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第一章 奈々(絵美)と明彦、第六話 融合

体よく恵美を追い出した絵美。メグミちゃん、オカンムリです。絵美は奈々と(?)お風呂に入って、お話しています。奈々の体のチェックをしてますが、自分で自分の体を広げたり、いじったり、これは変態行為です。

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第二ユニバース
第一章 奈々(絵美)と明彦
第六話 融合
1986年10月11日(土)

「悔しい~。ねえ、明彦、せめて、チューしてよ!」
「ここはタクシー乗り場なんだよ。みんな並んでいるんだけど・・・」
「そんなこと気にしないの。チューしてよ。心を込めて!」

 ぼくは、恥ずかしかったが、メグミを抱きしめて、キスをした。

「クソっ。絵美だけじゃなく、奈々まで参入してきて、これじゃあ、勝ち目がないわね。悔しい~。結婚も考えたんだけど、躊躇していた時にこの騒ぎ。なんなのこれは?」
「ぼくは、第一とか第三とか第二って、まだわけがわからないんだけど」

「ふ~ん、そうだよね、まだ詳しい説明をしていないから。後で絵美に聞いてね。第一と第三の記憶を持った洋子もくるから。私は第二の洋子を知らないけれど、第一と第三の彼女と基本的に変わらなければ安心できるわ。ねえ、チューもっとしてよ」

「列が動くよ」
「バカね、列の外に出ればいいじゃない」

 仕方なく、ぼくらは車寄せのタクシー待ちの列の外に出た。ホテルの正面玄関だ。

「これはね、私への罰なのよ。一つは、絵美さんが亡くなられて、心の隅でシメた!と思った私への罰、一つは、あれだけ私が好きだったのに、絵美さんに行っちゃったあなたの心への罰、最後に・・・罰じゃなくって、それでも生き返っちゃったみたいな、絵美さんへの祝福。もう、わけわかんないわ。感情の整理がつかないわよ。明彦、チューしてよ。ずっとチューしててよ。・・・あ!もう一つ、罰があったわ。洋子も来る。それで、私と同じ混乱を味わえばいいのよ。死んだと思った絵美が生き返った、という罰を洋子も味わうんだわ・・・」

「メグミ、ちょっと時間をください。まず、この状況を理解しないとね」
「そうね・・・わかったわ・・・今日は許してあげよう。もういいわよ。絵美と奈々さんのところに帰りなさい。良かったね、明彦。絵美が帰ってきて・・・私は一人で帰れるわ。じゃあね、明日また」とメグミはぼくの肩を押してホテルの玄関の方に向けると、自分はスタスタとタクシー待ちの列に並んでしまった。

 絵美はバスタブに湯をはって、入浴していた。
 
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 絵美が記憶の仕組みを説明してくれている。できるだけ難しい言葉を使わないで、説明してくれている。一緒の脳にいるのだから、絵美の記憶域から私の記憶域にコピーして、理解すれば良いんだけど、絵美の人格から說明をしてもらったほうがよくわかるような気がする。

(脳は記憶でできていて、記憶はつねに脳をつくり替えている、などというとイメージしづらいかしら。
 
 よく比喩で述べられているのが、脳はパソコンみたいなもの、演算素子のCPU/DPU/GPUやRAM、ROMであるHDDやSSDが装備されていて、その脳にオペレーションソフトのウィンドウズみたいなプログラムが人格のようなもので、人の感覚器官を通じて得られた感覚記憶(五感と考えても良い)があって、それが海馬という器官で振り分けられて、大脳皮質に記憶として保存される、とこういう說明。奈々のいま持っているイメージもそういうものかな?あ!海馬というのは、タツノオトシゴのこと。海馬という脳の器官は、タツノオトシゴに似ているのよ。
 
 だけど、第一の絵美のもたらした記憶の中の、第一の最新の研究によると、記憶とは「脳に蓄積される」ものではなく、脳が「記憶そのもの」であり、脳細胞やシナプスなどが「時間を理解」しているそうなの。
 
 奈々の記憶を思い浮かべて。高校の頃のスポーツの試合で勝ったこと、恋に落ちたと気づいたあの日。

 その記憶は、ひとつの事象、出来事じゃないでしょう?何かの関連する記憶事実と共に覚えているはず。バレーの試合で優勝した時、奈々を応援した彼の青いジャージだったり、初恋の彼が着ていたネクタイの柄とか色だったり。記憶を再構成する際、人間は五感で得られた外部刺激の記憶事実を思い出して、それらに対して抱いたあらゆる感情を追体験するのよ。
 
 奈々の脳は、こうした外部刺激のミリ秒単位の印象をかき集めて、つなぎ合わせモザイクをつくりだす。その能力が、あらゆる記憶の基礎。
 
 その外部刺激(五感)の記憶事実は、大脳皮質のニューロンの分子に変化を生じさせて、ニューロン同士の接続を再編する。つまり、脳は文字通り記憶でできていて、記憶はつねに脳をつくり替えているってこと。
 
 記憶が存在できるのは、脳内の分子、細胞、シナプスが「時間を理解している」から。「時間を理解している」とは、記憶事実と記憶事実の前後関係を(どちらが先に起こったのか?ということを)理解しているということなのね。
 
 記憶とは、過去のある時点で活発だった脳の複数の部位のつながり(システム、と呼びましょう)が、再び活性化することでしかないのよ。つまり、固定されたCPU/DPU/GPUやRAM、ROMであるHDDやSSDではなく、例えて言えば、レゴブロックのようなもので、感覚刺激データが脳内に入ってくると、レゴブロックである脳内の分子、細胞、シナプスが組み合わさって、脳の複数の部位のつながり(システム)を新たに作り上げる。記憶を思い出すとは、そのシステムを再び活性化する(電子のやり取りが再び起こる)ということなのね。
 
 ニューロンのユニークなところは、何千というほかのニューロンと、それぞれが非常に特異的なつながりを築くことができること。こうしたつながりをネットワークにするのは、これらの特異的なつながり、すなわちシナプス(ニューロン同士の接合部)が、信号の強弱によって調整されるためなの。あらゆる感覚記憶には、ニューロンのつながりの相対強度を変化させる力がある。
 
 記憶とは、ハードディスクのあるアドレスに格納されているデジタルデータではないってこと。記憶とは、シナプスの構成された構造システムそのものなの。
 
 そして、どんな記憶も単独で存在しているわけではないのよ。大脳皮質は経験を、同時に経験する複数の時間スケールに分解する。ある音が、異なる周波数のそれぞれに分解されるように、ある経験においても複数のタイムスタンプが同時に記録されている。そのタイムスタンプごとの前後関係も含めて、記憶は、複数のシステムが絡み合って存在している)
 
(と、第一の絵美の記憶の仕組み、という記憶域がこう説明しているの)こう奈々の脳の中の絵美の記憶部位が奈々の記憶部位に説明した。

(つまり、絵美の記憶が私の脳に入ってきて、シナプスのつながり構成を持つ新たなシステムが私の脳にできた、ということなの?)
(そうそう、それで、私たちがお互いを共感したりするたびに、あなたのシステムが私のシステムと結合して、新しいシステムを産んでいる、ということなの)
(私の脳って、それほどの容量があるの?)と奈々。

(未来の実験では、人間の記憶をつかさどるシナプスの大きさを正確に測定した結果、これまで考えられていた容量の10倍大きいことがわかったそうなの。平均的なシナプスが4.7ビットの情報量を保持できることがわかって、脳全体の記憶容量は1ペタバイトに達するということ。1ペタバイトは千テラバイト。百万ギガバイトなのよ。でも、人間はその脳の10%以下しか使っていないと言われているのはウソ。パソコンのハードディスクの例えみたいなもので、シナプス構成のシステムは常に更新されている。だから、満遍なく使っているけど、休止しているシステムもあるということ。そこに私の外部記憶が入ってきたので、シナプスはそれを取り込んで再構成したという感じかな。偏頭痛も後頭部の発熱もシナプスの再構成でエネルギーを使ったら発生したのよ。それで、脳内の休止してない、休止してる、というシステムの濃淡があるのね。私たちは28才だから、数テラバイト程度の記憶の容量だから、1ペタバイトに比べれば、まだまだ、余裕があるのよ)

(私の脳内のレゴブロックみたいなものは、いつも組み換えしているってことね?)

(うん、例えば、あなたの脳内の『利害関係があって、見てくれがよければ、好きでもないのに股をおっぴろげてセックスしてしまう』というレゴブロックシステムが組み替えられて『一人を深く愛しましょう』というシステムになってきたのよ。私のレゴブロックの組合せを学習したのよ)
(絵美!ひっどい言い方ね!)
(事実でしょ?)

(・・・ええ、事実でしたね・・・好きでもない相手とするのはあまり楽しくなかったわ、事実として。それをオ◯ンコの刺激で誤魔化していたのね)
(やれやれ、あなたも相当下品よね?)
(言葉に出さないけど、丸見えだから、私がどう下品に捉えているか、あなたにはわかるのね?)
(私だって、あなたから見ると丸見えでしょう?私が自慰していたのもシステムの再活性化をすれば見えたでしょ?もう、こうなると、私たちの間で恥ずかしい、という概念はないわね)

(あなたの人格システムはそうでしょうけど、私はまだ恥ずかしいわ。あ!あなた!アキヒコに私のオ◯ンコを広げて見せたら、どういう感想を持つのかなあ、って今思ったわよね?)
(うん、面白いじゃない?彼が部屋に帰ってきたら、試してみましょうよ)
(絵美、絵美、勘弁してちょうだい!)
(ダメよ!彼があなたの体をグサッとやって、私とあなたが交代する前にやっちゃうからね)
(うぇ~ん、虐めちゃいや)
(あら?虐められて喜んでるじゃない?)

(どうせ、私は虐められて喜ぶマゾですよ。ふん。でも、絵美、珍しいじゃない?メグミさんの反論に怯むなんて?絵美らしくもない)と奈々。
(え?恵美のどっちが先に明彦の彼女だった、っていう話?)と絵美。
(そうそう)

(私が生きていれば怯まなかった。でも、私は奈々の体を借りている。人格とは肉体が付随してのものだって、こうなったからわかったの。それでね、人格とは肉体に影響されることに気づいた。私の人格、アイデンティティーもあなたの肉体の特性を受けて変容しているの。私が私でなくなってきているのよ。私はあなたの肉体を利用して、明彦とつながっていたいと思っている。姑息だわ。冷徹冷静な私が、生き返ったみたいに錯覚して、舞い上がってしまったようね。恥ずかしい。さあ、明彦が帰ったら、奈々にこの体を戻すわ。グサッとやってもらいましょうよ)と絵美。

(あなたらしくない。私はいいわよ。だんだん慣れてきた。五感の共用、これって楽しい一面もある。それにウソをつけない親友が自分の中にいるというのはうれしいことだわ。頭が良くなってきたような気もするし。絵美流のセックスもいいものよ。荒々しいのも好きだけど、ああいうスローなのも好きになってきたわ)と奈々。

(そっか。そういう風に感じてくれてうれしいわ、奈々)
(それに、あの新世界秩序という組織、あなたがいないとアキヒコと恵美さんと洋子さんだけでは解決できないでしょう?)

(まだ私が解決できればいいんだけど・・・あら、奈々、まずいわ。あなたと私の共感が作用して、人格が融合しかけているわよ)

(そうなったら、そうなったで、絵奈とか奈美になればいいこと。広告業界で枕営業をして、好きでもない取引先の部長と寝るよりも、アキヒコに抱いてもらったほうがずっとマシよ)
(あら、単なるアバンチュールじゃなくなってきたの?)
(もうこうなるしかない運命だったと思えてきた。まだ、昨日の夜から二十四時間と経っていないのよね。融合するのが怖くなくなってきたわ)
(まだ、時間はかかると思う。それが何ヶ月か何年かわからないけど。それに、私はこの第二の絵美が消え去っても、第一と第三には別の森絵美もいるんだから、問題なしだわ。でも、奈々は気の毒したわ)
(もう、気にしないわ。ねえ、あなたと私、どっちがどっちを吸収するの?)

(それはわからないなあ。多重人格、つまり、解離性同一性障害というわけでもないから、こういう症例は西洋医学ではあまり見当たらないのよ。日本では、戦前、生まれ変わりという概念がなじみ深かった。死者が同じ家族の元に生まれ変わってくるという考え方はかなり広く受け入れられていたの。この男の子は、曾祖父さんの生まれ変わりだ、と親戚のだれかが言うと、みんな疑問にも思わず納得する、みたいなことがよくあった

 また、ある人間が生前に生まれ変わることを予言したり、妊娠している女性がお告げの夢みたいなものを見たり。生まれてきた子供の体に『前世』の人物の死亡時の身体的特徴があらわれていたり。生まれ変わったという子供が、『前世』の人物の死亡時の様子や家族関係、住んでいた場所などを知っていたり。それから、子供が『前世』の人間と類似した行動を取ったりとかね。しかし、私たちが陥っているこの現象は、それとは違う。同じ時代の同年齢の血縁関係にない女性に一年前に死亡した親友の記憶が転移された、なんて聞いたことがないわ

 輪廻転生とか、生まれ変わりとか、超心理学の世界か、スピリチュアルの世界で解釈されることが多いけれど、でも、この第一ユニバースの記憶転移装置の話を考えると、心理学ではなく、物理学的現象なのかしら、と思えてくるのよ)

(あなた、高校の頃から頭が良かったものね。よく知っているわねえ)
(異常心理学や超常心理学は私の専門ですもの)
(この人格が融合したらどうなるのかしら?)

(複雑な一つの人格になると思うのよ。奈々と絵美が交互に現れては消える面白い人格が形成される。あなたの肉体を使っているので、肉体の人格への影響があるから、奈々の人格の方が強く出ると思う。人格が交代してもだんだん違いがなくなってくるでしょうね)

(脳は私のものを使っているから、定常処理のルーチンも私の脳の能力次第、ということ?あら?私、よくわかるわ)
(同じデータベースを使っているようなものよ。だからわかるのよ)

(あら、絵美、あなたと私の彼氏のお戻りよ)

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 部屋に戻ると、絵美はバスを使っているようだった。バスルームのドアを開けると、絵美がバスタブの中から「明彦、一緒に入らない?」と言ってきた。ぼくは服を脱いでバスタブに潜り込んだ。二人一緒は狭い。絵美は脚を広げて「ここに脚を入れるのよ。挟み付けてあげるわ」と言った。「絵美、股間が丸見えだよ」と言うと、「何をいまさら。ああ、そうか。私のは見慣れているけれど、奈々のはあまりじっくり見たことがないのね。ほら、じっくり見なさい」と恥ずかしいことを言う。

「え?何?奈々?さっきあなたが考えたことを本当にやるな!ですって。恥ずかしいって?処女でもあるまいし、二十八才の経験豊富な女性が何を言っているの。マジマジと見られるのは恥ずかしいって?そう、じゃあ、恥ずかしついでに、広げてあげましょうか?隅々まで明彦が見えるように。あなた、言っていたじゃない?『明日の昼まで、二十七時間半、私のことを隅々までアキヒコは知ることができる』って」

「絵美、ナナを虐めちゃダメだよ」
「虐められると奈々はもっと興奮するのよ。ほら、どう?明彦?解剖学的な知見は?感想は?」
「ちょっと、絵美・・・」

 絵美はぼくの手を取って、彼女のあそこに触れさせた。「ね?トロッとしているでしょ?濡れやすいのね。ああ、だからか!奈々があまり前戯を必要としないのは?なるほどねえ。ねえ、奈々のここ、同じ女性として見ても、かなりキレイよ。恥毛も薄いし。私のがコンパクトなのに比べて、これは薔薇ね。いいなあ。ムダ毛も処理されている。どうかな?」
 
「絵美、どうかな、って感想を聞かれても・・・だいたい、その格好自分ですごいと思わない?ぼくを脚で挟み付けて、絵美は奈々のあそこを両手で開いていじっているんだよ?」

「エヘヘ、他の女性のあそこをマジマジと見るなんて経験ないんだもん。え?止めてって?いいじゃない、減るものでもなし。もうちょっとあなたのあそこを鑑賞させてよ。メラニン色素の沈着もないし。どれどれ?奈々は何人くらいと?・・・あなた、中学の時から?親友の私にも言っていないじゃない?え~、奈々、ストライクゾーン広すぎ!明彦、奈々はね、五十三才の男性との経験もあるのよ、大学の頃。三十人以上?私なんか、明彦の前に処女を捨てた一人だけで、経験二人よ!そんなにヤリマンで、よくこんなキレイな色を保てたわね。体質なのかしら?でも、明彦、キレイでしょ?」

「キレイだと思うよ。絵美と同じくらいだ」
「お世辞?」
「いいえ、解剖学的な知見からの感想です」
「アリガト。え?奈々がね、人のオ◯ンコを見て感想を言い合うな!って怒ってるわ。いいじゃない、キレイだって褒めているんだから。え?今度、私が表に出たらアキヒコの顔を見られない、恥ずかしいですって。意外とウブなのね?奈々は」

「明彦、クリを触ってみて。あら、クリはそれほど感じないのね?私はクリが好きなのに。私のより小さいわ。え?クリよりもあそこ?明彦、指をいれてみて・・・あ!ほんとうだ!これはすごい!え?もうちょっと奥?明彦、奥だって。そうそう、そこで指を曲げてみて。おお!奈々、そこね?う~ん、クリの真裏かな?そこを指先でこすってもらうの?明彦、円を描くようにこすって。あ!ダメ!」絵美は、あれ?ナナかな、彼女は腰をガクガクさせて逝ってしまう。
 
「絵美、三人でセックスしているような気がするんだけど・・・」と明彦。
「だって、三人じゃないの、事実。明彦、気にしないで。今晩は三人でするのよ。順番で。奈々には悪いけど。え?こういうのもいいの?奈々?あなたがいいなら、交代して奈々が出てきても三人で楽しめるわね。え?奈々、なに?指の挿入では交代は起こらなかった、あなた、実験したのね?ですって。そうよ。御名答です。さあ、明彦、お風呂はもういいでしょ?ベッドに行って、奈々と交代しましょ」

 絵美はぼくの脚をはずすと、サッと立ち上がって、シャワーをちょっと浴びて、汗だけ流した。バスタブから出て、タオルで上半身をふきだした。ぼくも立ち上がって彼女の体をふく。脚をバスタブの縁に上げさせて、つまさきから太ももにかけてタオルで水分を拭う。股間にもタオルを当ててぬぐった。絵美も同じことをした。「え?なに?奈々?あなた方って、普通にそういう拭き方してるの?ですって?おかしいかなあ?ねえ、明彦、メグミちゃんとはこういう場合どうしていたの?」

「メグミとは・・・別々に体を拭いていたような気がする」
「奈々がなぜアキヒコはメグミさんとは違って、絵美と体を拭きあっているの?と聞いてるけど?自然よね?」
「うん、自然とそうなっちゃんだろうかなあ・・・」

「じゃあ、奈々は?奈々はいつも男性とどうしていたの?男性を拭いていたけど、自分は自分で拭いていたの?ふ~ん、でも、どうされたかったの?アキヒコが絵美にやったように、丁寧につま先から拭いてほしかった、のだと思う、だそうよ。体の拭き方ひとつとってもカップルによって違う。明彦みたいに女性によっても拭き方が違うのねえ」
 
 絵美は、サッサとベッドシーツを剥がし、バスローブだけで、ピローを背にしてベッドに座った。ぼくも隣に座る。彼女の肩に手を回して抱きしめる。

「私、彼女と喧嘩しているわけじゃないのよ。いろいろ話して仲が良くなって、共感が増したの。それでね、私たち、人格が融合しているみたい。いつなのかわからないけど、私の独立した人格は奈々に吸収されるかもしれない。消えてなくなるわけじゃなくて、奈々もいなくなって、二人の新しい融合人格になりそうなの。だからね、その前に、奈々と私と別々にいっぱい愛してね」と絵美は言うと、ぼくが帰る前に風呂の中で奈々と話したことを説明してくれた。
 
 ぼくは、絵美と奈々がいなくなってしまうかもしれないことに寂しさを覚えた。絵美でもない、奈々でもない、融合した人格なんて、想像もつかなかった。しかし、一人でも大変なのに、二人が融合しちゃったら、もっと大変にならないかな?

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第一ユニバース

 第二への転送が終わって、恵美は装置から出てきて、開口一番、
「向こうの絵美が私をホテルの部屋から追い出したのよ。『ここは第二。明彦は私の彼氏です』とか『ここは私と明彦と奈々との三人だけにして』とか言われたわ。失礼しちゃうわよね!」
「恵美、あなた『第二での行動は向こうのメグミちゃん次第だよ。私の責任じゃありません』って言ったでしょ?その言葉、そのままお返しします。『第二での行動は向こうの絵美次第、私の責任じゃありません』」
「まあね、しょうがないか。でも、悔しいから、明彦にチュ~してやったわよ」
「まったく、子供っぽいことして、しょうがない人ね。ところで、小平先生と宮部くんと洋子にメールしたわ。宮部くんと洋子は、まあ、その程度の第二への干渉なら問題ないって。予定がつき次第、ここに来るそうよ。小平先生はオカンムリでした。なぜ、そういう面白いことに最初からワシを混ぜないのか?ってさ。私と湯澤くんが怒られたわ」
「ぼくはキミらの言うとおりにやっただけだけどね。なんでぼくが怒られないといけないのか・・・」と湯澤。
「まあ、とばっちりでした。ゴメンナサイ。それで、ビルに連絡してもオッケーだと言うことで、ビルにメールしたの。そうしたら、すぐ折返し通話があったの。『そういう話なら、1986年のぼくの財務状況を調べて、三百万ドルあるかどうか確認する。多分大丈夫。それより、記憶転移装置を見たいから、プライベートジェットですぐ来る』って。『できれば、ゲイツ財団かマイクロソフトで装置を扱わせて欲しい』って言ってきたけど、これは国家機密に等しい、誰も彼もこの装置を使えたら、世界がグチャグチャになるでしょ?もっと時間をかけて検討しましょう、と言っておいたわ」と絵美。
「う~ん、一歩前進ね。あとは、あなたの持っている第二の絵美の記憶を基にこちらのブッシュとか調べて、検討しないといけないわね」と恵美。
「CIAやFBIがらみだから、ビルの協力が必要だわ」
「ゆっくり時間をかけて検討しましょう」

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