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第一章 奈々(絵美)と明彦、第五話 転送

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買い物が終わって、部屋に戻った二人、いや、三人。目をあけていればナナだが、目をつぶれば絵美だ、などとナナの苦情も無視して久しぶりにラブシーン中の明彦と絵美。そこで、第一の絵美が記憶転移した。メグミちゃんも記憶転移して、ホテルの部屋に乱入したので、当然、もめます。

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第二ユニバース
第一章 奈々(絵美)と明彦
第五話 転送
1986年10月11日(土)

 絵美は多少緩めのショーツを数枚買った。ブラも胸を誇張するものではなく、装着感の良いものを買った。奈々のワンピースよりも地味でシックな絵美好みの服も買った。奈々はそんな色気のないものをとブツブツいっているそうだ。

 ミラーを見ながら、「ほぉら、奈々、落ち着いた良い雰囲気じゃない。下着も食い込まない。胸も強調しない。たまにはいいでしょう?こういう格好?ダメかなあ?ほら、この胸だって。お尻も見てご覧なさいよ」とぼくに語りかけるふりをしながら、奈々と喋っている。胸を持ち上げたり、後ろ姿でお尻を突き出したり。
 
 自分の中にこういう親友がいて、いつも話せる、ってのは悪くないかもしれないと、一瞬思ったが、例えば、ぼくのともだちの湯澤研一がぼくの中にいて、こういうことができるだろうか?と疑問に思った。これができるのは、ナナと絵美みたいな間柄で、なおかつ、女性じゃないと無理だろうな、とぼくは思う。男性は常にお互いが競争者であって、一夫多妻制で、同じ相手を好きになった女性同士が感じる友情などありはしないのだ。一妻多夫制では、ほとんど夫は留守だ。そこが男と女の違いだな、とぼくは思った。
 
 下着、服の買い物が済むと、絵美はリカーショップに行こうと言う。ルームサービスで『私の』お酒を頼むと、明彦、さすがに、あなたのお財布に響くでしょう?と彼女はいうのだ。
 
 それはそうだ。シャンパンのノンビンテージやマーテルのXO、バランタインの三十年なんて、ルームサービスで注文していては、何十万円請求されるかわからない。かといって、リカーショップで買っても高いのだけどね。

 さすがに、絵美は遠慮してくれて、ノンビンテージじゃない、普通のモエットシャンドンと普通のマーテルのVSOP、バランタインの十七年を買おうと言ってくれた。「これでいいよね、足りるかな?」という。「大丈夫じゃないか?」とぼくは言う。遠慮してくれたけど、まあ、かなりのもんだよ、絵美。トリスとか角瓶まではレベルを落としてくれないんだからね。
 
 リカーショップを出て、ホテルに帰る道すがら、絵美とナナが内部で喧嘩している。一応、絵美は通訳してくれている。あなた、お酒なんて普通のスパークリングワインでいいじゃない?ウィスキーはサントリーの達磨でいいじゃん!明彦にお金を使わせてあなた楽しいの?とナナが言ったとか、私は飲むお酒であまり妥協できないんです、と絵美が反論したとか。

 どっちもどっちかもしれない。奈々は、積分値でお金を使う女、絵美は微分値で瞬時にお金がかかる女。こりゃあ、地方の会社に就職して、そこにあるの居酒屋の娘と結婚したほうが幸せかもしれない、とぼくは思った。二人でギャアギャアいっているが、キミらと一緒だと、積分値と微分値を合わせたお金が必要なんだよなあ、とぼくは思った。もう、離れられないんだけどね、キミらとは。やれやれ。

 部屋に戻った。ぼくは早速、ルームサービスにシャンパンクーラーとかアイスバケットに山盛りの氷、グラスを三個とか注文した。グラスは三個でしょう?ナナに交代したら必要じゃないか?シュリンプカクテルとかつまみも注文する。
 
 絵美はソファーにさっさと腰掛けて、自分の隣をバンバン叩いて、明彦はここに座って、などという。「お預けで、寸止め状態だったら、奈々は交代できないでしょう?」と刺激的なことを言う。内部でナナが文句を言っているようだが、無視している。
 
 目をあけていればナナだが、目をつぶれば、ハスキーボイスは別として、口調は絵美なのだ。ぼくは、目をつぶって、絵美に(ナナに)キスをした。抱き合って、じっと相手の唇と舌をまさぐる。ぼくは、死んじゃった絵美が生き返ったことを実感した。

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 ドアベルが鳴った。ルームサービスが来たようだ。メイドがトレイに乗せた注文の品をソファーテーブルにおいていった。ぼくは、シャンパンをクーラーにセットして、ルームデスクにおいた、タオルをしいて。バスタオル、ボディータオル、ハンドタオルも足りなくなると思って、ぼくは追加で五枚ずつ頼んでおいたのだ。
 
「明彦、ちょっと頭痛がする。後頭部が熱いよ」と絵美が言う。アイスバケットの氷をハンドタオルでくるんで、絵美の後頭部にあてがう。「ああ、気持ちいい、楽になった。ありがとう、明彦」と絵美がナナの表情で言った。これは混乱するな、とぼくは思った。ぼくらは十数分、キスしていた。
 
 絵美、さびしかったよ、とぼくは彼女に言う。わたしも、と絵美が言った。ところが、目を閉じていた絵美が急に目を見開いた。「あ!」と叫んだ。

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 その時、部屋の内線電話が鳴った。無視しようか?とも思ったが、絵美をそっとふりほどいて、ぼくは電話を取った。

「もしもし?」
「宮部様、外線が入っております。今おつなぎいたします」とコールセンターの女性が言う。1980年代だから、コールセンターの女性が外線はマニュアルで各部屋につなぐのだ。
「もしもし、明彦、ひっさしぶり。私、だぁ~れだ?」と声が聞こえた。これはまぎれもない、元カノのメグミの声。「ちょっと、なぜ、ここにぼくがいるのが・・・」と答えた。
「いいから、いいから。側に奈々さんって女性がいるんでしょう?でも、絵美さんなのよね?明彦、何も言わずに、彼女に電話を代わって」
「キミはなぜ、それを?」
「いいから、いいから。彼女はもうわかっているはずなんだから。代わって」とメグミは言う。わけがわからなかったが、
「絵美、電話だ。これ、メグミっていう・・・」と言い出すと、
「いいのよ、明彦。あとで説明するから、電話を代わって」と絵美は言った。

 絵美はわけのわからないことをしばらくメグミと話していた。第二の状態は理解したのね?人格融合はうまく行った。限定的な記憶データの送信だったけれど、概略の話はわかった。第一の絵美は心配しているんだけど、あなた、私たちに変なことしないでしょうね?そう、安心したわ。え?今、あなた、タクシーで来るの?ふ~ん、いいところだったのに。明日にしません?え?ダメだって?しょうがないわね。じゃあ、来るといいわ。部屋番号は518よ。と、絵美は電話を切った。
 
「絵美、どういうこと?」とぼくが絵美に聞くと、
「話せば長いのよ。今、明彦の元カノの恵美さんがここに来るわ。この世界では、私は彼女と初めて会うのよね?でも、向こうでは仕事仲間だから。もちろん、奈々は初めて会うのね。え?奈々、なんですって?あなた、私の新しい記憶域を読めるわよね?状態はそういうこと。わかった?理解できないですって?驚いたの?でも、それが事実よ。ちょっと、明彦に説明しているんだから、邪魔しないで・・・ゴメンナサイ。え~っとね、奈々はわかりかけているけれど、今の私に融合した記憶は、1985年のこの世界の死んだ絵美の記憶だけじゃないの」

「別の宇宙の、未来の別の森絵美の記憶の一部が私の中に入ってきたの。明彦の知っている絵美じゃないのよ。恵美も同じ。この宇宙の恵美だけじゃないの。別の宇宙の恵美の一部が来たの。そういう転移装置が向こうにはあるのよ。驚くのも無理はないわ。でも、落ち着いて。キスの続きをしましょうよ、恵美が来るまで・・・」と強引に絵美は唇を合わせてきた。ぼくは錯乱していたが、絵美の舌がぼくの舌を探して、絡めてくると、抵抗できなかった。

 ピンポーンとドアベルが鳴る。ぼくより先に絵美が立ち上がってドアを開ける。「こんばんわ~」といつものメグミが部屋に入ってくる。「え?あなたが奈々さん?」と奈々の体の上から下まで眺めて言う。「恵美、今は絵美です。奈々はここ」と言って自分の頭部を指差す。「ここにいるのよ」
 
「すごいボディーね。これは男を惑わせるわ。ねえ、絵美、胸を触らせてよ」とメグミがナナの胸をもんでしまう。
「こら、あ!、ダメ!恵美!止めて!この体、感度がすごいんだから。え?奈々?なに?メグミはレズかって?違うわよ。恵美!止めなさい!」
「う~ん、ポヨンポヨンだわ」と感心する。

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 わけがわからなかったが、別にナナが、いや、絵美がメグミと喧嘩しているわけではない。しかたがないので、ぼくにできることをした。そう、酒を作って、三個頼んだグラスの最後にウィスキーを注いだのだ。メグミはロックだったよな?と思って、「メグミ、酒!」と手渡す。メグミが「アリガト」と言ってグラスを受け取った。

 絵美が「座って話そ」と言って、先にソファーに座った。隣にぼくも座る。その隣に、当然のようにメグミが座る。
 
 絵美とメグミは驚くべき話をした。宇宙は一つではないこと。無数の宇宙が存在すること。それをマルチバースと呼んでいること。この宇宙の近くにも非常に似た宇宙があって、それは第一ユニバース、第三ユニバースと呼ばれ、そこの住人はこの世界を第二ユニバースと呼んでいること。そして、第一、第二、第三、それぞれに、ぼくも、絵美も、恵美も、洋子も、そしてたぶんナナも存在していること。

 まず、最初に第三の2010年から第一の1978年に向けて、ぼく、絵美、メグミと洋子の記憶が記憶転移装置というもので転送されたこと。その情報を基に第一のぼくらが科学技術を発達する後押しをしたこと。

 第三と第一は極超新星爆発によって引き起こされるガンマ線バーストのために、生物種の90%以上が、もちろん人類も含めて絶滅してしまう可能性があること。それが起こるのは第一と第三の2025年頃らしいこと。第三の時間軸は、第一と第二よりも二十五年進んでいること。

 第二はガンマ線バーストの影響を免れそうなこと。こういう動きを邪魔する新世界秩序という組織があること。絵美がニューヨークでその組織を調べている途中で殺害されたこと。そして、この組織の概要を知っているのが、この第二の絵美であること。もっと、調査を進めて、その情報を基に、第一、第三の同じような組織の妨害を阻止したいこと。そういうことだった。信じられない。

 第一ユニバースのメグミは、むこうのぼくが学会で留守なので、帰り次第、メグミと絵美に入ったような情報記憶をぼくにも送信する準備をしていると言う。既に、今までの絵美とメグミの情報記憶は、第一に転送されたそうだ。
 
 いつもチビチビとお酒を飲む絵美が、ブランディーのロックをグイッと空けた。「つまり、私たちは、もう今までの生活はできないってこと」
「ちょっと、待ってよ。ぼくにだって、勤務先がある。そんなことをする貯金や資産はないよ」
「それは大丈夫。マイクロソフトって知ってるわよね。その創始者のビル・ゲイツを知っている?」メグミが絵美の空になったグラスにドボドボとブランディーを注いで氷を入れた。
「ビル・ゲイツという人のことは知らないけど・・・」とメグミはぼくのグラスにもウィスキーをドボドボ注いだ。もっとゆっくり飲まないと酔っ払うじゃないか?

「彼も第一と第三では協力してくれたの。わたしたちに資金を供給してくれて。それで、第一のあなたは、株売買で巨額な資金を作ったのよ。簡単な話よ。第三の2015年までのアメリカ株式市場の株価の推移を知っていたんだから。それを第一の類似体に教えたの。ここでも同じことをすればいいだけ。マイクロソフトを初めコンピュータ産業の企業株はこれから十数年で六百倍から千倍になるから」

「ふ~ん、それで、これからどうする?」
「私たち三人で・・・あ、ごめんなさい、奈々もいれて四人でニューヨークに行って、あなたが知り合ったノーマンとマーガレットから情報を得て、死んだ私の調査を続けるのよ。新世界秩序の情報を調べるのよ。もう、第一にはここの洋子がモンペリエで法学の助教授をしていることがわかっている。第一の洋子は、今フランスにいるの。向こうでは法学の専門家じゃなくて、素粒子物理学者。欧州原子核研究機構に所属しているのよ。彼女の記憶もモンペリエの洋子に転送するわ。それで、私たちは五人になる」

「湯澤くんも送っちゃえば、六人じゃない?」とメグミ。
「恵美、おだまりなさい!湯澤くんはイヤだって言っているんだから。あなた、向こうで約束したでしょ?おかしなことはしないって」
「絵美、第一の加藤恵美博士が言ったじゃない?『第二での行動は向こうのメグミちゃん次第だよ。私の責任じゃありません』って。私がその第二のメグミちゃんですからね」

「あ~、ややこしい。とにかく、恵美、おかしなことは許しません!」またメグミがブランディーを注いだ。
「固いこと言っちゃって。まあ、いいわ。五人で調査をしましょう」と自分にもドボドボ注いだ。

「あ!ダメだわ!この体、こんなに飲んだらダメなのよ。え?何?奈々?酔っ払ってきたって?そうよ、私もそんなことわかるわよ、同じ体なんだから。ウズウズしてきたですって?た、確かに、ウズウズしてきたわね」

「絵美、その体、なんなの?それに奈々さんと話していると独り言で言っているみたいで、まるでキチガイよ」
「絵美の体じゃないから、敏感なのよ、奈々の体は。生理前三日だし、欲しくなるのよ」
「あ~あ、あの謹厳実直の絵美が、淫乱になっちゃったってこと?」

「そうよ。仕方ないじゃない?さあ、恵美、これでだいたいここの状況がわかったわよね?連絡先も交換したし。宴もたけなわ、そろそろ、恵美、お開きにしましょう」
「絵美、まだ、お酒もいっぱい残っているし、まだお開きは早いのじゃないの?」
「ダメよ。お開き。またの機会にお話するとして、今日はお帰りください」
「え~、絵美、冷たいじゃん?なぜ、私がいちゃダメなの?」
「ダメよ、ここは私と明彦と二人だけ・・・いや、奈々との三人だけにしてくださいな。お願い。久しぶりなのよ」

「絵美、そもそも、第一でも第三でも、あなたは明彦に興味なかったじゃない?」
「恵美、ここは第二。明彦は私の彼氏です」
「絵美、まずね、あなたは内側にいるから自覚がないけれど、あなたの体は奈々さんなのよ。絵美としての実体はもうないのよ。奈々さんが明彦の彼女ならわかるけど、亡くなった絵美の彼氏って何?それから、ここ、ここっておっしゃいますけど、記憶域を探ってみればいいわよ。明彦の彼女は、あなたより私が先でしょう?」
「そ、それは・・・」
「そうでしょう?思い出してご覧なさい。明彦の彼女の真理子、その親友の私とあなたよりも先に明彦とセックスしたのは私です!」
「・・・ちょっと、奈々、余計なことを言わないで!なんですって!明彦は『彼女の親友とセックスするのは始めてなんだ』とウソを言ったですって?・・・確かにそうよね。え?その後、恵美さんから彼を奪い取ったのは絵美よね?ですって?まあ、結果として・・・」
「あなたがた、内部会話は後でやって。元カノだろうが、私にだって、明彦とお酒を飲む権利があります!明彦、注いでよ!」

 いい加減、ウィスキーもブランディーも半分以上空いてしまった。夕食を食べていないので、酒の回りが速い。

「恵美、とにかく、今日は土曜日なんだから、明日も会えるでしょう?このホテルには昼までいることだし。え?奈々のマンションがあるから、そこでも打合せできるって?そうよね。恵美、今日のところはお願い、許して」
「わかったわよ。今日のところは退散します。悔しい~。明彦!せめて、一階のタクシー乗り場まで送ってちょうだい。絵美と奈々はここに残っていいわよ。残ってね!」

 ぼくとメグミは、エレベーターで一階まで行って、タクシー乗り場に並んだ。

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第一ユニバース

 チェレンコフ光のような青白い輝きが徐々に消えていった。二台の記憶転移装置が停止した。先に、絵美が装置を出てきた。コネクターをはずす。すぐに恵美も装置を出て、コネクターを外しかけた。

「恵美、コネクターを外すのはちょっと待って」
「え?なんで?」
「恵美は、どこまで第二の恵美の記憶を転送できた?」
「私は、自宅で第二のメグミに転送が起こって、偏頭痛と後頭部の発熱で水枕を準備しながらホテルに電話するところまでだった。ホテルに行くのに着替えをしているところ」
「私は、下着とかお酒とか、銀座で買い物からホテルの部屋に戻ってきて、お酒を飲む準備をしていて、明彦とキスしているところまで、記憶転送ができたわ」
「そう、そうすると、向こうの恵美がホテルに電話して部屋に行くってことね」
「なるほどね。考えたんだけど、向こうは活動資金がないと彼女らが仕事を辞めてアメリカに行って調査を始めることはできないじゃない?だから、活動資金を与えないといけない。ビルに連絡して、この事情を説明するのよ。新世界秩序の調査をするなら、彼も理解してくれるはず」

「それで、どうするの?」
「こちらのメンバーじゃあ、第二の彼女らに活動資金を送ることはできない。だって、向こうの私たちもそんなお金はないから。第二の小平先生も洋子も湯澤くんもそんなお金は持っていない。でも、向こうのビルは持っているでしょ?」
「あ!わかった!こっちのビルをここに呼んで、第二のビルに部分記憶を転送して、あっちのビルから活動資金を誰かに送らせる、ということ?」
「そう、こっちのビルが納得してくれて、ここに来てくれないとダメだけど。でも、第二のビルにも1986年からのアメリカ株式の動向データを送信すれば、彼の利益にもなって、こちらの活動資金なんてすぐ埋められるでしょう?それがうまくいくという前提で、向こうの恵美に外貨口座を開かせておかないと、1986年の日本は、為替自由化はかなり進んでいたけど、銀行口座にマルチカレンシー口座なんてないから、第二のビルの送金ができないのよ。三百万ドルくらいあれば足りるでしょう。だから、この話を伝えるために、もう一回、向こうに転送して欲しいの」
「わかった。絵美、頭いいじゃない?」

 二人の会話を聞いていた湯澤が「それは、第二の未来の改変になるんじゃないのか?第二が分岐して、あるべきだった世界と改変された世界に枝分かれしないか?」と絵美に聞いた。
「第一も第三も、もうこれまでにさんざん未来を改変しているけど、枝分かれしていないじゃない?もしも、既に枝分かれしていたら、こちらだって、あるべきだった世界の私たちの類似体がこの装置で探知できるでしょう?第二の場合は、ビルから活動資金を恵美に送金させるだけなんだから、問題はないでしょう?それに、私たちだって、新世界秩序の彼らの調査情報が必要なんだから」
「たぶん、ユニバースの柔軟性があって、第一、第三の、ぼくたちが与えた改変程度は吸収してしまうのかもしれない。理由はわからないけどね。了解。恵美をもう一度向こうに送ろう。恵美、準備して」と湯澤。
「絵美は死んじゃっているんだから、口座を開くとか、私しかできないわよね。ハイハイ、行きましょう」

 また、メグミは装置に入って横たわった。湯澤が装置を稼働した。


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