【名言と本の紹介と】『「言葉にできる」は武器になる。』
最近、アイデアが枯渇している。否、最近ではない。ほぼ常に、だ。
書きたいテーマはたくさんあるのに、上手く思いつかない。無理やり物語を絞り出しても、いまいち薄っぺらくて芯が入っていない。思いついた時には書けそうな気がするのだが、書き起こしていくとまるで水揚げされたタコのように、つかみどころのないものになってしまう。
noteを始めてから、ほぼ毎日PCを立ち上げワードを開くようになったが、1文字も書けずに1日が終わることも多い。そんな日が1週間続いたところで、冒頭の文を思い出し、本棚から取り出して再度読み直すことにした。
梅田悟司という名前を知っている、という人は日本にどれだけいるのだろう。
だが「世界は誰かの仕事でできている。」というコピーを知っている、という人は日本人口とほぼイコールの数ではないだろうか。
著者は電通のコピーライターであり、コカ・コーラのコーヒーブランド、ジョージア「世界は誰かの仕事でできている。」「この国を、支える人を支えたい。」や、リクルートのタウンワーク「その経験は味方だ。」「バイトするなら、タウンワーク。」を生み出した方である。
こう考えると、コピーライターというのはクールな職業だ。芥川龍之介という名前は知っていても『羅生門』の内容は知らないというように、著名な作家は時に作者名の方が有名になることもある。コピーライターは作者名よりも作品が記憶に残る。職人っぽい。
本書は、随所に力強いコピーが散りばめられている。どのコピーも平易な言葉で、すっと入ってくる名文である。そして、冒頭のコピーは本書を購入し初めて読んだ際、一番心に残った一文である。その前の部分を含めて再度引用する。
私たちは必ず、言葉を発する前に伝えたいことを頭の中で思い浮かべている。伝えたいことがあるから、それに沿った言葉を選び発するのだ。案外当たり前のことを言っているようにも思えるが、あまり意識したことはない。
「氷山の一角」という言葉もある。「言葉は思考の上澄み」という言葉も近いものを感じる。他人は表面に見える部分を見て、海中(胸中)の思考の深さや大きさを計り知る。
これは表面に表れる言葉の量が多ければ良い、というものでもない。営業マンが条件反射のように並べ立てる美辞麗句よりも、口下手な人の一言の方が印象に残ることもある。上澄みにも質があるのだ。
「内なる言葉」と「外に向かう言葉」
本書では2種類の言葉が出てくる。自分の心の中の言葉と、目の前の相手に伝える言葉だ。本書にあった説明を引用する。
頭の中ではしっかり分かっているのに、いざ言葉にすると上手く話せない。これは①の意見が育っていないから②が上手く作り出せないのだ。
ここ数年、定期的に人前で発表をする機会をいただいているのだが、その前にはいろんなデータを集め資料を準備する。で、そのまま発表に臨むとシドロモドロになる。話したい内容がありそれに沿った資料を準備できているが、まとまっていないのだ。
そこで、資料ができたら事前にひとりでプレゼンをしてみることにした。そして資料に手書きで台本を書き加えていく。これで当日のシドロモドロは無くなった。加えて「こことここの間にもうひとつ別の資料を入れたら分かりやすいな」とか、「この順番だと結論がわかりにくいから先にこっちを話そう」といった気づきも出てくるようになった。
また最近は、大切なところは2、3回くらい言い直すことにしている。文字は何度も読み返せるが、耳に聞いている人は1回聞き逃せばわからなくなる。スマートじゃないな、くどいな、と感じるくらい話すことで、ちゃんと伝わるようになった気がする。
……このように振り返ってみると、我ながら成長している。感激。端からみればまだまだへなちょこだろうけど。
「内なる言葉」で意見を育てる
私はただがむしゃらに日々トライ&エラーを繰り返していたが、このようなことは、ばっちり本書にも書いてあった。考えを深める思考方法として、以下のことが丁寧に説明されている。
タイトルだけ抜き出しているのでこれではわかりにくいかもしれない。ただ私が強調したいのは①だ。とにかく書き出すこと。自分の頭を過信してはいけない。
休みの日にやりたいこと、買うもの等を頭の中だけで考えていると、あれもこれもあってどうしようと思ってしまう。だが、それを紙にリストアップすると、たいてい4つくらいである。もっとあったはずなのに忘れてしまったと感じるかもしれないが、おそらくそうではない。同じところをグルグル回っていただけだ。本書の説明を引用すれば以下の通りである。
買い物リストだけではない。様々なアイデアも、スマホのメモ機能で良いからとにかく書き出す。書き出せば、次のことを考えられるのだ。
意見の育て方として7つの項目を先ほど挙げたが、是非とも実際に手を動かしてみてほしい。本書でもジブンゴト化して考えることを推奨されている。
例えば「将来、わたしがしたいこと、成し遂げたいこと」といったテーマはどうだろうか。
小さなことから大きなことまで、とにかく思いつくものを付箋にペンで書く。「ブログを毎日更新する」でも「お店みたいなオムライスを作れるようになる」でも何でもいい。1枚につき1つだ。ある程度書き出せたら、「なぜ?」「それで?」「本当に?」という問いかけをしてさらに増やしていく。増えたらグループに分ける。(付箋なので壁を利用して貼ってみると良い)グループによっては多いものも少ないものもあるが淡々と分ける。そしてそれぞれを縦横のラインに貼っていく。順番は考えの深さや方向性、細かさ等。
ここまで出来たら、考え足りないところが見えてくる。そこを追加で考え補う。そして整頓された付箋の壁ができたら、2,3日忘れて客観性を取り戻す。すっきりした頭で別角度からの考えを付け加えていくのだ。
うわ、めんどくさ、と思った方。セレンディピティという言葉をご存知だろうか。
よく成功者が語る話には、ラッキーだったとか偶然が重なったとかが出てくる。ついうらやましく思い、私にもそんなラッキーが転がっていないかなぁと足元を眺めながら歩いているが、転がってない。成功者が拾ってくるラッキーは、このセレンディピティが発揮されているのだ。
まず私たちに必要なのは100均で売っている付箋とペン、やる気と1,2時間だ。一度ぎゅっと考えることで、将来ラッキーが拾える、かもしれない。なお、実際にやってみると①の時点で思い浮かぶものが少なく、凹むはずだ。これではアンテナなんて立ってないし、情報感度も低いはずだ。
言葉の重み
これに近い内容は他の本でも見たことがある。
内田氏の本はいくつか持っているがハズレがなく面白い。だがこの本は、言語学や文学の基礎知識がないと取っ付きにくい本である。逆に基礎知識がある人には、講義内容をそのまま文章に起こしているので比較的読みやすいと思う。「ソシュールやロラン・バルトでしょ、知ってる知ってる」という方は是非どうぞ。
話を戻そう。
「必死さ」「切実さ」「懇請の強度」の話だ。まずは強く思うこと。ここでいう強く思うこととは、心の中で叫ぶことではない。様々な視点で捉え、考え、意見を育てることだ。またはもっと感情的なものかもしれない。とにかくその伝えたい思いが「外に向かう言葉」を形作るのだ。
「人を動かす」のではなく「人が動く」
企業が広告を打つ目的は、企業イメージを高め、商品を売ることだ。
広告会社は売れる広告を求められ、コピーライターは売れるコピーを依頼される。
だが、本書では広告で「人を動かす」ことはできないと明言されている。
言葉が響けば、人は自然と動くのだ。TEDのスピーチを聞いて、今まで意識しなかった言動やニュースに目が留まるようになることは時々ある。でもこのレベルになると懇請の強度とか思いの強さだけではなく、伝え方や技術の面も必要だ。
コピーの話からは少しずれるが、「人が動きたくなる」ようにする方法の研究として、行動経済学という分野がある。経済学×心理学の考え方で、2017年に「ナッジ理論」がノーベル経済省を受賞したことで一躍有名になった。
最近身近で体験したものでは、店舗や施設の床に足跡マークが書かれていたのがそれに当たる。何も書いていなければ、人のすぐ後ろに並ぶが、足跡マークがあることで自然と距離を取って並んでいる。そういえば、トイレットペーパーを三角や四角につぶすことで、引き出すときにカタカタ鳴り、使い過ぎ防止になるというのもあった。思い出したので潰しておこう。これらは別に強制されているわけではない。なんとなくそう動いてしまうのだ。
このように言葉ではない分野でも「人が動きたくなる」研究は行われている。物書きも箸休めにこういう分野を眺めてみるのも良いかもしれない。
行動経済学という言葉をはじめて知った、または言葉だけは聞いたことがある、という初心者向けの本。大人を対象とした本だと思うがマンガなので非常に取っ付きやすい。とりあえずどんなもんなのか知りたい、という方にオススメの一冊。
さて、再度話を戻そう。
本書は「内なる言葉」と「外に向かう言葉」の2つに分けて、それぞれを鍛える方法を具体的に説明している。「内なる言葉」の育て方についてはすでに紹介させていただいた。とにかく付箋とペンを買ってきて思いつくものを書き出すことだ。「外に向かう言葉」については技術的な話なので、ザックリ割愛するが一応項目だけは挙げておく。
各項目、具体例を挙げて丁寧に説明していて非常に分かりやすい。また具体例として挙げられているのが著名人の名言ばかりでそれがまた読んでいて楽しい。でもここまで語っていたらキリがない。
なんといっても、著者が強調したいのは「内なる言葉」の重要性だと思っている。以下のような例えもあったくらいだ。
そう考えると、この記事冒頭で一部引用した「はじめに」の4頁にこの本の一番大切なエッセンスが入っているように感じている。
「はじめに」から1章の最初のところまではAmazonのサイトで立ち読みができるので、是非お読みいただきたい。または、本書を読んだ後にもう一度この部分へ戻るのも良いだろう。とてもすっきりまとまった名文だと感じるのはきっと私だけではない。
言葉の書き方、テクニック指南もしている本書である。当然とも言えるかもしれないが非常に文体も簡潔で、例の入れ方も的確、改行・空白の取り方、レイアウトも読みやすく、さすがコピーライターと感じる一冊だ。「小説の書き方」の類の本を読んだことがある方も多いと思うが、たまには小説家以外の方の指南も参考になるはずだ。
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