ワーカープレイスメントと契約だ。数え切れないほど多くのワーカープレイスメントゲームにおいて契約が用いられている。そういうゲームでは、ワーカープレイスメントのアクションによって生み出されたリソースが、契約による変換という形を取って勝利点になる。この組合せが非常に効果的なものとされているのは、契約を手に入れる行動それ自体がワーカープレイスメントのアクションになっており、リソースそれ自体の獲得と連動して優先順位を付けなければならないところにある。「Lords of Waterdeep」をプレイしていて、利益の多い新しいクエストとリソースを手に入れることができる圧倒的に最良の場所のどちらかを選ばないといけない場合を考えてみよう。リソースを得るためだけのワーカーの配置場所だけでは、面白いプレイ感を生み出すのには十分ではない。プレイヤーは、そのリソースを用いて何か行動ができるようにする必要もある。そして、契約というのは、自然と、プレイヤーが所持している契約の内容によってそういったリソースの価値を変動させる。したがって、面白い決断と報酬に向かうための満足感のある進歩(progression)が生み出される。

もう1つのメカニズムは、現代のユーロゲームにおいて塩のようなもので、どんなものとも相性がよいものかある。つまり、セットコレクションだ。セットコレクションは、契約と同じように、あまりにも簡単に計算できてしまう可能性がある、集めたリソースを単純に自分自身の得点にするということよりも、むしろ得点を得るために別のことを見越してあることを達成しようとするインセンティブをプレイヤーに与える。そういうわけで、セットコレクションはあらゆるものに合致する。

もし、セットコレクションが現代ユーロゲームの塩だとしたら、エンジンビルドは胡椒かもしれない。全てのゲームにあるわけではないが、まさにそんなふうに思えてくる。だが、エンジンビルドが、ゲームのアーク(arc, ※盛り上がり)とプレイヤー体験の拡大を生み出してくれる素晴らしいものである一方で、パートナーのようにほとんど全てのアクション選択メカニズムに巧妙に付け加えることができる。ワーカープレイスメント、ドラフト、ハンドマネジメント、そのほかなんでも。

終わりに

あと二、三個ほど、私が好きな(一部は好きではない)メカニズムの組合せの例を挙げようとしたんだが、際限なく例を挙げてみんなを疲弊させたくはないね。また、多くのゲーム又はほとんどのゲームにおいて、少なくとも重いゲームについていえば、きっちりとメカニズムの組合せ(pairs)にはまらないことはちゃんと理解してる。私は「ライジングサン」が大好きだ。けど、同盟、固有能力、アクションドラフト、競り、エリアコントロール、タブロービルド等の中で何が最も重要かわかっているかというと、もうお手上げだね。こういった基準に当てはまるもっと多くのゲームの些細な点を深く掘り下げるよりも、2つのメカニズムが見事に機能している、みんなが好きなゲームが何かを聞くことのほうが興味があるよ。下のコメント欄で教えてほしい。さもなければ、私が楽しむメカニズムやゲームがゴミクズなのかも教えてくれ。いずれにせよ、読んでくれて感謝。

以上

※Anthony Faber氏の他の記事として、以下のものがある。

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