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クリスマスキャロルは鳴り止まない

舞台『パ・ラパパンパン』観劇記

曲がりなりにも、ちょっとでも舞台に立ったことのある私が悔しいと思うことは、『自分が出ていない素晴らしいお芝居を観た時』だと思う。
「なんでこんな素晴らしい舞台に自分が立っていないのか、あぁ、あのセリフは私が言いたかった」と、素晴らしい出来栄えに惜しみない拍手を送りながらもどこかで「あぁ悔しい」と思っているのだ。

Bunkamuraと大人計画が企画・制作した舞台『パ・ラパパンパン』を観てきた。私のために作れれたの?と思うほど全出演者が私の好きな俳優さんばかり。中でも松たか子さんはシュールさとコミカルさをあわせ持つ稀な女優さんだと思って以前から注目していた。何度も松たか子さんの舞台を観てきたが、今回はその得意分野が惜しみなく発揮されていたように思う。コミカルで、でもちゃんと大人の女で、しかも可愛い。
そして思わぬ副産物と言っては失礼だが、初めて舞台での演技を観る神木隆之介さんも松たか子さんのテンポに負けず劣らず素晴らしかった。他のメンバーはもう何も言わなくても安心して観てられる方ばかり。
そう言う意味でとても豪華なメンバーだった。



物語は現在の東京。
10年前に編集長のお情けで文学賞の佳作を獲得した三流作家の来栖てまり(松たか子)は実力もないのに本格ミステリー小説を書きたいと言い出す。
担当編集者の浅見鏡太郎(神木隆之介)も編集長の裏木戸誉(オクイシュージ)も、あいつにそんなの無理だと思っているが、てまりは担当編集者と試行錯誤しながら、ディケンズの『クリスマス・キャロル』を参考にして『クリスマス・キャロル殺人事件』というミステリー小説を書き始める。題名からして安っぽいドラマのようだ。
その物語の舞台は19世紀のイギリス。クリスマスに主人公であるスクルージが何者かによって殺される…さて犯人は?というストリーなのだが、ミステリー小説のセオリーなど何も知らないためにはちゃめちゃな物語になってしまう。ミステリーというよりコメディといった方がいいかもとさえ思える。さて、アガサクリスティなみの本格ミステリー小説が出来上がるのかどうか…

『パ・ラパパンパン』というのは、誰でも知っているクリスマスソング『Little Drummer Boy』の中の歌詞の一部だ。この舞台の中で何度となく出演者たちが歌うのだが、何度も聴いたことのあるこの曲だけど、こんなにもドラマチックな『Little Drummer Boy』を聴いたのは初めてだと鳥肌がたった。
私はこの歌も歌いたいと思った。舞台の右端に立ち、少し感情を抑えて最初は小さな声で、次第に大きくなって遠くを見つめながら歌う。そんな演出まで自分で想像したりした。


誰かにメリーリスマスと声をかけたくなる。
イカした12月のひとときだった。

企画・制作 Bunnkamura   大人計画
演出 松尾スズキ
作  藤本有紀
出演 松たか子 神木隆之介 筒井真理子 坂井真紀 小日向文世
   大東駿介 皆川猿時  早見あかり 小松和重 菅原永二
   小路勇介 川島由莉  片桐正二郎 村杉蝉之介 オクイシュージ  
   宍戸美和公 他


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