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【連載小説】第1話 普通の高校生は人形劇の夢を見る #創作大賞2024#ファンタジー小説部門
あらすじ
前島奈那は元気が取り柄の高校生。だが最近、妙な夢をみる。昔通っていた小学校の夢だ。しかも真夜中で無人で外にも出られない。黒い犬のような操り人形に導かれて、それぞれの教室でよくわからない人形劇を見せられる。はじめはただ見せられるだけだったのに、劇に反応したことをきっかけに、夢は急激に現実味を帯びてくる。次第に身の危険を感じる出来事が起こり出す、夢が現実に近づくホラー×コメディ×ファンタジー。
第1話 (約1700字)
日常っていうのは、つまり毎日が似たようなものってこと。毎朝同じくらいの時間に起きて、つまらない授業を聞いて、友達とはネットや動画やテレビや恋の噂話で盛り上がって、下校時間になったら友達と買い物に行って、家に帰ってご飯食べて風呂入ってネットや動画やテレビ観ながらチャットやライブでグダグダ語りながら寝落ち。その繰り返し。もちろん、少しくらいの変化ならある。
「ええ確かによくあることだよ、話のネタにもならないね。でも当事者はマジで困るっつーの!」
あたしは飛び起きると、無意識で止めたらしいアラームに向かって朝の発声練習をした。
聞いて驚くな。只今の時刻、八時〇七分。朝礼は八時三〇分。学校まで自転車で約二〇分。
計算したくもないよ。要するに急げばいいんでしょ急げば。
あたしは即行で着替えると、ブラシを鞄の中に放り込み、キッチンへと飛び出した。
「あらおはよう、奈那。今日は随分とゆっくりね」
母さんはざまあみろとでも言うような顔でにんまり笑う。あたしは今日に限って何故か手の込んだ朝ご飯を盗み見ながら、本日二度目の怒鳴り声を挙げた。
「ちょっと遅刻しそうな時くらい起こしてよ!」
「何言ってるの。奈那が、いつまでも子供扱いしないでって言ってたじゃないの」
「こういう非常事態の時はいいの! あーもうほんっとムカツク」
母さんと話をする時間だってもったいない。悠長に行方不明者のニュースを伝えるテレビを睨みつけ、湯気を立てるコーヒーと見事な出来栄えのサンドウィッチを見納めて、あたしはどすどすと足音を立てながら玄関へと歩き出す。
「朝ご飯抜くと太るわよ?」
「うっさい! 余計なお世話です!」
履き古した革靴を履くと、あたしは短距離選手並みのスピードで玄関を飛び出した。
空も飛べるような勢いで自転車のペダルを回していたら、ありがちパターンを想像して嫌気が刺した。遅刻だ遅刻だーとか思いながらトーストをかじりつつ赤信号無視して突っ走って、見通しの悪い交差点で腐れ縁の続く転校生と出会い頭の衝突事故。
さすがにここまで揃っていたら、ネタにはなるかな。でもあたしは朝ご飯抜きだし、この時期に転校生なんて来るわけがない。それに赤信号無視したからって事故らないね。常習犯をナメなさんな。
五体満足で正門をくぐると、下駄箱に靴を放り入れ、上履きを持ったまま教室まで走る。廊下のずっと向こうで担任の禿げた後頭部が光る。
あたしは大きな声で先生を呼ぶと、ラストスパートにモードを切り替えた。声をかけられたのに驚いたのか、あたしの形相に驚いたのかは知らない。いつもなら廊下を走るなって大声で怒鳴るくせに、担任はあたしを振り返ると口を半開きにして扉の前で硬直した。
勝った。
思わず口の端を上げる。扉に衝突しない程度にスピードを緩め、おざなりな挨拶を残して先生の横を走り抜けて教室の中へと飛び込んだ。
「お、おはよ、奈那」
静まりかえった教室の中をオラウータンみたいな歩き方で闊歩して席に着いたあたしに、未紀が消えそうな声をかける。あたしは深呼吸を二回してから、返事をする。
「おはよ、未紀。聞いてよ、今日も朝っぱらからサエない少女漫画みたいなつまんない出来事が起こったんだってば」
あたしは鞄の中からブラシを取りだして、おもむろに髪を梳かしながらぼやいた。
「でも、そういう少女漫画みたいなことを現実にやってのける奈那はかなりすごいと思うよ」
思わず手を止めて、苦笑する彼女を見つめてしまう。言い返そうと口を開きかけた時、禿げた担任、略してハゲタン、またの名を後藤先生が出席簿を教卓に叩きつけた。
こうして、あたしの日常は始まる。
第2話
第3話
第4話
第5話
第6話
第7話
第8話
第9話
第10話(最終話)
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