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絶望は、きっと、無味無臭

「死にたくなったら電話して」。
これは私が最近読み終えた小説のタイトルである。
敬愛なるYouTuber、にゃんたこ様が動画にしていたのを見て、就職活動の合間にネットで購入した。

彼女が言うには「自分が大学生の時に出会っていなくてよかったと思う作品」であり、かつ「大学生の方はぜひ手に取ってみてほしい作品」らしい。
残された大学生活が一年を切った私は、迷うことなく購入ボタンをクリックした。

しばらくして頼んでいたこの小説が私の元へとやってきたのだけど、就職活動に関連する予定がわずかばかり残っていたので、封を開けそっと自分の本棚に並べておいた。
あのお方が「自分が大学生の時に出会っていなくてよかったと思う作品」と形容する作品をそそくさと読んでしまうのはなんだか勿体ない気がしたし、
とっておきだから取っておきたいのだ。

それに私は作品の世界観や内容に引っ張られやすいタイプである。
すべてが落ち着いたうえで読まなければ、就職活動はおろか日常生活が手につかなくなってしまう恐れが大いにある。

それから数週間経った頃、おいしいコーヒーのカフェ巡りを一人でするのに、ちょうどこの小説を片手に足を運ぶのがいいのではないかと思い、
気楽な気持ちでこの本を棚から取り出した。
なんとも怪しげなタイトルと表紙を、平日の明るい日の射すカフェのテラスで読むのはアンバランスで、得も言われぬ快感のようなものがあり、私はさくさくと読み進めた。
(とはいうものの、日常の楽しみがなくなってしまうのが嫌で3日ほどに分けて読んだ。)

あらすじと読後感

読み終えた感想を記すよりも、
「死にたくなったら電話して」を読み終えた日の深夜の私の状況を説明する方が、これがどんな作品なのかというのを分かりやすく伝えてくれる気がする。
その日の深夜、私は夜ご飯の時間になっても何も口にしたくない気分であることが怖くなり、急いでコンビニエンスストアに行って手当たり次第に食品をかごに入れ、部屋に戻り、約一カ月ぶりくらいにポテトチップスを一袋1人で平らげ、そしてその後ベッドで両手を顔を覆い隠して声をあげて泣いていた。
作品のあらすじも知らない人からすれば何を言っているか分からないだろうと思い、ここに作品の紹介文を挿入する。

「死にたくなったら電話して下さい。いつでも。」
空っぽな日々を送る浪人生・徳山は、ある日バイトの同僚に
連れられて十三のキャバクラを訪れる。
そこで出会ったナンバーワンキャバ嬢・初美から、携帯番号と謎のメッセージを渡され、猛烈なアプローチを怪しむも、
気がつけば他のことは何もかもどうでもいいほど彼女の虜に。
殺人・残酷・猟奇・拷問・残虐……
初美が膨大な知識量と記憶力で恍惚と語る「世界の残虐史」を聞きながらの異様なセックスに溺れた徳山は、
やがて厭世的な彼女の思考に浸食され、次々と外部との関係を切断していき――。
ひとりの男が、死神のような女から無意識に引き出される、
破滅への欲望。

キャバクラ譲である一方で人間の黒い歴史や事件に関する知識がかなり豊富な初美は、これまでで類を見ないような負の引力を持つ”新しい悪女像”とにゃんたこ氏も絶賛していた。
思わせぶりで蝶のようにひらひらとどこかへ消えてしまういわゆるファムファタルなどではなく、
自分の意思が強く、その思いの通りに行動する初美は一見男を振り回す悪女のようには思えないけれど、
彼女の本当の腹の内というのが全く見えない。
初美と付き合うようになる徳山久志は、そこを分かった気になったり、もっと知りたいと思ったり、分からないままでいいと思ったり、
そうこうしているうちに物語は壮絶(というか静かな荒波の中)へと向かっていく。

読み終えて感じるのは

読み終えて感じるのは、この物語は私が迎えうる可能性のあるラストで最も最低最悪な(とされる)ラストだということだった。
恥ずかしながら、私は初美の思考回路にかなり似ていると感じてしまった。
(中二病臭くて自分でいうのは恥ずかしいけれど。)
だからこそ、彼女の言動には納得感がずっとあったし、その分読み終えてから身動きを取れなくなってしまった。
ずっと見ないようにしていた分かれ道のもう一方の選択肢と結末をまざまざ見せつけられてしまった。
どうにか「普通」になろうという努力を怠った私の行く末を知ってしまった以上、普通を選び続ける努力を辞めることができなくなってしまった。
私の中の”是”は万人にとっては”非”であると証明されてしまった。
でも、だからといってこんな私を引っ張り上げてくれる何かはない。

物語のラストはまさに絶望一色だった。けれど、それは世界が涙する悲劇の結末のような激しさはない。辛酸をなめる、苦汁を飲むなんて慣用句があるがそれは嘘だ。本当の絶望はなんの匂いも味もないと初美と徳山が示したから。


次の記事でもっと細かいことを書きたいと思います。
興味を持った方は是非読んでみてほしいです。


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